訓練を見てみよう
この時間の「孤独のグルメ」は刺激的だなぁ、うん、
何台もの汎用箱型作業機械が歩いて数分のワイルドパンサーに積んである荷物を運び続ける。半分は元々ここにいたキューブ、残り半分はあたし達と一緒に来たキューブだ。荷運びが交代で「雄牛の角亭」に戻る予定だ。
荷物はジェルがチマチマ作っていた武器や大楯、消耗品などなどあるが、一番の興味を引いたのはやはり差し入れのお弁当だろう。
アイラとリーナちゃんが用意してくれたのはライスを握り固めた物と、肉と野菜の具だくさんのミソ風味のスープだ。
そのまま食べても良し、ライスを軽くあぶって香ばしくするも良し、スープの中にライスを投入するのもありだ。
山のように用意された、と思われたライスボールはあっという間に飢えた男たちに食べつくされてしまった。
「よし、交代交代で休みを取れ。」
「「「サー、イエッサー!」」」
キッチリと半分が周囲を警戒し、残り半分がテントや簡易ログハウスみたいなところに入っていった。
「どうだ?」
「どう、って言われてもな。
俺の見立てではまぁ体力はついた。技術は付け焼刃だが悪くはない。」
「ガッツはあるが、今のままじゃあ早死にするだけだ。まぁ、その辺はこれから叩き込むけどな。」
ヒューイとカイルの言葉を聞く限りでは微妙な感じが拭えない。
「後はジェラードの小細工が利けば負けは無いな。ただ、向こうがこちらの予想を超えて道化を装っていたら勝てない。」
「その時はその時です。
そんなに器用な真似ができるようなら、そもそもこんな状況にはなってないと思いますがね。」
まぁジェルのことだ。ゲーム盤をひっくり返す用意はしているだろうし、ひどい言い方だが、テオ達が第三騎士団に負けたところで悔しいくらいで、あたし達に損はない。無論、向こうが言うアホな要望も聞く理由が無いわけだし。
よくよく考えたら勝っても良いことが無いような気がしてきた。
こっちもアホな要望でも出してみるか。
「実に魅惑的な提案ですが、エレガントじゃないので止めておきましょう。」
エレガントうんぬんは別として、相手のレベルまで下がる必要もないか。
「そういやぁ、カイル。コレはコレでいいのか? 一応作ってみたが、お前以外じゃ持てないぞ。」
「お、できたか。見せてくれ。って、これか。デカすぎて一瞬分からなかったぜ。」
カイルにしては珍しく、よいしょと掛け声をかけて、自分の身長よりも大きいくらいの大楯を持ち上げる。
「おお、これはなかなかの大きさだ。これだけデカくても木製だから思ったより軽いな。」
ブンブン、とまでは言わないが、ブオンと振り回された大楯が空を切る。いくら「盾」とはいえ、アレだけの大きさと重さがあれば鈍器として十分以上の破壊力がある。無論、振り回す体力と身体の大きさが必要だが。
たぶん、というか間違いなくあの盾はあたしよりも重い。
「よぉし、バズ! ちょっと来い!」
「さー、いえっさー!」
なんか野太いというか、ガサガサした感じの声が響くと、簡易ログハウスの陰から誰かが立ち上がる。
おおっ。
一瞬見間違えたかと思ったが、天を突くような――それこそカイルに匹敵するほどの大男がのっそり現れた。
身長だけでなく、身体の幅も手足の太さもすごい。カイルと違って少し太っちょ感があるが、もしかしたらカイルの生き別れの弟と言ったら信じるくらいの巨体だ。
「バズ! これがお前の武器であり盾だ。お前はこれを使いこなきゃならん!」
「さー、いえっさー!」
「その代わり、今までの訓練が天国に思えるほど厳しくする。お前がその盾で仲間を守り続けられたら俺たちの勝ちはさらに不動のものとなる。」
「さー、いえっさー!」
カイルがバシン、と手を叩くと、あちこちで監視していた組と、休憩していた組が集まると、整列する。その間にヒューイがまた木に登り周囲に目を光らせる。
チラリと腕時計に目を落としたカイルが満足げに頷く。
「よし、前より速くなっている。何度でも言うが、一秒速くなれば、一秒できることが増える。分かるな?」
「「「サー、イエッサー!」」」
一糸乱れぬ動きで声を張り上げる。
「午後からはバズの盾の訓練を始める。主力部隊は追従の訓練。他の奴らは攻撃の訓練だ。武器の予備は来たから、折るくらいの気持ちでやれ!」」
「「「サー、イエッサー!」」」
掛け声勇ましく、いくつかに分かれて訓練が始まる。
長い棒と短い棒を持った者同士が組んで、激しく打ち合う。どうにか見える範囲だと、片方が何度か打ち込んでは、もう片方がそれを受ける。そして攻守を逆転させる。
ただ、何が問題かと言えば、全然休みなく打ち込み続けているのだ。お互い動き続けているのですぐに動きが鈍くなってくるが、そうなるとカイルの怒号が飛んでくる。
動きが鈍くなると、受けきれなくなって打撃を受けて更に動きが鈍くなる。限界に達した辺りでヒューイが止めて、数分だけ休憩させる。そしてまた打ち合いの始まりだ。
怪我、というか打撲はモスたちがあちこち回って、治療の魔法をかけている。彼らも彼らで休む暇がない。これも訓練なのかも知れない。
「おらおら! ちんたら走ってるんじゃねぇぞ! 右!」
またカイルの怒号が飛ぶ。
さっきバズと呼ばれた大男が、自分よりも大きい盾を構えて全力ダッシュをしている。カイルの声と共にすぐに方向転換をしてまたダッシュ。カイルだって重さを感じるくらいの大楯を身体の前に構えたまま走り続けるのは相当のハードワークだろう。その後ろからテオを含めた数人が同じように走っていく。こちらは片手に棒を持っているだけなのでまだ楽そうだが、それでもいつ終わるか分からない連続ダッシュは体力だけでなく、精神も消耗する。
「あぁっ!」
疲れで足がもつれたのか、バズが大楯ごと大きな音を立てて倒れた。立ち上がろうとしても、もう身体がろくに動かないのか、震える手足で必死に立ち上がろうとする。
さすがに見てられない!
そう思ったが、腕を横に伸ばしてジェルがあたしを止めた。
「もう少し見てましょう。」
……うん、分かったよ。
お読みいただきありがとうございました。




