明日の準備をしよう
北海道はちょっと前まで暑いんだか寒いんだか分からない微妙な気候でしたが、そろそろ夏の感じがしてきたような気がします。
あれから何度かピックアップトラックのワイルドパンサーが森に呼ばれては色々積んで戻ってきた。
何を、と言えば鍛錬として狩った猛獣か魔獣らしい。血抜きなどの最低限の処理は済んでいるようだ。
あちこちの壁から汎用箱型作業機械が現れると、パンサーの荷台から首なし死体になった大きな獣を下ろしていく。内臓もすでに抜かれているので、解体しても骨と皮と肉、ってところだろうか。
肉はいくらあっても困ることはない。魔素を含んでいるは基本的に長持ちするそうで、さらにこの世界では「雄牛の角亭」くらいにしかない巨大な冷凍倉庫のおかげで、食べ尽くす前に悪くなることは無い。
……まぁ、大食いコンビいるから、足りなくなる方を心配した方がいいんだけどね。意外と言うか何というかだったのが、黒竜のサクさんだ。身体が魔素で出来ているので、本来は食事を必要としていないのだが、食事ができないわけじゃなく、一緒にテーブルを囲んでいたのだが、ハマってしまった。
食べる必要が無い、ということは、逆に言えば満腹になることも無い、というわけだ。身体だって物理法則に則っていないところがあるので、自分の体積よりも多く食べた時はさすがのカイルも言葉を失っていた。たまに忘れかけるが、カイルもなんだかんだで物理法則まではひっくり返せない。
「さて、なかなかの分量ですな。」
解体して肉と骨を分別すると、残るのは皮だけになる。その皮にもキューブたちがとりついて店の裏側に運んでいるので、何かに使うんだろう。レザーのコートが欲しかったのよねぇ、ってなんてことはない。
あ、待てよ。
「革鎧でも作るの?」
「お、鋭いですな。装備品は自分たちで用意しなければならないようですから、この辺は手作りで、と。」
「……ズルは?」
気になって聞いてみたら、心底爽やかな笑顔を浮かべてこう言い切った。
「バレなきゃズルにはなりませんって。」
おいこら。
「今回のレギュレーションは『魔法の武具』を使うのが禁止だそうなので、普通に『技術』は使っても問題ないかと。どうせ分からないでしょうし。」
そりゃそうだ。
「私が言うのも何ですが、相手は図々しくもズルをして開き直る可能性も否定できません。やれる範囲の小細工はしておくべきかと。」
バーチャルディスプレイを開いて、色々説明を始めた。
とりあえず、危険度を考慮して革鎧の作る順番を決めるそうだ。単純に大楯を持って敵に突っ込んでいくバズとテオの部隊の優先度が高い。
次はリーナちゃんの護衛をする部隊だ。次にリリーとミスキスの護衛部隊。二人はホバーボードを使う高機動部隊なので、そこまで重武装にはしない予定。最後にモス率いる魔法使い部隊だ。前線から一番遠いので後回しだそうだ。
ちなみに女の子三人にはジェル謹製の戦闘服とプロテクターを用意するそうだ。過保護だ、とは思うが、それは仕方がない。可愛い女の子は世界の宝だからね!
まぁ、そんなこんなで時間は過ぎ、もう明日が模擬戦の日だ。そろそろ帰ってくるかと思ったが、夕方どころか夜になってもカイルたちは帰ってこなかった。
さすがに心配になったのか、ジェルが通信を入れたら、明日の戦闘開始までには必ず戻る、とのことで、待たなくても良いので先に行っててくれ、とのことだ。
「いつ戻ってきてもいいように食べやすい物を用意しておきましょうか。」
「それもそうなんだけどさ、明日お店どうする?」
いつもよりも少ない人数で終えた夕食後の席でリーナちゃんとアイラがエプロンを外しながらそう言った。
あ、そうか。
カイルとヒューイ、リーナちゃんにリリーにミスキスが明日が本番である。多分あたしとジェルも現地に行くと思うと「雄牛の角亭」はスッカラカンである。残るのはアイラとサクさん、それに黒猫か?
「話は聞いておったが、拙者も見に行っても良いものか?」
珍しくサクさんがそんなことを言い出した。大体窓際で風景になってるか、店の裏庭で剣を振ってるかで出かけている姿を見てないから本当に珍しい。
「……じゃあ、あたし一人留守番か。」
ちょっと寂しそうなアイラに対し、ジェルがふむ、とちょっと考え込む。
「折角だから屋台とかします?」
「屋台? ああ、なるほど。」
「串焼きくらいでしたら、今から仕込んでもどうにかなるかと。あとは、冷たい飲み物とかあったら……」
腕のコンピュータをポチポチ操作して眼鏡に情報を表示させると、ニヤリと笑う。
「明日の天気は間違いなく晴れです。さぞかし冷たい飲み物が売れることでしょう。」
「おお……」
ちょっとアイラの目が商売人の目になった。
「肉は倉庫にいくらでもあるし、ジェラードさんがああいう風に言うってことは、あの冷蔵庫とやらも外に持っていける、ってことか。
屋台はおそらくキューブに頼めば明日の朝までには用意できてるだろうし……」
ブツブツ呟きながらアイラが厨房に向かっている。ついていこうとするリーナちゃんだが、ジェルに止められた。
「リーナは明日は大仕事です。今日はしっかり身体を休めてください。リリー、ミスキスも同じですよ。」
「分かりました。」
「はーい。」
「……うん。」
三者三様の返事が来て、三人が自分の部屋に戻っていく。
「私はまず屋台の設計をします。その後は拙いながらもアイラの手伝いをしますか。」
「オッケー。」
サクさんにも手伝ってもらって、どうにかこうにか今日が終わったくらいの時間で料理の仕込みは終了した。
その間に店内のテーブルを一か所に集め、ジェルが細々作らせていた装備品がキューブの手(?)によって並べられていく。
ジェルが何も言わないから、こちらで出来ることは一通り終わったのだろう。人事を尽くして天命を待つ、だったかな?
後はみんなの頑張りに期待するだけだ。
明日はきっと、長い一日になるだろう。あ、もう日付が変わったから今日か。
さ、どうなることやら。
MISSION:騎士団を鍛えよう
...MISSION CONTINUED
NEXT MISSION:模擬戦を勝利しよう
お読みいただきありがとうございました。
次の章はそんなに長くならないと思います。一本インターミッションを挟んで、次の章に参ります。




