出かける準備をしよう
地震による停電はすでに一部を除いて回復しましたが、長時間の停電による生産と流通の混乱も一通り収まったようです。スーパーやコンビニにもボチボチ物が揃ってきました。
とはいえ、小さな地震が一日何度も起きております。
今回の震源地ではそれなりの震度のことでしょう。被災地の皆様の苦労がしのばれます。
ジェルの処方してくれた栄養剤と睡眠薬の効き目はバツグンで、すっきりと目が覚めた。
右見ても左見ても誰もいない。
先に抜け出たというか、そもそも最初から最後まで一人で寝かされていたようだ。
「…………」
この世界に来て初めて一人で寝てたようだ。あ~ 正確に言えば、シルバーグリフォンで寝泊まりしていた時は一人だったけど。
身体を起こしてみると、こちらに背中を向けて椅子に腰かけているジェルの姿が見えた。
「ジェル……?」
「おっと、」
ピクン、と反応すると、慌てたようにジェルが振り返り、あたしを確認すると開いていたディスプレイをパタパタ閉じてから、再度振り返る。
「おはようございます。」
「あ、うん、おはよう。」
ずっと起きていた訳じゃないだろうけど、夜更かしと言うか徹夜しながら、椅子でウトウトしてたってとこか。
別にベッドで寝ればよかったのに、ってあたしが先に寝てたからか。
「身体の具合はどうですか?」
「ちょっと寝すぎたからだるいかも?」
「どれどれ……」
いつもの変な器具であたしの目を覗き込む。
「やはり何もおかしいところはないですね。もう声は聞こえないんですか?」
「うん……」
昨日まで、あたしの頭の中にはルビィって女の子の声が聞こえていた。この町に魔獣が攻めてきたときに、彼女の力も借りて魔獣を召喚していた者を突き止めたが、その直後あたしは気を失った。その時、別れの言葉を聞いたので、本当にどこか行ったのか、戻ってしまったのだろう。
「とりあえず今日はそれなりに忙しくなる予定です。まずはお風呂にでも入ってきたらいかがですか?」
おお、確かにそうだ。昨日はシャワーすらできなかったから、そこから始めなければ。お腹もすいてるが、後回しだ。
欠伸混じりのジェルに部屋を出てってもらって、着替えてから階下に降りてまずはお風呂。見られると恥ずかしいシーンはカットして「雄牛の角亭」の店内に戻ると、アイラが作ってくれたフレンチトーストをガッツリ食べて、色々落ち着いたところでたくさんの視線があたしに向いてるのにやっと気づいた。
「ラシェ姉ぇ、大丈夫? って聞こうと思ったけど…… 元気そうだね。」
「あれだけ食べて具合悪いって言ったらビックリよ。作り手としては嬉しいけどね。」
リリーとアイラがそんなことを言ってくる。
うるさいやい。あたしとしては半日以上ぶりの固形物なんだ。そういやぁ、昨晩はきっとみんなでワイワイ盛り上がったんだろうなぁ。掃除とかはしたんだろうけど、まだ微妙にアルコールの臭いがするような気がする。
……ジェルはずっとあたしのそばにいたんだろうか。まぁジェルはそんなにワイワイ騒ぐのが好きなタイプではないが、それでも、とは思う。
どうやらあたしは遅起きだったようで、朝食はあたし達が最後だったようだ。落ち着いたところで、さて、とジェルが切り出す。
「さて、これから一人の女の子を助けに行こうと思います。」
おおっ。
「そこで協力者を呼びたいと思います。」
そこまで言うと、他のテーブルにいた――そういやぁ、珍しく客がいるんだ――人たちが合わせて四人、あたし達のいるテーブルに着いた。
内二人は第八騎士団の戦乙女と老騎士のコンビ。もう二人はフードを被った顔の分からない胡散臭い二人組だ。けど、どっかで見たことあるようような……?
