最後の後始末(その4)
おおおおおおおおっ!
これだけ書いたのにまだ終わらない!
……もう一話で終わりたい
ヒューイが耳に手を当てて、独り言のように何か言うと、町の方からピックアップトラックのワイルドパンサーが自走してきた。
テオ達と町の衛視たちは見慣れているが、冒険者の中にはしばらくハンブロンの町を離れていた者もいたので、生物とは思えない金属の塊がひとりでに動く上に、
〈お待たせいたしました。〉
流暢に喋って会話しているので、驚きはひとしおである。
「おう、来たな。まずは肉を積んでくれ。」
両手に肉の塊を下げたカイルを筆頭に、次々と荷台に魔獣を解体した肉が乗せられていく。
〈随分ありますね。〉
「全然足りねぇよ。今日は腹いっぱい喰うからな!」
カイルと一緒に肉を運んでいた男たちがカイルの声におおっ! と拳を突き上げる。
「わりぃがアイラたちは店に戻って、色々準備しててくれ。
と、アイラは大丈夫か?」
「あ、はい。もう平気です。」
先ほどの戦いの中、ほとんど魔法が使えないはずのアイラが、ジェラードとラシェルのピンチに無理して魔法の火の玉を放ったのだ。魔力を瞬間的に使いすぎて立てないほど疲弊していたが、時間が経つにつれ回復した。魔法に詳しい謎のローブ男曰く、魔力を限界まで消耗すれば魔力の上限が増えて、もしかしたら普通の「魔法使い」になれるかもしれない、とのことだ。
「すぐに戻って準備しますね。」
と、今のところは「雄牛の角亭」を離れる気は無いようだ。
リリーにリーナ、ミスキスと一緒にパンサーに乗り込むと、店へと戻っていった。
「よし、とっとと片付けて、旨いメシ喰うぞ!」
「「「おおっ!!」」」
「雄牛の角亭」に到着したパンサーに汎用箱型作業機械がとりつくと、荷台に積んだ肉を次々と裏庭に運んで、下処理を始める。別のキューブたちが店の外にテーブルを運び出しては組み立てていく。
「よし、あたしとリーナは料理の準備。ミスキスは食器とかを準備して。
あと、リリーは……」
どこか表情の硬い少女を見て、二階の方に目を向けて、アイラが小さくため息をつく。
「まずはジェラードさんと話してきて。先延ばしにしたら、言えることも言えなくなるわよ。」
「う、うん……」
「大丈夫、」
アイラがちょっと昔を思い出しながらリリーを優しく抱きしめる。
「すっごいいじめられたら、お姉ちゃんが逆に怒ってあげるから。」
「アイ姉ぇ……」
昔の呼び方になったリリーに、そういえばいつから呼び方変わったっけな、とそんなことを考えていた。
コンコン。
ガチャ。
「どうぞ。」
「ひゃっ!」
二階のジェラードとラシェルの部屋のドアをノックすると、心の準備も出来ていない内に内側から開いた。
いつも通りと言えばいつも通りの微表情なので、ジェラードが何を考えているかは分からない。
「まずは中へ。」
「は、はい……」
何か分からない作業をしていたのか、室内のテーブルの上にいくつかのバーチャルディスプレイが展開していた。
二人部屋のため、二つある椅子の片方を勧める。リリーも入り口までは来たことあるが、中に入るのは初めてで、キョロキョロしながら中に入る。
室内にベッドが二つあるが、片方は使ってないのか、荷物置き場代わりにされていて、もう片方には金髪の少女が寝かされていた。
「ラシェ姉ぇ……」
「まずは済みませんでした。」
「え?」
椅子に座って、また作業をしていたジェラードの言ったことが分からずに身体ごと振り返って聞き返す。
「ラシェルのことに気を取られ、最後まで確認しないで戻ってしまいました。その結果リリーを危険な目に遭わせてしまった。」
「…………」
「私らしくない、と言うのも言い訳じみてますが、その……」
「ラシェ姉ぇが心配だったんだよね。」
「……素直に言えばそうですね。」
淡々と語るジェラードに、リリーは首を傾げる。
「どうしました?」
