屋台の準備をしよう
多分この章はそんなに長くならないはずー って、だから良いのか悪いのかは不明ですが。
夏になってきたなー と思ったら天気も悪くなったり涼しかったりという暦を裏切る日々が続いております。
大雨で被災された方の無事をお祈り申し上げます
今日は天気も良く、結構な暑さだ。
昨日、汎用箱型作業機械が徹夜して――って、寝る必要も無いのだが――簡易屋台が裏庭で組みあがっていた。
保冷ボックスにソーダメーカー、自動製氷機も用意して、後は給電用の大型キューブ(倍くらいの大きさ)も連れていく。大樽に水を汲み、次々にキューブたちがピックアップトラックのダッシュパンサーに積んでいく。ついでにキューブも何体か乗っていく。
「さて、先に場所を確保しますか。」
朝食はまだだが、皆それどころじゃなさそうで、カツサンドの包みが皆に配られた。
ま、美味しいんだからそれでそれで。
モシャモシャとサンドイッチを頬張りながら、パンサーでコンラッドの町を出ていく。
前に競技規則として町の郊外に場所を作って、そこで模擬戦を…… うん、そういやぁ忘れかけていたが、一応現状を整理すると、
1.あたしたちがやったゴチャゴチャを確認しに王都から騎士団が来た
2.ある姫付きの第八騎士団の何人かと、騎士見習いたちが来た
3.貴族のボンボンの第三騎士団も何故かついてきた
4.ボンボンどもはロクに働かないくせに、騎士見習いたちを挑発
5.腹に据えかねた第三騎士団長がケンカを買う形で模擬戦をすることになった。
6.腐っても相手は騎士ということで、勝つために訓練を依頼。
7.ジェルはともかくカイルは乗り気で受けることになった。
……わけだ。
準備期間は十日ほどで、三日ほど町で訓練や座学を行ったあと、カイルとヒューイに連れられて、森に籠ってしまって……まだ帰ってこない。
たまに連絡をしてるし、向こうにもキューブが何体か派遣されているから、何か問題があれば分かるだろうが、やっぱり来ないのはちょっと気になる。
「まぁ、まだまだ時間はあります。今森を出たとしても十分間に合いますし、あの二人がいてそんなヘマはしないかと。」
そりゃそうか。
間に合わなくて勝負を逃す、なんて勿体ない真似はしないだろう。
「まずは出店を設定し、その間に色々小細工、というか保険かけておきますか。」
ジェルがいつものように腕のコンピュータをチマチマ操作すると、パンサーに積んでいる箱の中から何か飛び出して空へと消えていく。ドローンを飛ばして警戒ついでに動画残せるなら残しておこう、ってことだろう。
キューブたちが次々に荷物を下ろし、屋台を組み立てていく。一通り下ろしたところで、追加の荷物と人の迎えも兼ねて一度「雄牛の角亭」にパンサーが戻っていく。
しばらく戻ってこないだろうから、できる限りの準備を…… っていうほどすることはなく、大体はキューブがやってくれてるのでホントにすることが無い。
「とりあえず、一息つきますか。」
あたしの前に木のカップが差し出される。製氷機とソーダメーカーのテストで作った炭酸飲料だ。こちらの果物や砂糖を煮込んでシロップを作って炭酸で割ったものだ。こちらの人が飲むことを考えて、炭酸は弱めにしている。まぁ、ソーダメーカーをちょっと操作すればいくらでも強くできるけどね。
カップの中の液体はローズヒップみたいな実から作った真っ赤なシロップで、酸味が強めな奴だ。氷でキンキンに冷えて、今日みたいに暑くなりそうな日には美味しいだろう。
「毒見を。」
おいこら。
ジェルの戯言はスルーして、ソーダを飲む。予想通りの味と炭酸で、キンキンに冷えて口がチクチクしそうだ。当然ながら変な味や匂いも無く、爽やかな香りが広がる。
「うん、美味しい。」
「それはそれは。」
あたしが味見をしている間にジェルが木炭を熾してコンロを温めている。
反対側では、模擬戦の会場を整備していた。
百五十メートル四方くらいのスペースに、地面に線を引っ掻いて境界を設定している。一応、ここから出されたらアウトらしい。
飽くまでも町の外の荒野なので、それなりにデコボコしているし石もゴロゴロしている。実戦形式、なんだろうなぁ。
あたし達と会場を挟んだ向こう側には、なんかお金のかかっていそうな天幕がいくつも作られていて、なんか鎧を着た連中が飲み食いしているように見える。
アレがおそらく第三騎士団なんだろうけど、もしかしてアイツら酒飲んでる? だとしたら余裕だなあ。
おそらく出入りの商人やおつきの人たちがいるだけで、微妙に閑散としているような気がするが、アルコール入っているのかあんまり気になってないようだ。
こちらはすでにいくつもの屋台が立ち並び、あちこちからいい匂いがしてくる。こちらも負けちゃいられねー とは思うが、アイラが来るまでは動きようがない。
……いや、あたしがチャレンジしてもいいし、ジェルだって料理は一通りできるはずよ。やりたがらないだけで。
「よぉ、やっとるな。」
ジェルと二人でウダウダしていると、久しぶりの顔がやってきた。冒険者ギルドの副マスターのガイザックさんだ。
「まずは一杯飲ませてくれ。」
「へいへい。」
やる気のない声のジェルが、手早く木のカップを用意する。
「お、悪いな。」
カップに口をつけると、ガイザックさんがむ、と一言唸って口を離す。
「酒じゃねぇのか。」
自堕落か。
「つまみも無しに飲ませるわけにもいきませんしね。料理、もしくは血沸き肉躍る模擬戦とか。」
「なるほどね。
……で、立場上俺はどちらにも肩入れできんが、どうなんだ?」
小さく声を潜めるガイザックさん。
会場設営や運営は中立の立場の冒険者ギルドが行っているそうだ。同様に審判役である領主のジェニーさんも中立の立場だそうだ。
そのせいでここのところ「雄牛の角亭」にも来られなくてストレスが溜まっているらしい。終わったらサービスしてあげなきゃ。
「正直、向こうの実力がやや不明なのと、こちらの訓練の結果がどうなるかが不明なので、なんとも。」
「ふ~ん。意外と弱気だな。おめぇさんのこった、もっと自信満々かと思ったがな。」
「他人任せ、って意外と面倒なのですよ。それにうちの子たちも絡んでるので、勝利条件が結構厳しめで。」
やれやれです、とジェルが大げさに首を振って肩を竦める。勝つだけなら簡単なのですがね、とボヤく。
「ままならねぇもんだな。」
皿に乗せたナッツ類をポリポリかじりながらガイザックさん。
「まぁいいや。今日はここで見させてもらうか。色々楽しみにしてるぜ。
……お、来たか?」
ガイザックさんの視線の先を追うと、パンサーがアイラたちを乗せてやってくるのが見えた。
お読みいただきありがとうございました。




