男たちの気迫を感じ取ろう
日本中で雨がひどいようです。
災害に遭われた方の無事をお祈り申し上げます。
広い舞台の片側に鎧姿のたくさんの男たち――そういやぁ、第三騎士団に女性の騎士はいないのか――が並んでいる。対するこちらはリーナちゃんを真ん中に右にリリー、左にミスキスの三人だけである。
向こうの助っ人はなんか毛色の違う戦士風の人が三人ほど見えるが、特に並ばずに後ろに控えている感じだ。
「ん? あいつは王都で見たことあるぞ。」
ガイザックさんが口を開く。
「ご存じで?」
「ん? ああ、まぁ中堅どころの冒険者だな。素行はそんなに良くないが腕はある。その分お買い得っちゃお買い得だな。……仕事を選ばないところとかな。」
ふ~ん、面倒そうな展開。ただまぁ、すぐに手を出してくる感じはない。一応騎士団の面目を立てようというところだろうか。となると、少なくともあのボンボンたちよりは腕が立つということか。
時間が刻々と迫る。
ん~ これはギリギリで登場か?
あたし達には時計があるから時間が分かるが、この世界じゃあ鐘の音が時を知らせてくれる。
「鐘が鳴るまでに到着すればOKなはずですよ。……ただまぁ、鐘を鳴らすのも人間ですがね。」
ジェルが悪い顔をする。
あ、コイツやりやがったな。まぁ、ハンブロンの町では第三騎士団の評判はアレで、テオ達見習い部隊の評判は良い。協力してくれ、と頼まれたら、そう悪い返事は帰ってこないだろう。
時間を教えてくれる鐘がなかなか鳴らず、じわじわと時間が流れる。すっかり晴れた空からは強い太陽光が降り注ぐ。金属鎧で突っ立ってるのはさぞかしキツかろう。同じことはリーナちゃんたちにも言えるのだが、何も遮るものが無いはずなのに、彼女たちに降り注ぐ光は幾分柔らかい。
確かあたしも使ったことあるな。ドローンで光を屈折させて、夏の砂浜でも心地よく過ごせる代物だ。
暇を持て余した人たちが飲み物や串焼きを求めて、出店に集まってくる。アイラ一人じゃ大変で、仕方なくあたし達も手伝って、客を捌いていく。
「日が高い内の酒というのも、何とも後ろめたくて良いものだな。」
「そうだろそうだろ。」
いつの間にかにサクさんとガイザックさんが木のカップを打ち鳴らしていた。
「またこの串焼きがたまらぬな。」
「そうだろそうだろ。」
しかも串焼きも堪能している。
なんか気が抜けるなぁ。
そろそろ向こうがザワザワしてきた。さすがに鐘が鳴らないのがおかしいことに気づいた頃だろう。
それにしてもカイルたちが来ない。このままだったら強引に三対四十三で模擬戦が始まりかねない。向こうの代表らしき鎧姿の人が、審判のジェニーさんに文句をつけているようだ。ジェニーさんが困り顔でこちらに睨むような視線を投げかけてくる。
あたしに言われましても……
「来たぞ!」
どこからかそんな声が聞こえた。
その声につられるように町の方を振り返る群衆たち。何かを迎えるように観客の列が割れた。
カイルと思われる大男を先頭に、四列になった男たちが町の方から歩いてくる。
「お待たせ。」
いつの間にかにヒューイが現れて、手にしたトランクを地面に置いて腰かける。
色々聞きたいことはあるが、とりあえずカイルたちの方に集中する。
さっき「思われる」と言ったのは、全員がなんかボロボロの布を被っているので、見た目敗残兵と言うか、雰囲気さえあれば亡霊の兵団のようだ。
誰も一言も口を開かず、規則正しいペースで歩を進めてくるのは不気味の一言に尽きる。
まっすぐこちらに向かってくる。観客が気圧されたように道を空ける。
更に進み続けて、ついに戦場に足を踏み入れた。リーナちゃんたちも場所を空け、中心地の手前でついに止まった。
ざわめく第三騎士団のことを全く無視したように先頭の大男が身体ごと振り向くと、後ろにいた男たちが隊列を組みなおして、整列した。
纏っていた布を脱ぎ捨てると、黒い戦闘服を身に着けたカイルが姿を現す。そして声を張り上げた。
「たった今、お前たちは泣き虫や弱虫を卒業して、一人前の戦士となった!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「まずは戦士に相応しい姿を見せてやれ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
カイルの言葉に全員がボロ布を脱ぎ捨てると、その下から黒で統一された男たちが現れた。カイルと同じように黒の戦闘服を身に着け、その上から黒光りする革とは思えない鎧を身に着けている。ズラリと並んだ姿はなんとも壮観だ。
「お前たちの得意なことは!」
「「「生き残り、守ること!」」」
「立ちはだかる敵は!」
「「「拳の熱さを叩き込む!」」」
「お前たちの前には厳しい戦いが待ち構えている。勝てば全てを得られ、負ければ全てを失う。どうだ、嬉しいか!」
「「「サー、イエッサー!」」」
カイルが大きく頷くと、前列にいるテオのところまで行き、その肩に手を乗せる。
「俺が教えられることは教えたつもりだ。お前がこの瞬間から隊を率いるんだ。
お前たちの戦い、見せてみろ。」
「サー、イエッサー!」
カイルが隊列の横を通って、場外へと出ていく。その間、テオ達は敬礼の態勢を崩すことは無かった。
暑くなってきた中、やっと相手が来たところで第三騎士団も隊列を整えようとするが、それよりも先に最後尾のモスが号令をかけると、テオ達の部隊の隊列が素早く組み変わる。
「全員、構えっ!」
武器を地面に置き、巨漢のバズを前面に出して、全員が密集して、腰を落とし、両腕を水平に胸の前で平行に構えた。
「――! ――! ――! ――!」
モスが後ろから雄たけびのような声を上げると、それに呼応するように男たちが野太い声を上げ、身体を打ち鳴らし、足を踏み鳴らす。
一通り終わると、全員揃って身を低くし、右肩を突き出すような態勢で、今から襲い掛からんような形相で相手を睨みつける。
最初は蛮族の儀式を鼻で笑っているような感じだったが、二度三度と繰り返されると叩きつけられる気迫に少しずつ気圧される。
最後にドン、と全員で足を振り下ろすと、一気に沈黙が広がった。
「よし、隊列を組みなおせ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
号令がテオに戻ると、全員が武器を拾い上げ、四方八方に散る。
リーナちゃん・リリー・ミスキスのそれぞれを中心とした各小隊。テオとバズが中心となった主力小隊、そしてモスたち魔法使いを中心にした小隊に分かれる。
「双方、準備良いか!」
思い出したかのように領主のジェニーさんの声が響く。ジェルがこっそりマイクを貸して、汎用箱型作業機械をスピーカー代わりにしているのは秘密だ。
両方から異論が無いのを確認して、ジェニーさんが手を上げる。
「それでは模擬戦開始!」
誰かがタイミングを合わせたのか、町から鐘の音が鳴り響いた。
ウォークライはオールブラックスのハカをイメージしました。
いくつか参考でYoutubeで見てみましたが、ありゃあ怖い。そりゃ受ける側も肩でも組んで備えてないと心が折れそうになるのが分かります。
お読みいただきありがとうございました。