「いや、ラシェ姉ぇ、って凄いな。ハ……じゃなくて、ジェラードさんの表情が分かるなんて。あたしには全然分からないから。」
「そう、ですか。」
「……あれ? 今ちょっとがっかりした?」
なんかそんな気がした。
「どうでしょうねぇ。」
今度は何か誤魔化しているように感じた。
「…………」
「…………」
リリーがジェラードをジッと見つめて、沈黙が二人の間に降りる。
「ハカセ、ごめんなさい。約束破って無茶して命を落とすところでした。あと、空飛ぶ板壊しちゃいました。」
不意に呼び方を元に戻して、リリーがペコリを頭を下げる。
「そうですね。」
「お尻ペンペン……ですか?」
「それは忘れてください。」
「……ラシェ姉ぇの前だから?」
「誰ですか、そんなこと教えたのは。」
はぁ、と疲れたような息をつく。
「とにかく、その言葉がちゃんと言えたのですから、私からは言うことありません。
もうすでにたくさん叱られたでしょうし。」
リリーがうえぇ、と苦い物を飲んだような顔になる。
「随分薬が効いたようで。
十分反省しているようですが、それでも『次』があったら躊躇わないのでしょうねぇ。」
「…………」
たぶん否定出来ない。
「行動的なラシェル、となると、私の苦労も倍増ですな。」
やれやれです、と淡々とした口調だが、言葉通りじゃないどこか温もりが感じられた。
「本気でボードに関してはどうでもいいです。あんなもんいくらでも作れますし。
ただ、あんな怪物相手に足止めにもならなかったのは釈然としませんな。」
「え?」
話の流れが脈絡もなく物騒な方向を向いたのを何となくリリーは感じた。
「運動データから考えると、もう数割出力を上げてもいいですな。そろそろ風に対するフィールドをつけた方がいいですか。あとは武装ですが、やはり…… おっと。」
リリーが引き気味になったのを見て、ラシェルと違ってツッコミは弱いですね、と内心呟くジェラード。
「えっと?」
「あ、ホバーボードはまた作りますよ。それともいらないです?」
「その、あったら嬉しいけど……」
「あと、そこに隠れているミスキス? そろそろ戻らないとアイラに怒られませんか?」
「ちゃんと許可はもらった。」
「うわぁ!」
全然気配を感じなかったミスキスの登場に思わず声が出てします。
「手渡しで返す約束。」
「はい。」
スタンブレードを受け取ったジェラードが、軽く手を振っただけで、その手の中から魔法のように消え失せる。
「ゴーグルやスタンバトンは結構です。何かに使ってください。そういやぁ、ミスキスのボードも壊れたんですな。何か強化しますか?」
「……分からないから、面白げな感じで。」
「分かりました。何か考えましょう。」
「お願いした。」
喋ることも無くなったのか、また沈黙が降りる。これだけ色々話してたのに、ベッドの中のラシェルは目覚める気配すらない。
「ねぇ、ハカセ。ラシェ姉ぇは……?」
「……大丈夫なの?」
「薬を飲ませて、寝かせています。強制的に休ませないとよろしくないと判断しました。
……そろそろ皆さんが戻ってくる頃でしょう。下に降りてはいかがですか?」
と、部屋のドアの方を指さすジェラード。
「ハカセは……?」
「私はここにいます。色々とやらなきゃならないこともありますので。」
それを聞いてリリーとミスキスが少し寂しげな表情を浮かべたのに気づいて、言葉を追加する。
「後でいいので、食べる物を少しお願いします。私の分だけで結構です。
あとリーナに言って、少しごちそうを取っておいてください。目が覚めた時にラシェルが暴れたら怖いので。」
『誰がよ!』とツッコミも無く、眠り続けるラシェル。そちらを見るジェラードの目に何かしらの色が見えて、リリーとミスキスが顔を寄せ合う。
(ラシェ姉ぇ、やっぱり手ごわい。)
(でも羨ましい。)
「どうしました?」
何でもないです、と二人同時に首を振ると、ジェラードとラシェルを残して下の階へと降りていった。
お読みいただきありがとうございます。




