模擬戦を観戦しよう(2)
本州の方は激暑らしく、北海道は時折ストーブが欲しくなるほどの気温になることも。
暑さには弱いので助かりますが、暑さに苦しんでいる方々がいるのも心苦しいものです。
中年の冒険者らしい助っ人がリリーとミスキスの二人がかりで倒された。もうちょっとできそうな雰囲気だったけど、なんか思ったより弱かった?
「そうじゃなさそうだな。おめぇさん何かしたのか?」
飲みながらもキッチリ戦況を見ていたガイザックさんがジェルに疑いの目を向ける。一応中立の立場なので、ジェルが「ズル」をしたなら見逃すわけにはいかない。
「私が疑われるとは心外ですな。」
自業自得だろ。
疑惑の目が消えないのを見て、やれやれと肩を竦める。
「治癒の系統の魔法に、高熱が出た時に一時的に熱を下げる物がありまして。」
なるほど、解熱剤みたいなものか。
「あんまり使い道がないですが、一時的に熱を上げるものもあるのですよ。」
「ん? んん?」
なんか雲行きが怪しくなってきたぞ。
「普通、低体温になった場合は、周りを温めて回復させるので、使うことが滅多にないそうですが、さて、健康な人に使用したらどうなるでしょう?」
人間が生きていける体温って、非常に狭く、大体三十五度から四十二度くらいまで。低い方はある程度耐えられるが、上限を超えたらほぼ死亡だ。身体を構成するタンパク質が変質して元に戻らなくなるらしい。
で、当然のことながら平熱から一度上昇しただけで人にはよるが、一般的には具合は悪くなる。
「気付かれないように体温を上げるので、時間がかかるのと、効果が一時的かつ限定されるので使いどころは難しいですがね。」
だからか。魔法使い組のモスたちは模擬戦が始まってから何かしらの魔法を使っていたようなのに、何も起こったように見えなかったのか。
ただ、使いどころが難しい、というのは裏を返せばタイミングさえ見極めれば、効果は絶大ってことだ。
「なるほどなぁ。理屈は分かったが、そんな方法を思いつくなんて、大したモンだな。いや、これっぽっちも褒めてねぇけどな。」
ガイザックさんが感心したような、どこか呆れたような声を出す。いや、呆れてるか。
ちなみに残り二人の助っ人冒険者は、お嬢小隊と姐さん小隊に袋叩きにあってすでに退場させられていた。
一番の懸念が向こうの助っ人の冒険者だったそうだが、ジェルの悪知恵もあって思ったよりも対処が楽だったのはありがたい、らしい。
戦況も四割ほど第三騎士団が戦力を減らし、こちらはほぼ無傷だ。ちなみにリーナちゃんたち三人は完全に無傷だ。このままいけば時間の問題だろう。
「おっと、向こうが変な動きしてきたな。」
それまで黙ってみていたヒューイが持ってきたトランクを開くと、ライフルを組み立て始めた。
「え? 何?」
向こうが一度下がって態勢を立て直しているらしく、こちらに向かってこないようだ。こちらから攻めるのもアレなので、一度集結しなおしているが、とりあえずこちらには治療が必要な重傷者はなさそうだ。リリーとミスキスがホバーボードのチェックをしているが、こちらも問題が無さそうだ。
「ふむ、向こうの人数が増えてるの分かります?」
増える? えっと……
ああ、なるほど。
向こうの本陣で場外に出された人をこっそり魔法で治して、人の壁を利用してこっそり場内に戻しているらしい。
セコい。
抗議するのも簡単だが、下手にそうするとイチャモンつけられた、と論点をずらして噛みついてきそうだ。中途半端に地位や肩書にしがみ付く奴の定番だ。こういうときは相手のセコいズルすら上回って叩き潰せばいい。でもジェルだと果てしないズルで返すからあんまり正義な感じがしないんだけどねぇ。
「外部の人間が、外部の人間に干渉しても問題はないよな?」
「そうですな。それで向こうが文句言ってくるとして…… まぁ、言えませんか。」
「そだな。」
ヒューイが慣れた手つきで立射で構えると、ロクにスコープを覗かない内に三度引き金を絞る。発射音が無いところを見ると、レーザーか麻痺音波だろう。殺傷する気は無いだろうから後者か。
で、向こうの本陣の方で同じ数だけ人が倒れたっぽい。こちらを指さしているが、すでにライフルを下ろして座りなおしたので、向こうでも特定できないらしい。
「攻撃パターンが変わらないなら回復役を潰すのはゲームの鉄則だからな。」
頭の後ろで手を組んで、椅子の背もたれに体重をかけるヒューイ。
そして本来は聞こえないはずだが、超音波に気づいたリーナちゃんがこちらを向いて控えめに手を振るので、ヒューイがサムズアップすると、ペコリと頭を下げてくる。
……結構距離あるけど、お互い良く見えるなぁ。これだから超人ズは。
仕切り直しとなったが、向こうの士気は落ちまくりだ。復活ゾンビ作戦も途中で潰えたし、人数も負けている。正直、逆転の目は薄いわけだが、ゆっくりと前進してくる。さすがに懲りたせいか、バラバラには突っ込んでは来ないようだ。
「「さて、」」
ジェルとヒューイが立ち上がる。
「カイル、サクさん、ガイザックさん、ラシェルのことは頼みましたよ。」
「おう。」
「心得た。」
「おおっ?」
「え? どっか行くの?」
あたしに聞かれてジェルがん~とちょっと考える。で、思いついたらしい。
「ちょっと暗躍を、ですね。」
そう言うと、ヒューイとアイコンタクトしてから左右に分かれて、観客の中に消えていった。
……なるほど、もう少し相手の小細工を叩き潰す必要がある、ってことですか。
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