「……この四人が集められた、ってことは、そういうことか?」
ハンスさんが怖いくらいの真剣な顔で聞いてきた。
「……まさか、」
フード男がテーブルに手をついて身を乗り出す。勢いあまってフードが取れてその顔があらわになった。ワイルド系の美形が、前見た時のヘラヘラした感じでも、王族でもなく、肉親を心配する一人の男の顔を見せていた。
「妹のことか!」
王子だ。……そうか、ルビィが王女様だとしたら、前にも聞いた二人いる妹の一人か。
「落ち着けバカ王子。」
正体も隠す必要が無いのでギルさんもフードを取る。この国、コンラッド王国の第一王子と、そのお目付け役の魔法使いの二人組だ。
「ラシェル、すみませんがリボンを外してくれませんか。」
「?」
訳が分からんが、言われた通りポニーテールをまとめているリボンをほどく。腰近くまであるサラサラの金髪にはそれなりに自信がある。それこそリーナちゃんにも唯一勝てそうな部分だ。
「……やっぱり似てる。」
「ハンス団長……」
「おい、あれ。」
「ああ……」
四者が言葉少なに驚愕する。
え? なになに?
「ギル。」
「わかった。」
王子がギルさんに言うと、ギルさんが懐から短い杖を取り出して、ごにょごにょ呟いた後に杖をテーブルの上に向ける。
杖の先の空間が小さく光る。少し光が大きくなったり小さくなったりしながら、解像度の悪い立体映像みたいなものがあらわれた。。
そこには赤い目と長い金髪の女の子が浮かんでいた。
目の色を変えて、もう少し大きくしたらあたしにそっくりかもしれない。
「この子が……」
「ああ、そうだ。俺の大事な妹で、この国の第二王女のルビリアだ。」
なるほど、身内が言うのだから間違いないのだろう。あたしの頭の中で料理やお風呂で騒いでいた女の子の声が思い出される。
「ルビィは少し前に外で襲われて、それ以来目覚めてない。」
「ああ、絶体絶命の時に姫様は禁断の召喚魔法を用いて儂らを助けてくれたのに……」
ハンスさんが拳を音が出そうなくらいに握りしめる。
もしかして、それってあたし達が「召喚」されたときの話か?
ジェルに視線を向けると、見えないくらいに小さく頷いた。やっぱりそうか。
「その姫様が、この世から姿を消しそうになっているのだ。仕事さえ無ければ今すぐ戻って姫様の元にいたい……」
戦乙女も辛そうに拳を握りしめる。なんかずっと気を張ってるように見えたが、それが原因か。
ジェルがもういいよ、って顔をしてると思われたので、手早くリボンで髪をまとめる。
「私にも確証はないのですが、おそらく彼女がルビリア姫を助ける鍵になるかと思います。」
「乗った。」
王子が決意を秘めた顔でそう宣言した。
ギルさんは目を閉じて少し考えるような素振りを見せたが、諦めたように首を振る。
「ゴルド王子の判断なら反対する理由は無いな。」
珍しくバカ王子呼ばわりをしないギルさんには反対する気は無いようだ。
「姫様を助けられるなら私はそれに従おう。」
ソフィアさんも表情を引き締め、ハンスさんも同じように頷いた。
「ただし問題がある。」
ギルさんが口を開く。
「今ルビリア姫は王都だ。ここから王都で早馬を使っても何日もかかる。俺の転移魔法はせいぜい一日一回か二回。それも俺ともう一人でで移動するのがやっとだ。」
なるほど。あたしだけ連れて行ってもジェルがいないときっとダメだし、王子も立場上戻らないとダメだろう。それだけですでに三人。馬で移動するよりはマシだが時間がかかる。
「その通りで。」
ジェルがどこかもったいぶるような口調になる。
「ですが、何人かでしたら今からでも夕方までに王都まで連れて行くことができます。」
「よし、なんか知らんが、俺は行くぜ。」
「軽率だが…… それしかなさそうだな。」
「ソフィア、お前も一緒に行け。儂はテオ達についてなきゃならんからな。」
「はっ!」
これであたし達を入れて五人というとこか。
「それでは三十分後に出発します。準備が済んだら店の前で待っててください。」
ジェルの言葉に騎士団組と王子組がそれぞれ動き出す。
「二三泊はすることになりそうですから、それなりに準備をしてください。」
ん、分かった。
……ルビィ、今から行くからね!
決意も新たに、あたしは準備の為に二階へ向かった。
最終目的、という訳ではないですが、グランドクエストの一つくらいとなるでしょう。
しばらくは王都でのラシェルとジェラードの活躍(?)となります。
ああ、そういえば王都にはあの二人組がまだいるかもしれませんねぇ。
お読みいただきありがとうございます。




