最後の後始末(その5)
諦めました。
あと一話あります。
多分この予言は当たる……といいなぁ(弱気)
「ジェラードさんとラシェルは?」
降りてきた二人にアイラが尋ねるが、無言で首を振られたので、小さくため息をつく。
「そっか。まぁしょうがないわ。いないのは残念だけど、それどころじゃないわ。」
厨房からアイラを呼ぶリーナの声が聞こえてきたので振り返って返事をするが、もう一度二人を振り返る。
「ジェラードさんとは話せたようね。どうだった?」
「ハカセ、特に何も言わなかったし、怒ってもいないようだった。」
「ちょっと拍子抜け。」
「……ジェラードさんもたまにガツンと叱ってくれればいいのに。」
二階の部屋の方を見上げて呟くと、リリーとミスキスが一歩下がる。
「それは……」
「……ちょっと。」
怒っているかどうか分からなかったが、ジェラードがこの三人を助けたときに多かれ少なかれ「敵」と対峙している。その時のジェラードはきっと何割かは「本気」だったのだろう。その時の目を自分たちに向けられた、と想像しただけでも恐ろしい。
「まぁ、いいわ。今はキューブの手を借りても足りないほど忙しいのよ。」
さぁ、働け働け、と発破をかけるアイラ。
「アイ姉ぇー あたしもミス姉ぇも今日は大活躍だったのにー」
「名誉の負傷……」
やんわりと抗議の意を唱える二人だが、仕事の鬼と化したアイラには通用しない。
「これからカイルさんとまでは言わないけど、リリー並みの腹ペコどもがわんさか来るのよ! マジで一分一秒が惜しいの!」
どこにそんな力があるかと思う勢いで、アイラがリリーとミスキスを厨房に放り込んだ。
まさにそこは戦場であった。
すでに戦いは終わっていたはずだが、戦火はこんな町の小さな宿屋にも飛び火していた。
材料はそれこそ大量にあるのだが、それの下ごしらえにマンパワーを必要としていた。汎用箱型作業機械たちも人手(?)としては十分なのだが、料理を手伝えるほどの器用さも無いので――そもそも「作業」機械だ――出来るのは材料のカットや調味料の調合に運搬が関の山だ。
「はい! 皆さん、まずはこれに串を打ってください!」
リーナにしては珍しく、切羽詰まった口調で大量の金属の串と肉と野菜の入ったボウルを指さす。
串打つ道具さえ作れば、後はキューブたちの人(?)海戦術でどうにかなるのだが、そんなもの作ってる暇があったら、まずは人が手を動かした方がいいという判断なのだろう。
多分、下手に反論したら次は「ご飯抜き」というこの地上で最も忌むべき罰を受けることになるだろう。今日はあれだけ頑張ったのだ。そして目の前には大量の肉がある。ここは自由への逃避よりも、苦役への奉仕の方が輝ける未来を描けるはず。なんて自分を鼓舞しながらリリーは大量の肉と野菜の山に挑みかかるのであった。
ピックアップトラックのワイルドパンサーが解体された魔獣の肉や素材、魔素の塊である魔石などを積んでは運んで降ろし、を何度か繰り返して、どうにかこうにか魔獣の処理は終わった。
最後に現れたワイバーンは亜竜と言われるが、魔獣としては相当の上位種で、それこそこの辺に生息するロックバッファローよりも遥かに強力な個体であった。その肉に骨、皮などの素材は高価で取引されている。しかも羽の損傷が大きいものの、尻尾と首を切られて倒されたので傷が少なく、さらに高値が見込まれた。
冒険者ギルドが素材の売却を仲介し、その売却益の何割かがハンブロンの町に税として納められる。ギルドの副マスターのガイザックとしても、領主のジェニファーとしても、魔獣の大量発生を死者重傷者を出さずに収められた上に、ウッハウハなことになって安心と同時に笑みがこぼれる。
すっかり「何か」忘れていることなんて気づかぬほどに。
