戦いの準備をしよう
暑くなってきました。と思ったら大雨であちこち酷いようで。
でも時折部屋の中が寒いこともあって、なんか落ち着きません。
「お待たせいたしました。」
ピックアップトラックのワイルドパンサーからリーナちゃんたちが降りてきた。
この日の為にジェルが精魂込めて作った戦闘服姿だ。
リーナちゃんが室内戦闘用の服を元にして、三人分を新規に作ったそうだ。。
シルバーグリフォンから布を取り寄せて、ちゃんと許可を取って、あたしにサイズを計測させてのフルオーダー品。
色はリーナちゃんがライトブルー、ミスキスがライトグレー、リリーがライトグリーンだ。こちらの世界には無いが、小口径の銃弾程度なら食い止める、とジェルは言ってたけど…… 確か弓矢の方が貫通力が高いから効果が薄いのかも知れない。防刃性能もあるし、ジェルの過保護な安全策があるので直撃さえ受けなければ、だとは思いたい。
後は要所要所にプロテクターをつけている。元々スピード重視の三人なので、特に重装備ではない。
後はリーナちゃんが掴みもできるように指先が空いているガントレット状のプロテクターを追加でつけている。
リーナちゃんは武器は無しだが、別に鉄拳制裁とかそーゆーわけじゃない。相手が鎧姿なら、投げとかの方が効くだろう、というヒューイとジェルの判断だ。
想定通り、相手は皆ガチガチに金属鎧を着ている。動きは多少鈍くなるだろうし、可動域も少なくなっているだろうから、カモとまではいかないが、そこまで不利にはならないだろう。
「ハカセー 似合う?」
リリーがクルリと回って全身を見せてくれる。十分美少女だから似合わないはずがない。
「どう……?」
ミスキスも同じようにクルリと回って、微妙にしなを作る。でもジェル以上に無表情だから分かりづらいぞ。
「お二人ともお似合いですよ。」
素っ気なくはあるが、ジェルがそうシンプルに褒めるとリリーはにへら、とミスキスも分かりづらいけど照れたような笑顔を浮かべる。
「そだそだ、リー姉ぇにも言ってあげて!」
と、リーナちゃんの後ろに回ったリリーがグイグイと前に押し出してくる。
「え? あの、リリーさん?」
「ほらほら、」
おやまあ困りましたね、って顔でこっちを一瞬見るが、特にアドバイスが無いことが分かると、リーナちゃんに向きなおる。
ぽんぽん。
リーナちゃんの頭に手を乗せると、普通の人でも分かりやすいくらい優しい声を出す。
「リーナも似合ってますよ。ですから心配です。私が頼んだのに何を言ってるか、ですが無事に何もなく戻ってきてください。」
「博士……」
リーナちゃんとしみじみしていると、何かに気づいたようにジェルが顔を上げる。、リリーとミスキスが何かを期待するようにウルウルとした目でジェルを見つめていた。
今度はちゃんとため息をついた。
ぽんぽん×2。
「リリーもミスキスも同じです。無理はしないで。必要なら逃げることも必要です。」
リーナちゃんの時と同じようにすると、二人揃って俯き気味に頬を赤く染める。微妙にもやっと感がするのだが、いつものことだから仕方がない。
ジー……
視線を感じた。そのプレッシャーの先を見ると、屋台で料理の準備をしていたアイラがジト目でこちらを見つめていた。
「あたしは戦えないからいいんですよー」
ふ~んだ、と口で言われてしまう。ぷいっとそっぽを向かれるが、それでも手は串に刺さった肉を時折ひっくり返している。タレが炙られて、肉の脂と混じって木炭の上に落ちて香ばしい匂いが広がる。
「……う、旨そうだな。」
ガイザックさんのアイパッチに覆われてない方の目が串焼きに釘付けになる。
「美味しいですよ。もう少し焼いた方がいいので、もう少しお待ちください。」
さすがに「客」がいると、アイラもご機嫌斜めという訳にもいかず、笑顔で接待を始める。
「おいしそう……」
リリーがよだれをたらさんばかりの表情で口元に指をあてるが、さすがに模擬戦前に食事するのも良くないだろうということは理解しているようだ。
「ちゃんと怪我無く帰ってきたら食べさせてあげるから。」
「ホント?! ホントに! 約束だよアイラ! ウソついたらひどいから!」
「ウソなんかつかないわよ。」
もう、とちょっと呆れたような、そして嬉しそうな笑顔を浮かべる。
「そうだそうだ、ハカセー! 頑張ったらご褒美とかないの?」
「ご褒美、ですか……」
どうしますかね? とこちらに目で振ってくる。何かあったかなー?
汎用箱型作業機械やホバーボードは半分あげちゃったようなものだし、食べ物をというのも今更のような気がする。
「何か考えておきましょう。」
「わーい!」
喜ぶリリー。そんな彼女を見て、ミスキスがすすす、とジェルの後ろに回って、白衣のすそをくいっくいっと引っ張る。
「……何か?」
「頑張るから…… 便利な武器、欲しい、かも……」
「便利な武器、ですか?」
「うん、たぶんある、はず。相手を痺れさせる、何か。」
ん~と、スタンガンとかテイザーガンとか麻痺警棒あたり? とはいえ、こちらの世界で見せたことは無いはずだ。
「二三回気絶させたの見たこと、ある。」
「……ふむ。」
一声唸ると、ジェルが白衣のポケットから三十センチ程の棒、じゃなくてバトンを取り出す。これはあたしも見たことがある。先の方を相手に押し付けてスイッチを押すと、高圧電流で相手を気絶させる麻痺警棒だ。
「使い方は分かりますか?」
「これがスイッチ。たぶんここで相手に触れればいい?」
「そうです。基本的には肌が露出しているところを狙ってください。頑丈に作っているので、思いっきり殴っても壊れません。」
「うん、感謝……」
軽く振ってバトンの具合を確かめるミスキス。
「リリーとミスキスに言っておきます。あなた達に渡した装備なんかいくらでも作れるものです。それを庇って怪我するような真似はご勘弁ください。」
「うん。」
「分かった……」
よし、こっちの出撃準備は完璧だ。
そろそろ時間なので、向こうも天幕からやや千鳥足で出てきた。……ホントに飲んでたのか。すっかり雲も晴れ、炎天下の元、金属鎧は何とも暑そうだ。それに合わせてリーナちゃんたちも舞台に上がる。淡い色合いの服なのでそこまで暑くないだろう。
軽装の女の子三人が現れて周囲にはどよめきが広がるが、向こうからは囃し立てるような声や下品な笑い声が広がる。そういう効果を狙ってたのもあるが舐められてるなぁ。
舐められた方が扱いやすいですがね、というのがジェルの弁だが、やはり気分のいいものではない。
そろそろ時間だ。
……って、まだカイルたち来ないんですけど。どうなってるの?!
お読みいただきありがとうございました。




