それぞれの戦い
暑さもひと段落したんでしょうかね? 季節は秋になったそうですが、まだまだそんな感じはしません。やれやれ。
視点:三人称
事態は混迷を極めていた。
ハンブロンの町に迫りくる魔獣の群れ。魔獣とは普通の動物が魔素の多いところにいることによって独自進化したものなのだろう、と何となくジェラードは見当をつけていた。そうであるとすれば、当然ながら生息域にある程度のルールができるはずで、種類の違う魔獣が群れを成して一か所を目指すのはありえない。
そうなれば何かしらの「意図」が存在するはず。戦場を監視しながら四方八方にドローンを飛ばし「違和感」を探そうとするが、見える範囲にあるのかどうかすら分からない。
誰もが余裕を失っていた。
そんな中、一体の魔獣が色んな偶然を潜り抜け、無防備に立っていたラシェルに襲い掛かったが、小さい火を出すのが精いっぱいだったアイラが魔法で炎を放って怯んだ隙に謎のローブ男が魔獣を切り伏せた。
謎のローブ男が魔獣の群れに飛び込んでいって、少し流れが変わったような気がした。
未だに死者・重傷者は出ていないが、軽傷者が下がってくるペースが上がってきている。人は疲弊し、魔獣は次々に現れる。命に別状はないが、戦闘を継続するのが難しい人たちも徐々に増えていく。増援の予定もない。
(時間の問題か……)
敢えて口にはしないが、誰もが考えて、誰もが考えないようにしていることであった。
「はぁっ!!」
突撃槍を振るうと魔獣が吹き飛ばされていく。普通は馬上で使うような長さと大きさ、そして重さを備えた物だが、女騎士ソフィアの恵まれた体躯と身体強化の魔法を使えば恐るべき武器となる。
魔獣相手なら技量を使うより、速度と力を生かして戦った方がずっと早い。今回は第三騎士団のボンボンどもに散々揶揄され、挑発されて、ケンカを買った形の模擬戦にも参加できずにモヤモヤばかり溜まっていく。状況が状況だから大きな声では言えないが、憂さ晴らしにちょうどいい。
(だが……)
さすがに状況が悪くなってきている。消耗は増える一方で魔獣も増える一方だ。まだ自分だけならしばらく戦えるが、どこまでもつだろうか。
(恋を知らずして散りたくはない!)
ただでも女性の地位が芳しくないこの世界だと、一般的な男性よりも背の高い女性というのは忌避されるのに十分な理由であった。実は男爵家の令嬢ではあるが、すでに「貰い手が無い」と実家からも見限られている。自分でも重々承知しているため、騎士団に入ったところ、女性であることとその武勲を見込まれて、第二王女専属の第八騎士団の副団長に任命されたのだが、まだやっぱり諦めきれてなかった。
頭を振って余計な考えを振り払う。
今は一体でも減らさねば。
ランスを振るいながらも、背後の町が気になってしょうがない。というか、彼女が本当に気にしているのは不思議な筒状の武器から炎を吹いて大型の魔獣を粉砕している大男だ。たまに彼女よりも背の高い男はいたが、大体はひょろっとしていて、からっきし弱かった。それに比べてあの男はどうだ? あの城壁のように分厚い筋肉。何度かこっそり陰から見ていたが、現状に満足せず身体を鍛え続けるストイックさ。それでいてよく食べよく笑う豪放さ。何もかもが今まで見たことないタイプだった。
(あの男の…… いや、あの人の前で無様な真似はできん!)
何がそうさせたか分からないが、ソフィアのランスは更なる冴えを見せていた。
空気が変わったような気がする。
ジェラードに白銀貨で雇われた男は、根拠は無いがそう感じた。
「よし、お前ら。もうひと踏ん張りだ。
たぶん、あの白服の悪魔が何かやるぞ。」
「白服の悪魔……」
声をかけられたテオが一瞬怪訝な顔をするが、すぐに気づいたらしく気まずい表情になる。
「立場上、肯定はしづらいのですが。」
軽口を叩きながらも、二人の武器が魔獣を仕留めていく。テオは棒をすっかり使いこなし、振り・突き・払いと変幻自在に切り替えては敵を打ちのめしていく。
(こいつ、まだまだ伸びるな。)
自分が途中でつまづいてしまったせいか、妬ましくもあり、眩しく見える。
(教えられるものなら、俺の経験を教えてやりたいものだな。)
「話を戻すぞ。五分だ。あと五分耐え切れ。そうすれば風が変わる。」
「……了解しました。
聞こえたか! あと五分、脱落することは禁止だ! 皆生き残って美味い酒呑むぞ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「おお、いいねぇ。おじさんも相伴に預かりたいものだ。」
「生き残ればいくらでもご馳走しますよ。」
「お、言ったな!」
男の剣が魔獣を二三体まとめて切り伏せる。
「じゃあ、もう少し頑張ってみるか!」
永遠にも感じられる防衛線。二分が過ぎ、三分が過ぎたあたりで、魔獣の挙動がいきなり変わった。それまで一方向を目指していたのが急に我に返ったかのようにあちこちを見回して、周囲の魔獣に警戒するように身構える。一部ではそもそも仲間ではなかったと思うが、同士討ちまで始める。
そして戦場全てに声が響き渡った。
『一、二の三で全員目を閉じろ!』
「「「サー、イエッサー!」
「お、来たな。」
声がカウントを始め、そのタイミングに合わせてそれぞれの武器を大きく振って距離を取る。
『目を閉じろ!』
声と同時に、世界が消滅したかと思わせるほどの光が溢れ出た。まぶたを閉じても目が痛くなるほどの光。まだ備えていた者たちは耐えられたが、そうではない魔獣たちはいっせいに悲鳴を上げた。
『全力で町まで逃げろ!』
もう考える暇もためらう暇もない。
魔獣たちか回復する前に背中を向けて全速力で走り出す。
『もう一度三数えるから、今度は前に跳んで地面に伏せて耐えろ!』
その危険な物言いが更に足の速度を高める。
『三!』
大盾を持ったバズを超えたら大丈夫らしく、その向こうで戦っていた者たちが足を止めて息を整えている。
『二!』
ほとんどの人たちが安全地帯まで下がってきた。
『一!』
最後に殿を務めたテオとジェラードに雇われた男、ソフィアの三人が飛び込むように転がり込んできた。
「おらのうしろへ!」
バズが大盾のアンカーを地面に突き刺して、全身で大盾を支える。
『コロナバースト、ブレイク!』
さっきよりも光量は少なかったが、赤い光が大地を覆いつくした。それは炎の色で、一気に気温が上昇し、熱風が吹き荒れた。
たとえ魔獣とはいえ、元々が動物である以上基本的には火を恐れる。ただでも混乱していた魔獣が蜘蛛の子を散らすように逃げ出す。
「掃討戦だ! 深追いはするな! 数さえいなければ恐れるに足りん!」
ハンスの声が戦場に響き渡り、最後の一頑張りが始まった。
ハンブロンの町が救われるのは時間の問題であった。
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