今日は休もう
やっとこさ、世界樹の迷宮5の10階をクリア
……なんかこー パンチ力に欠けるのは、スキルのビルドが悪いんだろうか。うぬぅ。
結局あの後、ジェルがてきとーに作った料理が食卓に並び、気を良くしたグラディンさんがワインを出してきて、一気に宴会みたいになった。この世界では成人は大体十五歳くらいで、その前後からお酒を飲むようになるそうだ。そんなわけで、ソフィアも飲むのは問題なし。あたしの周りだと、リリーが年齢的にちょっと怪しいかな? ただまぁ、女性陣の中ではサクさんとミスキスが飲むくらいで、他の子はあたしも含めて基本的に飲まない。ただ飲まないと飲めないはまた別ではあるが。男衆はジェルが飲まない、くらいだ。
あたし達もたまには良かろうとアルコールが入って陽気にやっていたが、酔った振りして狐と狸がジェルに肉感的に迫っていたので、引っぺがすのに苦労した。……意外と嫌がるんだよね、ジェルって。
「私の精神衛生上の理由で、ご勘弁願いたい。……そう、お互いにね。」
なんかCMっぽい言い回しで不敵っぽい表情を浮かべるジェルだが、他の人たちには分かりづらいかなー でもまぁ、言わんとしていることは理解してくれたようで、カエデもグラディンさんも今のところは諦めてくれたようだ。油断できないなー
ちなみにこのグラディンさんは王都コンラッドでも有名なグラディン商会の創始者だそうで、実際の経営は他の人に譲渡したそうだが、それでも影響力は残っているらしく、商会のお金を適当に使って商売人を続けているそうだ。で、今あたし達がいる建物がグラディンさんが自分の商売をやるための個人的な商館というから驚きだ。
個人的な倉庫に個人的な繋ぎ場や馬屋、商談や宿泊にも使える三階建て(+地下室付き)の建物と個人レベルとしては結構な資産じゃないだろうか。
厨房からリビングルームに移動して、お茶を囲んでアルコールを抜きながら歓談をする。
「それでのぉ、一つ相談というか、お願いなんじゃがな。この建物を自由に使ってよいからの、あの『雄牛の角亭』みたいな設備ができんかのぉ。」
やっぱり酔ってなかったのか、一息ついた辺りでグラディンさんがもう切り出してきた。
「…………」
「難しいかの?」
う~ん、とジェルが唸る。
「まず、パンサーにそんなに資材を積んでいないのが一つ。ですから必要最低限、水回りの一部と、給電――チャージシステムくらいですね。」
「「水回り!」」
狸と狐の耳がピン、と立つ。
「水回りと言うとアレじゃな。はばかりじゃな。」
「後はシャワーやろ? ジェラードはん、助かるさかいに。」
グイグイ迫ってくる獣人二人をあたしに押しのけさせると、ジェルはバーチャルディスプレイを開いて建物の構造図を呼び出す。
「建物の図面なんてないでしょうしねぇ。」
「あるぞい。ちょっと待っとれよ。」
グラディンさんが使用人に一言二言告げると、ペコリと頭を下げて出ていく。
その間にもドローンで建物を分析しているのか、ディスプレイ上に立体映像で建物の構造が映し出される。
「ふ~ん……」
建物のあちこちにマーキングをしていくと、グラディンさんの表情が徐々に固くなる。
「の、のぉ、ジェラード殿。その、色を付けた部分は何かの?」
「……いえ、興味は無いのですが、隠し部屋や通路も確認しておかないとですね。」
強度の問題とかもありますし、とポチポチキーボードを操作して大まかなレイアウトを決めていく。
「リビングとして使っているのが二階なので、二階まで持っていきたいですな。後は…… 部材を書き出しますのでそれの調達をお願いいたします。」
「お、おぅ、そうじゃの。」
印刷用の箱型汎用作業機械から出てきたプラスチックペーパーをグラディンさんに渡すと、隣に座っていたカエデに手渡す。
「よし、明日探してこい。」
「ウチかーっ!!」
「これも訓練じゃ。行ってこい。」
「へいへーい。」
もう、とブツブツ言いながらも、プラスチックペーパーを眺めて、あれやなこれやな、と構想を練っている。
使用人が戻ってきて、ゴワゴワとした紙の束をグラディンさんに手渡す。一瞬、振り分けようとして無駄であることに気づいて、ため息交じりにジェルに手渡す。受け取ったジェルが隣にいたキューブに乗せると、キューブがそれを取り込んでいく。
「基礎部分に関しては図面と大差ないですな。大体方針は決まったので、後は明日です。さすがにもう夜も更けてきましたので、そろそろ……」
「おう、そうじゃな。騎士団のお客人も本日は疲れておると見える。」
ずっと黙っていたかと思ったら、座ったままコックリコックリ舟を漕いでいる。
なるほど、あたし達はそうでもないが、車での移動は慣れない人には結構負担だったかもしれない。
「ふむ、そうじゃな。……で、部屋はいくつ用意すればよい? 二つか? 三つか? それともワシと一緒でもよいぞ?」
ひぇひぇひぇ、と見かけは妙齢の美女の癖に、言うことがどうも老婆だ。狸、って肉食獣だったっけ? 後で聞いたら、肉食と草食の間の雑食だとか。……いや、それはどうでもいいや。
「問題が無ければ三部屋お願いします。私の使う部屋には机があるとありがたい。」
「……ふむ、良いじゃろう。」
側にいた使用人にその旨を伝えると、新たに来た使用人に案内されて、それぞれ一部屋ずつに案内された。
「…………」
寝付けない。
先日は魔力とやらを消耗して、すっかり披露していたし、薬も飲んだのですぐに眠れたが、今日はそんなことも無く、ただただ天井を見つめるだけだ。
明りは一切ないのだが、窓の外から星や月の光が降り注ぎ、意外と明るく感じられる。目の前に手をかざしたら、十分手のひらが見えるくらいだ。
「…………」
物音も何も無く、逆に静かすぎて変なノイズが聞こえてきそうだ。
「…………」
やっぱり寝付けないので起きる。
さっきも言った通り、それなりに見えるので、歩けないほどではない。迷いもせずドアを開け廊下に出る。無論誰もいない。
「何かあったら」と聞いていたジェルに割り当てられたドアを何も言わずに開けて、中にズカズカ入る。
「ラシェル?」
予想通り、ジェルはまだディスプレイに表示された図面相手にモチャモチャやっていた。
面倒くさいので相手もせずに、部屋に一つだけあるベッドに潜り込む。程々の大きさがあるので、端に寄っておけばスペースはあるだろう。どうせ今は使ってないんだ。知らん知らん。
ゴロリと背を向けて横になると、後ろで小さくため息をつくのが聞こえた。
キーを叩いたり、ブツブツ呟く声をBGMにしながら、あたしはゆっくり眠りに落ちていった。
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