チーム・グリフォンの戦い
暦の上では秋になったそうですが、暑さよりも雨の方が気になります。
そろそろ気温の変化が激しい時期で、気をつけねば。
視点:三人称
不意にラシェルの周りに風が吹いた。
まるでそこが「目」であるかのように彼女を中心に風が巻く。
風速の割に何故か「重く」、風に煽られた髪が激しく揺さぶられて、まとめていたリボンが外れて、腰近くまである金髪が広がる。
ラシェルがさっきまで閉じていた目を開くと、本来は碧眼だったはずが、両目とも鮮やかな赤に変わっていた。
風を感じて彼女に視線を向けたハンスが驚いたように目を見開く。
「ひ、姫様……?」
その呟きにラシェルのそばにいたジェラードが訝しげな顔をする。そのことに考えを巡らす前に、ラシェルが苦しげな表情を浮かべたので、意識をそちらに集中する。
「ラシェル!」
一気に顔が青ざめて、足がふらついたのを見て、慌てて背中に手を回して身体を支える。
触れた感じ体温が低下しているような気がした。そして支えている手から何かが吸い取られる感じもする。
何か言いたげに唇を震わせるラシェルだが、何も言葉にならず、力の感じられない右手を無理やりのように上げて、一方向を指さしかけて脱力して手が落ちる。
全身の力が抜けて崩れ落ちそうになるラシェルを、素早く支えながら、ジェラードが最後に指さした方を向いて目を細める。
「リーナ!」
「は、はい!」
反射的に返事をしたリーナが、ジェラードが見つめている方向に目を凝らす。何かに気づいて、地面に置いてある装備品のトランクから双眼鏡を取り出して目に当てた。
「……ヒューイさん!」
「おう。」
「ヒューイさんの位置から方位一九二、距離おおよそ四千八百! 地面からおおよそ五十です!」
「了解!」
さっきまで使っていたレーザーライフルをカイルに投げ渡すと、大きなスコープのついた実弾ライフルを立射で構えた。
「……見えた。
なんか先端に変な石がついた杖っぽい物を持ってるな。」
「構わん、砕いてへし折ってしまえ。」
ラシェルの様子を見ていたジェラードが顔も上げずに指示する。
「ま、そんなとこだな。」
ヒューイの手が小刻みに動くと、ライフルの引き金を四度絞る。
次の瞬間、戦場の空気が変わった。それまで一方向を目指していた魔獣たちが、なぜか方向を見失ったように足を止めて困惑するように周囲を見る。一部では種類の違う魔獣同士が争いになっていた。
「……まぁ、いいか。」
ライフルを片付けながらヒューイがやや苦笑いを浮かべる。
「ん? どうした?」
手が空いたところで、カイルがさっき受け取ったライフルを投げて渡す。
「ああ。杖っぽいのに二発、膝に一発、なんか鳥みたいのに乗ってたのでそいつの頭に一発撃ち込んでみたんだが…… 動物相手だと思ったからホローポイントにしてたんだよな。」
「まぁ、そんな日もあるわな。」
気にするのを止めた。
「ところでギルバートさん、」
気を失ったラシェルを自分の白衣で包むと、ジェラードが後ろにいた謎のローブの人に話しかける。
「……ギルでいい。」
「じゃあ、ギルさん。広範囲に閃光を放つ魔法とかないですかね?」
「出来なくはないが。」
「三カウントくらいで行けます?」
「分かった。」
不承不承というほどではないが、どこか不満げに――もしかしたら普段からそうなのかも知れないが――短めの杖をローブから取り出すと、右手で握り左手の指を添えて呪文を唱え始める。
その間にジェラードが後ろに控えていたワイルドパンサーに指示をして、自分の声をドローンを通して戦場全てに飛ばさせる。
スリーカウントでギルバートの魔法が発動した。
直視したら間違いなく目に悪いどころか、それが最後の光景になってしまいそうな光が世界を白く染める。それは一瞬の出来事であったが、まぶたを閉じていても残像が見えるほどの光は魔獣の目を一気に焼いた。
「パンサー、ペンシルミサイルを一斉発射!」
(了解。〉
荷台に積んであったミサイルランチャーから、その名の通り鉛筆サイズのミサイルが数十本発射される。発射音が小さいのと、閃光に紛れてそれに気付いた者はほぼいない。
「全力で町まで逃げろ!」
統率が取れなくなり、閃光に目が眩んだ魔獣たちを尻目に全力で戻ってくる戦士たち。目安として大楯持ちのバズの後ろが安全地帯だ。
最後の三人が転がるように駆け込んできたところで、ジェラードが無数のディスプレイに目を向ける。ドローンたちを安全な高度まで退避させると、腕のコンピュータに指を滑らせた。
「上手く行ってくださいよ……
コロナバースト、ブレイク!」
閃光の最中に地面に突き刺さった無数のペンシルミサイルが一斉に炸裂した。放たれた熱光線が周囲の一気に空気を膨張させ、暴力的な熱風が吹き荒れた。
また、あちこちで野火が発生し、熱風に煽られて火勢が増す。魔獣とはいえ、元が動物である以上、基本的には炎を恐れる。自分たちを縛っていた何かが無くなり、閃光で眩まされ、熱風に炎が恐怖心を生んだ。
逃げ出そうとする魔獣たちだが、追撃を受け、生き残れたのはごく僅かであった。
「大丈夫そうですね。
私はラシェルを休ませて来るので、後はお任せします。……色々聞きたいこともあるでしょうけど、こちらにもありますので、それは後ほど。」
ワイルドパンサーにラシェルを乗せると、ジェラードはハンブロンの町の中へと戻っていく。
まだ魔獣の追撃はほぼ終わったが、地面を埋め尽くす大量の魔獣の処理がまだ残っていた。冒険者ギルドの副マスターであるガイザックの指揮の元、黙々と作業が始まった。
とはいえ、魔獣の素材や、体内にあるかも知れない魔石と呼ばれる魔素の塊は価値があるということで、疲れているはずだが喜々として行われてるようであった。
ラシェルが気絶しちゃうと一人称が使えなくなる欠点が発覚(何をいまさら)
次の章は章タイトルからネタバレになるので、今の章の後始末である程度情報を開示してからとなる予定です。
お読みいただきありがとうございます。




