魔法の練習をしてみよう
一日遅れです。すみません。
頑張ろう、自分。
「どういう魔法があるのか知らないけど、あたしにも使えそうなのある?」
(う~ん、難しいの。召喚魔法は特殊だからルビィは普通の魔法は詳しくないの。)
特殊かぁ。たぶんあたしには召喚魔法は無理なんだろう。
(とりあえず、魔法と魔力の基礎を教えるの。)
前にもきいたけど、空気を含む万物に魔素が存在しており、生物は体内の魔素を魔力に変換して様々な魔法的効果を発生させる。身体の中の魔素が少なくなれば、魔力を生み出せなくなるので魔法が使えなくなる。これを「魔力切れ」と言われるが、正確には「魔素切れ」であるらしい。体内から失われた魔素は周囲から吸収して回復することができる。
自然界に存在する魔素は場所により濃度が異なり、ほとんど存在しないところから、濃厚に存在するところもある。
一般的な魔法は、体内の魔素を魔力に変えて発動するが、特殊な術式や儀式などを用いると、大気中の魔素を使うこともできるそうだ。召喚魔法がそのいい例で、その場の魔素の濃さや雰囲気みたいなもので召喚される魔物が決まるらしい。
(でも召喚魔法って生まれつきの素質みたいなものがあるから教えられないの。)
いいよ。自分の「存在」を代償にするんでしょ? そんなことしたらジェルに何言われるか。……ルビィだってそうよ。絶対にするな、なんて言わないけど、それでも心配する人がいることは憶えておいて。
(うん…… 分かったの。)
それより、まず魔法を使うには魔力を生み出す、でOK?
(うん、そうなの。まずは自分の中の魔素を魔力に変えて、身体に流すの。)
……ん~ 魔力が「視」えるようになっても、その前段階が難しいなぁ。それこそあたし達の世界には「魔素」なんて物はなかったわけだし。
なんとなく手の平の上に力を生み出すような感じで集中してみる。
心の中で「はぁぁぁぁっ!」と念じてみるが、何も変化が無い。
気合が足りないんだろうか?
「はあぁぁぁぁっ!」
声を出してみたが、何も起きない。
右目で「視」てもモヤモヤが出てくる様子も無い。
と、ひょい、と裏庭が見える窓からアイラが顔を出した。
凄い微妙なタイミングで目があった。
「…………」
「ちょっと待った待った。ストップストップ!」
何一つ表情を変えずに顔を引っ込めようとしたアイラを、なんか知らないけど必死に呼び止めた。
「まぁ、確かに今は手が空いてますけど、って魔法ですか?」
「アイラって魔法とか使えるの?」
「う~ん…… いや、使えなくも……ない、んだけど。」
おお、凄い、と思う前になんかえらく歯切れが悪い。
「見てて。」
彼女が両手を合わせて前に突き出し、顔に力が入るくらいに集中する。おっと、忘れない内にあたしも右目に集中する。
なんかこう、全身のあちこちから魔力が湯気のように出ている。よく分からないが、多分ダダ洩れしている感じだ。
手の先の方で漏れている魔力が凝縮するように集まりそうになるが、固まりになる前にパンと弾ける。
「やぁ!」
それと同時に手の先から火……じゃなくて火花か。それがパッと散って、消えた。枯れ葉とかあったら燃え上がるかも知れない。
「…………」
「…………」
気まずい雰囲気が二人の間に広がる。なるほど、これがさっきのあたしか。
(……こう、無駄が凄いの。)
うん、そりゃあたしも分かるわ。
「と、あたしじゃこれで精一杯。」
どこか肩で息をしているアイラ。相当疲れたらしい。
(魔力量は十分なの。でも魔力の収束が上手くいってないの。)
どうしたらいいの?
(う~んと……)
ルビィの説明によると、魔力は頭や心臓から出て、手や足の先、口、あとは、その、男女の股間にある、ほらそういうところから放出したり吸収しやすいようだ。
……ああ、あたし達の世界のオカルトだと、胡散臭い教主様なんかがすっげーお盛んだったけど、そういうこと言って騙していたんだろうか。誰かさん達がぶっ潰したのでよく分からないが。
「でもラシェルのいた世界、って魔法無かったんでしょ?」
「うん。でもジェルが使えたみたいでさ。」
「それはジェラードさんだからかと……」
万能理由だな、それ。
「というか、魔法が使えなくても、魔法みたいなことできるでしょ?」
「そりゃあ、ねぇ。」
ただ残念なことに種も仕掛けもある手品みたいなもので、それこそ身体一つで出来るような「魔法」ではない。
あ、待てよ。
「そういえばアイラって、魔法使おうってするとき、なんて考えてる?」
「う~ん、と、『火よ出ろー』かな? 全然でないけどね。」
ちょっと待ってね、と裏庭に積まれたコンテナをゴソゴソ探す。お、あったあった。
「これ見て。」
カチッとスイッチを押すと、その近くにポッと火がともる。
「わっ。」
あたし達の世界では一クレジットもしない道具ではあるが、こちらでは不思議な道具に見えるだろう。単なる使い捨てライターなんだが。
「指先一つで火を作れる、って少し前なら凄いなぁって思ったけど、今はもう……」
そりゃそうだ。「雄牛の角亭」のキッチンもお風呂も照明も火使わなくなったしね。あ、ピザ窯はあるけど、いつの間にか汎用箱型作業機械が先に温めているしなぁ。
「この道具は中に燃える気体が入っていて、それに火が付くから燃えるわけ。薪も燃え尽きたら火が消えるでしょ? と言うことは、火が燃えるには『何か』が必要なの。」
「そっか。魔力を集めるんじゃなくて、少しずつ流すようにする……?」
「あとね、全身に力が入っているのか、身体のあちこちから魔力が漏れているっぽい。指先に…… あ、もう一回待って。」
またコンテナの中を探す。
何かちょうどいいの…… ってなんでこんなもんがあるねん。ま、いっか。
取り出したものをアイラに手渡す。
「ほら、指先から火が出たら火傷するかもしれないでしょ? この先から出せばよくない?」
「なるほどー」
と、先端に星の飾りがついたマドラーに使えそうな棒を軽く振って具合を確かめると、さっきと同じように集中を始める。今度はあんまり力をこめてないようで、全身から湧き上がる魔力があまり漏れていない。その分、頭や心臓から伸びる魔力が腕を伝って、棒の先に集まる。
「小さな火よ!」
ボッ!
ライターよりももうちょっと大きいくらいの火が棒の先から噴き出した。
「できた……」
すぐに消したが、呆然と棒の先の星を見つめる。
「できた、けど……」
嬉しい反面、微妙な表情を浮かべるアイラ。
「使い道、無いよね。」
さっきも言った通りオール電化になった「雄牛の角亭」では火を使うことはもうないんだよね。
う~ん、結局あたしはまだ使えないじゃん。
お読みいただきありがとうございます。




