最後の後始末(その3)
え~と、前回あと一話、って言いましたが、もっと長くなりました。
たぶん次で終わる……かもしれない。
「怪我したやつは下がれ!」
冒険者ギルド副マスターのガイザックの指示が飛ぶ。
「次に残党狩りと解体組に分かれろ。無理に倒す必要はない。追い払うだけでいい。
あとズルはするなよ。知ってる奴は知ってると思うが、バレた時が怖いからな!」
茶化した口調で言うが、実際にそういうことをして怖い目に遭ったという話が伝承的に冒険者の間で言い伝えられているので、黙々と真面目に魔獣の死体を解体する。
その光景を眺めながら、ガイザックがヒューイたちを振り返る。
「まぁ、何だな。こっちの世界の人間も結構やるもんだろ?」
「そうだな。」
「やるじゃねぇか。」
二人揃って大型の武器を構えていたヒューイとカイルだが、脅威が無くなったのを見て地面に降ろす。異世界の住人には、重戦車を一撃でぶち抜けるほどの兵器とは想像できないだろう。そもそも「重戦車」が分からないだろうが。
「お、今回の英雄のご帰還だな。」
前に向き直ったガイザックが、目を細めて遠くを見つめる。
そこには自分の足で歩いてくるリリーと、サクに小脇に抱えられたミスキスが見えた。
「さて、」
キリリとガイザックが表情を引き締める。
「叱るか。」
戻ってきたリリー達を待っていたのはたくさんの人たちであった。外傷はないものの、あちこちの筋や関節を痛めていたミスキスはすぐにリーナの手に委ねられた。
リーナが鎮痛作用もあるテーピングで素早く関節を固定して動けるようにする。それが終わると、何故かできている列の先頭にリーナが並ぶ。
よく分かっていないリリーを手先でチョイチョイと呼ぶ。何が起きるのか全然分かっていないリリーに対して、リーナが不慣れな感じでコホンと咳払いする。
「今からリリーさんを叱ります!」
「え? ええ?!」」
ちっともそんな感じに見えない。
本人は力を入れて怖い顔をしているつもりだが、元々の表情と雰囲気のせいで全然そういう風には見えない。が、じわっと表情が崩れる。
「凄い怖かったです。リリーさんが死んでしまうかと思いました。」
後は言葉にならずにリリーを抱きしめて肩に顔をうずめるように震えるリーナ。
「リー姉ぇ……」
「もうやるな、とは言いません。でもたくさんの人があなたのことを思っていることは忘れないでください。」
耳元で囁くように言われて、リリーも素直にうんうん頷くしかできなかった。
「じゃあ、次、俺な。」
リーナの肩をポンポンとガイザックが叩く。
「あ、はい、どうぞ。」
「え? えぇ?!」
もしかしてガイザックの後ろに並んでいる人達は……
「まず、お前の親父の分。」
ゴツン。
「そして俺からの分。」
ゴツン。
「いったぁ!」
そんなに力は込めてないが、いい音立てたゲンコツがリリーの頭に落ちる。
「バカな娘っ子がバカなことしたら、俺の代わりにゲンコ落としてくれ、って頼まれたからな。」
ちょっと照れくさそうにそっぽを向くと、今は亡き父親のことを思い出して、頭の痛みとは別にリリーが少し涙ぐむ。
「じゃあ、次は私だな。」
「え? 領主様……?」
領主のジェニファーがやや困った顔で立っていた。
「ふむ。私もどう叱ればいいか分からないが、ただ…… そうだな。アイラ嬢やリーナ嬢の料理もまだまだ食べたいし、キューブがいなくなるのも困るな。
……死というのはそういうものだ。君を守れなかったことに領主として力不足を痛感させられるよ。」
「……はい。」
「雄牛の角亭」の常連になっているとはいえ、本来はそんなに容易く会えない人に訥々と諭されてリリーが下を向いてしまう。
「次は自分ですね。」
「テオ……」
さっきまで魔獣相手に死闘を繰り広げていたテオが怪我らしい怪我もしてなかったので、そのまま来たようだ。
「無礼を承知で言わせてもらいます……」
固い口調だったテオが急に乱暴な物言いを始める。
「いいか! 俺たちが鍛えてるのは、お前みたいな奴を戦わせない為だ!
だから、その、なんだ、俺たちに少しは格好つけさせてくれ。」
以上です、と一方的に言って再び戦場の後始末へ戻っていく。
「次は拙者だな。」
「さ、サク姉ぇ……」
なかなか人が途切れない。
「うむ。」
しかし、サクとしても叱り方が分からないのか腕を組み、うぬぬ、と悩む。
「拙者から見たら、お主らはか弱い。容易く失われる命だ。だから拙者にとっては価値がない、とも思っていた。」
サクが少し身をかがめてリリーと視線を合わせる。
「しかし、違ったようだ。拙者は…… お主らがいなくるのは、その、寂しい、という感情なのだろうな。」
「…………」
「拙者からは以上だ。」
さっと身をひるがえすと町の中に戻っていった。
「じゃあ、次は俺だな。」
「うわ、カイル……」
「うわっ、ってなんだよ、うわっ、って。」
しょうがねぇなぁ、と困ったように頭をガリガリかいて、天を仰いで息を吐いた。
「まずヒューイな。あいつは『俺は叱れないな』って諦めた。俺も正直、よくやった! って言いたいところだが……」
あ~ 難しいなぁ、とボヤくカイル。
「まぁ、そうだな。ぶっちゃけ結果論だ。ミスキスにサクが間に合ったから生き残った。ただそれだけだ。」
「う、うん……」
カイルがその大きな手を振り上げる。思いっきり叩かれたらぺしゃんこになりそうなその手に思わず目を閉じて身を竦める。
ガシッ。ガシガシガシ……
自分の頭よりも大きい手が、やや乱暴ながらも…… おそらくは撫でてる。
首が前後左右にガクンガクン揺さぶられて、そろそろモゲてしまいそうな気がする。
「いたっ! カイルっ! いたっ!」
「お? おお、悪い悪い。」
リリーがホントに痛がっているのに気づいて、慌てて手を止める。
「カイル、それ子どもにやっちゃダメだよ。たぶん首取れる。」
「そうかそうか。次は気を付ける。」
「次があっちゃダメだってば!」
「あ、そうだ。」
不意に思い出してカイルがポンと衝撃波が出そうな勢いて手のひらに拳を叩きつける。
「分かってると思うが、最後はジェラードだからな。」
「……あ、うん……」
急にリリーから元気が失われる。
「大丈夫、お姉ちゃんも一緒に叱られる。」
「うん……」
テーピングのおかげで、激しい動きは無理だが、日常生活程度なら問題なくなったミスキスがリリーを慰めるように肩を抱く。
それでもリリーにとっての「ハカセ」に叱られるのが、というか、失望されたんじゃないかと思うと、リリーの心は深く沈んだままだった。
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