王都に到着しよう
なんか台風が近づいているそうです。
北海道には月曜日に上陸らしいですが、ちょうどその時函館に行かないといけないのですよね。
大丈夫かなぁ……
道なき道をワイルドパンサーが進む。
とはいえ、岩山乗り越えてとかそういう訳でもない。元々形状がピックアップトラックで車長があるので、そこまで走破性は高くない。それでもタイヤが大きめに作られているのと、パワーがあるので平地であればそんなに走るのには苦労しない。それこそ馬が曳く馬車と違って四輪駆動なので今のところ動けなるようなことはないし、平坦なルートを通っているので、揺れて揺れて気分が悪くなることも無い。
速度は八十キロくらいだろうか。無論だが信号も無いし、歩行者が飛び出してくることも無い。気を付けるとするならば動物だろうが、生体センサーは当然ついているのでそれに引っかからない存在がいたとしたら…… まぁそん時はぶつかってもクレームが来ないと思うし、最悪の場合はしたくは無いがブーストジャンプという荒業もある。
いやぁ、跳ぶんだ。あんな図体の大きいピックアップトラックが人の身長を遥かに超える町を囲む塀を跳び越えるんだ。
さすがにサスペンションとかあっても、飛び上がる瞬間と着地の瞬間は酷い。一度経験したが、一度で結構だ。
まぁ、ブーストジャンプのお世話になることも無く、盗賊とか魔獣に遭遇することも無く、日が傾く前に大きな「何か」が見えてきた。
おおっ!
なんかデカい…… なんだ?
「ん~ ちょっと失敗しましたね。」
運転席でハンドルに体重をかけながら前を見ているジェルがちょっと残念そうに呟く。ちなみに自動運転モードだからハンドル回しても動かないけどね。
「何が?」
「ええ、先にドローン通して見てたので、ちょっと感動が薄れたな、と。」
なるほど。
ジェルの言わんとしていることは分かる。
比較対象が無いので分かりづらいが、高い壁に囲まれた都市が見える。その高い壁よりも高い建物がある。周りを尖塔が囲んでいるのでお城なんだろうな。
さすがにミニチュアを建てたテーマパークってことはないだろから、そう考えるとメッチャ大きい。
あたし達の世界にだって巨大な建物や都市はあるが、それは色んな重機があってこそのものだ。その前提として材料を軽量化したり、材料そのものの強度じゃなくて構造で強度を稼いでいるので、実際に重量物を積み重ねて何かを建築することは少ない。それこそ型枠を作って、後はコンクリートを流し込めば巨大な物を作るのはそう難しくない。
が、今あたし達の目の前にあるのは、おそらくは巨大な石を切り出してほぼ人力で組み上げた壁なのだろう。そりゃ魔法なんて便利な物もあるだろうが、魔法使いなんてそんなにいるわけでもなく、それこそ都市を囲む壁を作れるほどの魔法なんてそんなになかろう。
「もしかしてですけど、魔法でエイヤって作れるわけじゃないですよね?」
「さすがに無理だな。」
ギルさんに聞いたらそう答えてくれた。
「王都コンラッドは、最初の王がここに建国を初めて何百年もの時をかけてここまで大きくした、と記録されている。」
なんでも最初は城の周りにしか壁が無かったが、徐々に人が増え周囲の土地が開拓されると、さらに壁を作っていったそうだ。
ジェルは知ってるらしいが、この都市は同心円状に広がっていて、真ん中に行けば行くほど古い、そして「上」の区画となる。
「気の遠くなるような話ですな。」
「だが、それだけの歴史が残っているのは誇らしいことでな。
そう考えると、文明が遅れているのも案外悪くはない。」
そう締めくくった。
さて、それはともかく。
あたし達もそろそろ街道に戻った方がいいような気がするが、当然ながらそうなると色んな人に目撃されることになる。狐耳の商人カエデの話だと、彼女の暗黒馬車(無論ジェラード謹製)はまだ馬が曳いて馬車の形をしているので、そこまで注目されなかったそうだが、ワイルドパンサーに関してはこの世界に概念すら存在しない乗り物だ。
なんでもこの世界には「古代の魔道具」って便利な言葉があるらしいが、どこまで通用するか。
まぁ、今は王子とか凄腕の魔法使いが一緒にいるからどうにかなるか。
ハンブロンの町を出てから、すげー久しぶりに(って何時間って話だが)街道に戻ってきた。さすがに王都が目に見えるくらいの距離なので馬車も人もたくさんいる。
更に言うと、王都に入るには入り口で色々検査があるらしい。そのため沢山の馬車や人が列をなしている。
ジェル曰く、こういうところの門は開いている時間が決まっていて、それを一分一秒でも過ぎれは門は閉鎖される。それ以外の時間は、緊急時を除いて誰も通さないそうだ。
そうなると、中途半端な時間に着いてしまった場合は野宿することも普通で、そのため壁の外とはいえ、いろんな屋台や、それこそ簡易宿屋みたいなものまで見える。何とも逞しいというか何というか。
とりあえず、今の列の最後尾につけてみたが、これはしばらくかかりそうだ。もしかしてあたし達も野宿コースか?
まぁ、パンサー自体には色々装備が積んでいるからそこまでハードなことにはならないと思うが……
「分かっててやってるのか?」
「いやぁ、一度は体験しておいた方が良いのかと。あと正確に言うと、どちらに向かえば良いのか分からなかったので。」
「む……」
ジェルとギルさんの微妙にトゲ混じりの会話で思い当たった。こういうところに来るのは一般市民や冒険者、商人たちに交じって王族や貴族、後は御用商人とかもいるだろう。じゃあ、そういう人たちが普通に並ぶか。そんなわけないか。
「大門の右側に優先用の門がある。そっちに向かってくれ。」
〈了解です。〉
「ちなみに反対側は?」
ジェルの指摘通りに大門の左右に一回り小さい門があるが、今は両方とも閉じられている。必要に応じて開閉するようだ。
「あれは『出る』専門だな。」
「なるほど。」
え? どういうこと?
「おそらくですが『追放』とかに使われる半ば儀礼的な物なのかと。」
なるほどぉ、と話していると、あっという間に右側の門が近づいてきて…… あっという間に複数の兵士?に囲まれて、手にした身長よりも長い槍を突きつけられる。
「強行とっ……」
「頼むからするなよ!」
ギルさんに被せ気味に遮られて、残念そうにそっぽを向く。
「なんだこの怪しい……何だ?」
魔獣にも見えないし、自走する乗り物という考えにも至らないだろう。
「宮廷魔術師のギルバードだ。」
後部座席の窓を開けて(事前に説明した)ギルさんが窓から顔を出す。
「ギルバート様! その、これは……」
「これは……」
言いかけたギルさんが遠い目をして小さく息を吐く。
「何なのだろうな。」
切ないことを言わないでくれ。
「ともかく、現在研究中の、その、大型魔道具だ。……ええと、通ってもいいか?」
なんか自信なさげな問いかけをすると、兵士たちもお互い顔を見合わせて、パンサーに目を向けて、おそらく戦っても勝ち目が無さそうに感じたのだろう。
道を空けるように左右に並んで、おそらく隊長格の人が敬礼をした。
「どうぞお通り下さい。」
その先の閉じていた門がゆっくりと開かれて、そこを色んな視線を浴びながらゆっくりパンサーで通っていく。ジェルがぽつりと呟いた。
「なんかこう…… 釈然としませんな。」
自業自得だろうが、おい。
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