戦闘中に踏みつぶされたり、他の魔獣に半ば食べられたりと使えなくなった部分はまとめて穴を掘って埋めたり、魔法で焼いて処分する。他の動物や魔獣を呼び寄せないようにするのと、それこそ死体が動き出すような世界だ。油断はできないのだ。
町の南門から四列縦隊で男たちが戻ってくる。大通りを規則正しく進んでいくと、魔獣を撃退したことが伝わったのか、町の人々が感謝の声がかけられる。その度に立ち止まっては敬礼を返し、また進んでいく。
その後ろから、冒険者と町の衛視の集団がドヤドヤ歩いていく。先を歩く隊列の規律の良さに、自分たちもちょっと胸を張りながら後をついていく。
ほどなく一団は一軒の宿屋の前に着いた。
大人数が来ることが分かっていたので、外にテーブルが置いてあり、食器類がセッティングされていた。
「よく一人も欠けずに戻ってきた。何よりそれが嬉しい!」
「「「サー、イエッサー!」」」
先に戻っていたカイルの声に力強い返事が返ってくる。
「十分に腹が減ってるだろ? 喉も乾いているだろ? 気持ちは分かるが、まずは自分たちの姿を見てみろ。とてもメシが喰えるような状態じゃないだろ?」
「「「サー、イエッサー!」」」
「外に簡易シャワーを用意した。順番に身体を洗って、新しい服に着替え、宴の準備だ。今日はお前たちだけじゃないから、疲れているとは思うが、もう一頑張りだ。」
「「「サー、イエッサー!」」」
隊列を崩さずに店の横に急遽作られたシャワールームへと次々に入っていった。
リーナとアイラが用意した特製バーベキューソースに漬け込まれた肉が串に刺されて炭火で焼かれて香ばしい匂いが広がる。
ワインやらエールやら、それこそ「雄牛の角亭」くらいでしか飲めないビールっぽい物に蒸留酒を炭酸で割ったハイボール的な物と色んなお酒が配られた。
騎士団見習いのテオ達、ガイザック率いるこの町の冒険者、バモン率いるこの町の衛兵たち、そして「雄牛の角亭」の面々がが一堂に料理と酒を囲む。第八騎士団の二人や、謎のローブの二人組も席についている。
「本来は別の祝勝会のはずだったが、急遽こういう形で皆の慰労を祝う会となった。」
領主のジェニファーが乾杯の音頭を取る。
「この町に魔獣が攻めてきた理由は不明だが、無事撃退することができた。この町を代表してお礼を言わせてもらおう。
この町にたまたまいた勇気ある者たちに感謝と祝福を。
……なんてことより、こんな料理や酒を前に無駄な口上は不要だな。
今日は皆よく頑張った。乾杯!」
「「「乾杯!」」」
あちこちから料理や酒の美味に歓声が上がる。ここの味を知らない者からするとさぞかし衝撃的だろう。
空腹を満たすための食事が終わり、酒を楽しむ余裕ができたころに、やっと調理を担当してた女の子たちにも余裕ができる。それこそ後はキューブたちに任せておいても大丈夫だろう。
「アイ姉ぇ~ リー姉ぇ~ お腹減った~」
絵に描いたような腹ペコ姿のリリーがその場に崩れ落ちる。
「お待たせしました。どうぞ。」
皿に乗ったバーベキューの串と飲み物をリーナが差し出すと、目を輝かせてかぶりつくリリー。
「おいしー!」
「自分も食べる。」
こっそり確保しておいて串をあむあむと食べ始めるミスキス。
そしてアイラとリーナは調理の最中に実際に「味見」をして、意外とお腹が膨れていたりする。
ざっと宴の様子を眺めていたアイラが、小さくため息をつく。
「そろそろ軽めで目先が変わった物を用意した方がいいかしら。」
「……そうですね。何か材料を見て考えましょう。」
リーナと頷き合うと、厨房の方へ戻っていく。あー 大変大変、なんて口では言うが、アイラも楽しそうだ。
更に町の人も巻き込んで、この日の宴は夜遅くまで続いた。
……ただ、一部の人たちには、この場にいるはずの二人がいないことが、どうしても気にせずにはいられなかった。
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