知り合いに連絡をつけよう
ん~ なんか調子が出ん。
やっぱ寒さ暑さがグルグルしているので、疲労が疲れるのですなぁ。
皆さまも布団や暖房の調整に気を付けて、ご自愛のほどを。
王都内に入ってからも我々の苦難は続く。
「まぁ、何となく安全なのは分かるが、さすがにこいつで中心区まで行けないぞ。」
〈でしょうね。〉
現在進行形でピックアップトラックのワイルドパンサーは注目を浴び続けている。窓は黒く変色されたので中は見られてないが、おそらく王都でも有名人な王子とかギルさんとか見られたらもっと騒ぎになるだろう。
「こうなったら知り合いに連絡をしてみますか。」
知り合い? いたっけ?
……あ、いたな。
「というわけで、パンサー、呼んでくれ。」
〈えっと…… はい、というか、私は直接の面識がないのですが。〉
そういやぁ、そうね。インパクトがあるから印象に残ってるけど、意外とハンブロンの町にいなかったのよね。一度戻ってきたけど、すぐとんぼ返りしたし。その後か、ワイルドパンサーが動かせるようになったのって。
その後、鉱山でムカデや巨大ミミズが湧いて来たり、へっぽこ騎士団と喧嘩したり、魔獣の群れを撃退したり、となんとも土産話が多くなりそうだ。
〈とりあえず、汎用箱型作業機械を通してコールしてみますね。〉
小さく電子音が聞こえると、しばらくして回線が開く音がする。
『ん? なんや? ジェラードはんか?』
女性の声が聞こえてきた。
「モウボクハアナタトイッショニイラレマセン。サヨウナラ。」
ジェルが作った声で返すと、向こうから慌てた声が聞こえてくる。
『ちょ、ちょっと待てな! 今自分らいなくなったらメッチャ困るやんか!』
本気で困ってるようなので、ジェルの脇腹にツッコミを入れる。
「やめい。」
「あいた。」
『……ん? 今の声はラシェルとジェラードはんか? なんや、またジェラードはんの悪ふざけかいな。』
安心したわぁ、と胸をなでおろす姿が見えるようだ。って、なんか今ちょっとイラッときたかも。
『おい、狐娘。誰と話して……って、お主、そのキューブとやらを話し相手に……』
『なんや! ウチはそんな寂しん坊やないで! ……いや、それでもええか。』
『そもそも、それと話すって…… 婿殿か?!』
「「「婿殿?!」」」
車内の三人の視線がギロッとジェルに向く。
「お前はもう少し誠実な奴と思ってたがな。」
「俺もてっきりその娘だと。」
「自分も距離感を見てそうだと。」
王子・ギルさん・ソフィアに次々と責めるような口調で言われる。
って、どういうこと?
ちなみにジェルを「婿殿」呼ばわりしたのは、狸獣人の商人のグラディンさんだ。どこがいいのか分からないが――いや、嘘だけど――ジェルのことを気に入ったらしく、ことあるごとにそう呼んでいる。今のところは当たればラッキーくらいだが、本気で攻め込んでは……来ないよね?
「グラディンさんもあんまり変なこと言うと、カエデさんのあられもない姿を王都中に映しますよ。」
『ぬぅ、仕方があるまい。お主を手に入れるためなら狐娘の一人や二人!』
『待て待て待てぃ! 冗談でもそれアカンで! しかもマジでできそうだからもっとアカンやろ!』
今のやり取りで微妙な誤解は解けたようだが、ギルさんが不審げな顔をする。
「グラディン、と言ったな。」
『知らん声の奴がおるのぉ。
いや、待て。聞いた記憶がある。確か…… そうじゃ、お主、あの時ハンブロンの町におったな。』
「…………」
ギルさんがしまった、って顔で口を閉じる。
『のぉ、婿殿。あの時の声の主とすると…… そこにいるのは誰じゃ?』
「誰でしょうねぇ。」
『まぁよい。後程聞くとしよう。』
空惚けるジェルだが、グラディンさんは気にした様子もない。
『ちょい待てなぁ。ジェラードはん、ウチに声かけたんちゃうか?』
が、カエデはえらい気にしてる。
『ていうか、ラシェルもおるねんな。
……な~んか、ヤな予感するんやけど、自分らどこにおるん?』
「どこでしょうねぇ。」
『そこでボケんでええ!
ありえんと思うんが…… なぁ、もしかして王都におるんか?』
「その通りで。
ちょっと馬車じゃないけど馬車っぽい乗り物で来ているので、そういうのも入れられるような宿屋を紹介して欲しいのですが。」
『そんなら……』
『それなら儂の店を使うとええ。店まで来れるか?』
すかさずグラディンさんが割り込んできた。
(店か。やはり“あの”グラディンか。)
ギルさんが聞かれないように呟く。
「分かりました。そちらにお伺いします。それでは。」
通信を切ったジェルが、後部座席を振り返る。
「皆さんはどうしますか? ソフィアさんはさすがに戻る時間が早すぎるから数日は大人しくした方が良いかと。
で、お二人は?」
「さすがにこれ以上戻るのが遅れると文句言われそうだな。」
「そうだな。それにルビリア王女の件も早急に対応しなければならないしな。」
王子もギルさんもさすがに戻らないとダメらしい。
「ちなみにこの距離だと転移は楽になるんですか?」
「……そうだな。精度も良くなる。」
あんまり誤魔化しても無駄と思ったのか、ギルさんが素直に答えてくれた。
「ただ、城には魔法を阻害する結界があるから、転送用のポイントを用意してある。」
「なるほど…… ちなみにここから転移できます?」
パンサー、ジャミングだ、とジェルが小さく呟く。
「いや、問題ない。」
目を閉じて何かに集中したギルさんが、小ぶりの杖を取り出して、ブツブツ唱え始めて、驚いたように目を開く。
「お前、何をした。魔素が集まらないぞ。」
「……なるほど。さすがに転移くらいの魔術だと、周りから魔素を集めなければならない、ということか。」
「……!」
驚くギルさんを横目に、コンソールを操作して通信妨害を解除したジェルがパンサーに指示を出すと、ゆっくりと走り出す。
「仕掛けは解除したので、多分もう大丈夫かと。このまま行くと、例のグラディンさんとご対面となりますので、移動するならお早めに。」
「……相変わらず気に入らん奴だな。」
「が、ギルも案外気に入ってるんだろ?」
また悪気も無く王子が言うので、無言で怒り顔になると、王子の顔にアイアンクローを喰らわせながら素早く呪文を唱えると、二人が魔法の光に包まれたかと思うと、光が握りこぶし大くらいに縮んで、窓のガラスをすり抜けて飛んで行ってしまった。前見たのとは違うので、おそらくは高速移動に近い物なのだろう。
夕暮れの王都を色んな視線を浴びながら移動していると、目の前に大きな建物が見えてきた。どうやらここがグラディンさんの店らしい。狐と狸の獣人の女性がこちらを指さして驚き顔になっている。
なんかこう久しぶりにカエデとグラディンさんに会ったのだが、あ~ また説明とか大変そうだよ。まったく。
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