男たちの出撃
ちょっと今回は余裕はあります。
というか、余裕をもってやろう自分。
早朝。
日が昇る前に次々と男たちが目覚める。
「全員起床してるか!」
「「「サー、イエッサー!」」」
ずらりと男たちが大男の前に整列する。
「いよいよ今日でお前たちの運命が決まる! 勝てばすべてを得て、負ければすべてを失う。どうだ嬉しいか!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「今ならまだ頭を下げて許しを乞えば戦わずに済むかも知れない。どうだ?」
「「「サー、ノーサー!」」」
その躊躇のない返答にカイルが満足そうに頷く。
「よし、良い返事と覚悟だ。これから俺たちは町に戻る。まずは撤収の準備だ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
すぐさま男たちが今まで使っていたテントや簡易ログハウスを解体していく。持って帰れない部材は整理して積み上げ、ゴミは地面に穴を掘って埋める。荷物はまとめて分担して背負っていく。
正味五分ほどでそれまで一週間くらい人が生活していた痕跡がすべて失われ、森の中の開けた空間だけが残された。男たちがまたカイルの前に整列する。
「よし、撤収開始!」
「「「サー、イエッサー!」」」
男たちは森からの撤収を開始した。
森の中を一時間ほど歩き続けると、森が開け平原に出る。あと少し歩けばハンブロンの町に到着だ。模擬戦の開始にはまだ数時間ほどの余裕がある。小休止をして装備の点検をする時間はあるだろう。
南門から町に入る。気のせいか町の中が閑散としているような気がする。それは「雄牛の角亭」に近づくと違和感が更に大きくなる。
「あれ……?」
なんか静かすぎるような気がする。
「誰もいないのか?」
一緒に行動していたヒューイも気になったように視線を周りに向ける。
「パンサーもいないみたいようだな。」
ジェラードがいるのに、何か外的な要因で全員がいなくなったとは考えづらいので、自発的に全員で外出している、ということだろう。
「先に出ている、ってことか?」
「そうなるな……」
カイルが深刻そうな顔で声を潜める。
「メシ用意してないのか……?」
「そんなことは無いと思うがな。
というか、そんな真剣な顔で何言ってるんだ。」
「バカ言え、メシで俺のやる気はすげー変わる。」
「ホントにバカだな。」
苦笑いしながら、入り口のドアに近づくと「本日休業」の木の札がかかっていて、普通にロックがかかっていたので、やはり問題はないようだ。
手を振ってロックを解除すると、扉を開ける。
やはり店内に人の気配はない。
一応は警戒しながら中に入ると……
「なるほどな。」
カイルがニヤリと笑みを浮かべた。
「野郎ども! 中に入れ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
ゾロゾロと室内に男たちが入っていくと、その中の光景に足が止まる。
店内は広くあけられていて、テーブルが半分くらいに減っていて、窓際に集められている。その上には何らかの包みが置いてある。美味しそうな匂いがするので、何らかの食べ物だろう。
そして反対側の壁には、人数分と思われる大量の革鎧の棒が、使い手を待つように鎮座していた。
男たちは理解した。
「これからお前たちは戦いに備える。身を綺麗にして、腹を満たし、戦いの装束に着替える。やることが分かったら、すぐに始めろ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
鍛錬の証である汗を風呂で流し、用意してあった汚れ一つ無いまっさらな服に着替える。
次にテーブルの上に積んであった包みを一人一人に手渡す。皆にいきわたったところでカイルが包みを開けた。
「この料理はカツサンド、という。この『カツ』という言葉は、ある国の言葉で勝利を意味する。縁起担ぎと言えばそれまでだが、作ってくれたその気持ちをしっかり感じて欲しい。」
「「「サー、イエッサー!」」」
食事が終わり、小休止を済ませると、空気がピリピリ緊張してくる。
「……よし、そろそろ時間だ。相手は腐っても貴族だ。粗相のないようにな。
ヒラヒラのドレスに、キラキラの指輪を身に着け、俺たちの華麗なダンスを見せてやれ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
各人ごとに誂えた革鎧を身に着けていく。
「お、おおぉ……!」
「おい、泣き虫野郎! こいつはおめぇだけの一張羅だ。
……良かったな。」
「さー、いえっさー!」
人とは最初からサイズの違ったバズ。鎧も数着分の物を無理やり切り貼りしたような粗末な物しかなかった。だが今、彼の目の前にはその巨躯に合わせて作られた巨大な革鎧がある。
革鎧はカイルたちが森で狩った野獣や魔獣の皮を加工したものだ。ジェラード特性の特殊な薬品で加工し、更に前に狩った巨大ムカデの甲羅で要所要所を補強している。それを、それぞれの体格や役割に合わせて作っているので、着心地も良く実際の重さよりも軽く感じる。
あちこちで驚きの声が上がるが、カイルは聞こえなかった振りをして、全員が着替え終わるのを待つ。
「よし、みんな揃ったな。」
「「「サー、イエッサー!」」」
それぞれの「武器」を手に唱和する。
鎧の上に森林迷彩模様のローブを羽織る。
「今更何か言うのも野暮なので、俺流の激励をしよう。
……今日は旨い酒を呑むぞ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「出撃だ。」
それ以上の言葉は不要だった。カイルを先頭に男たちが戦いの舞台へと歩き出した。
お読みいただきありがとうございました。




