訓練を見学しよう
前書きを考える余裕もないZO☆
「もう立ち上がれないのか! てめぇ、やる気あんのか!」
カイルの怒号が響く。
大楯を持った――いや、今は倒れている――バズがガクガク震える手足を駆使して立ち上がろうとするが素人目にも、もう限界に見えた。大楯を手放せばまだ楽だろうに、頑なにそれを持って立ち上がろうとする。
気持ちはともかく、身体が全く言うことをきかないようだ。
それでももがいて立ち上がろうとする。
「何やってんだ! 地べたで這いずり回って、貴様はウジ虫か!」
「た、たぢあがります…… もう、すこしじかんを…… うごけからだ……」
大の男が、って言い方もアレだけど、バズが悔しさなのか辛さなのか分からないが、涙をボロボロ流しながらも歯を食いしばる。
「ウジ虫な上に泣き虫か! 救いようがないな! そんなことで誰を守れるんだ!」
「お、おで、みんな、まもるため、がんばる…… んがぁっ!!」
一声吼えると、どうにか立ち上がり、肩で荒い息をつきながらも大楯を支えに膝をつかぬように踏ん張っている。
「ちっ! 立ち上がったか! ウジ虫は勘弁してやる!
いいかお前ら! この泣き虫野郎の足が止まるようなら、お前たちがその幼子を守るんだ! いいな!」
「「サー、イエッサー!」」
バズと一緒に行動しているテオ達がすかさず彼の四方に回り、彼に背中を向けて棒を構え、残った人員が更に外側で警戒するように周囲に視線を飛ばす。
カイルの怒号は続く。
「いいか! 泣き虫野郎! てめぇは絶対倒れるな! 足の一本や二本無くなっても絶対倒れるな! そのデケぇ図体が見えてる限り、みんなが諦めねぇ! おめぇの盾は、おめぇの背中は、みんなの心の支えだ! 分かったか!」
「さー、いえっさー!」
「お前はその図体と力を守るためだけに使いたいと、誰も傷つけたくないと決めたんだろ! おめぇはバカだ! 心底バカだ!」
厳しいことを言ってるはずのカイルだが、気のせいかも知れないが、どこかその声から羨望が感じられた。
「おめぇはバカだが、俺はそんなバカが嫌いじゃない! だから俺は俺の力の限りを持って、おめぇを最高のバカにしてやる! 嬉しいだろ!」
「さー、いえっさー!」
声は掠れても、バズが上を向いて絶叫した。
こう言っちゃなんだが、何という世界だ。
「私だって理解できませんよ。ただ、こういう人たちも必ず必要で、誰かが土にまみれているから、私みたいな人間が存在できるんですよ。」
どこか自虐的に呟くジェル。
「凄いですよね。ああいう人たちがいわゆる『計算できないような力』を生み出すんでしょうな。」
ほんの数分ではあるが、盾に身体を預けて息を整えたバズがまた一声吼えると、また走り出し、周りを囲んでいた仲間がすぐにその後を追う。
「よぉし! その調子だ! 走って走って走って、どうやったら『楽』に走れるか身体で憶えろ! 周りの奴の奴もそうだ! まずは効率的な動き方を身につけろ! 身体が動く限りはなかなか負けねぇ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「動けなくなって休んでいる時は俺やヒューイの動きを見てろ。何でも良いものは真似して取り入れろ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
男たちが森の中を走り続ける。どれだけ走り続けたのか知らないが、地面はすっかり固く踏みしめられていた。
「やはり場違いですな。帰りますか。」
「……そうね。」
なんか色々「やる気」とか「覚悟」みたいなものを見せられて、圧倒されてしまった。というか、いたたまれなくなった。
みんなこんなに一生懸命なのに、と思ってしまう。あたしは異世界に来て何一つできていないような気がする。
ヒューイとカイルはロックバッファローに巨大ムカデ、ジャイアントワームとたくさんの魔物を倒してきた。今もこうやって訓練をさせている。
リーナちゃんは右も左も分からない異世界で食材を工夫し、色んな料理を作り続け、こちらの人々の胃袋をガッチリつかんだ。
ジェルはこちらの世界にあっさりオーバーテクノロジーを持ち込んで、快適な住環境を作り上げ、なんだかんだで何人もの人を助け、悪徳貴族を叩きのめし、北の鉱山町を救った。
実際に戦ってたのはヒューイとカイルかも知れないが、それもジェルの作った装備があってのことだ。
あたしは…… あたしは何かできてるだろうか? ただちょろちょろとジェルの後をついて回り、危険らしい危険も無く、言い方は悪いが、まるで観光旅行の一環のようだ。
「ねぇ、ジェル……」
「毎度毎度言ってるような気がしますが、私はラシェルに誰にでもできるようなことは期待しておりません。
何か壊したいならカイルに頼みますし、料理ならリーナの方が確実です。ラシェルにはラシェルにしかできないことをしてくれればいいのです。」
でもそれすら怪しいじゃん。今のあたしはせいぜい頭の中のルビィを頼ったり、動物と話ができたり、「魔力」とやらが見えるくらいで…… って、結構凄いことできるな、今のあたしって。
もしかしたらいつか役に立つかもしれない。でもその「いつか」って来ない方が良いことかも知れない。
ま、いいか、と開き直る気も無いが、それでも深刻に考えないことにしよう。
「あんまりボヤっとしていると、森に放置して野生化させますよ。」
「させるか!」
……いや、本気で置いていかれたら、野生化する前に森の滋養になるわ!
さっさとワイルドパンサーに乗り込もうとしたジェルをあたしは慌てて追いかけた。
お読みいただきありがとうございました。




