この世界のことをちょっと考えてみよう
ちょっと時間がアレでアレでした(訳わからん)
「お、そうだ。忘れるところだったぜ。」
すっかり食欲暴走モードになっていたカイルがふと正気に戻る。
「二人ほど怪我人だ。一人はそれなりに重傷だ。悪いが見てくれ。」
「よし、行けるな。」
「「サー、イエッサー!」」
「私は後ろから見ているが、間違ったときは口を出す。あと、練習だと思って小さな傷でも可能な限り治してみろ。」
「「サー、イエッサー!」」
モスが先陣を切って四人の魔法使いたちが外に出て怪我人の所に向かう。その動きの速さに、遅れて入ってきたヒューイが感心したような目を向ける。
「目つきが変わったな。何かあったのか?」
「そうですね。後程お話ししますよ。
とりあえず訓練も兼ねて、全員の傷を治させます。」
言外にそれだけ厳しい訓練をしたんだろ、とするジェルにヒューイが苦笑いを浮かべる。
「それは仕方がない。でもこっちの人間の特性かどうか分からないが、成長速度が著しい。
例えは悪いが、まるでゲームのようだ。」
どういうこと?
「なるほど…… つまり、訓練中にもレベルアップやスキル取得をしている、って感じですか。」
ヒューイが小さく頷く。
二人とも声を潜めて、他の人――それこそ、異世界の人たち――には聞かせる気は無いらしい。
(ゲーム?)
ああ、あたしの中にいるルビィには内緒話は無理か。まぁ、今はとりあえず聞き流しておいて。
(……うん、なの。)
でも、この世界がリアルであることはすでにジェルが調査済みである。ジェルやシルバーグリフォン号でも感知できないほどのシステムならそれはもう現実と同義だろう。
ねぇ、もしかして今でも「人の能力値」を知る方法ってあるの?
(え……?)
ちなみに今は一般的では無いのは何となく予感だ。仮にあったとしたら、カイルとかジェルとか見たくなるようなサンプルがいるのに、冒険者ギルドの副マスターのガイザックさんとか領主のジェニーさんが一切アクションをしなかったのはおかしい、と思う。
(う、うん。なんでラシェルがそんなことを知ってるかどうか分からないけど、あるって聞いたことあるの。)
もう廃れた技術ってことなんだろうか?
まぁ、難しい話はジェルに考えてもらおう。
と、ジェルの様子を見に出てみたら、外で板を敷いて、怪我人の治療を行っていた。
「時間があればまずは傷口の洗浄ですな。ポイントは二つ。様子を分かりやすくすること。もう一つは異物を排除することです。」
ジェルを中心に怪我人を囲んでレクチャーをしている。
「傷口を酒で洗うのも悪くはないですが、出来れば煮沸して冷ました水。あれば少し塩を溶かしたものが良いです。」
魔法を使わなくてもできる手段なので、憶えておくに越したことはない。
あちこちでモスたち魔法使いがムニャムニャとやっている。右目で「視」てみると、手から伸びたモヤモヤがあんまり広がらずに傷口に降り注いでいる。なるほど、あれが効率のいい魔法の使い方か。
……ねぇ、あたしにも魔法使えるかな?
ちょっとルビィに聞いてみる。
(う~ん…… どうなんだろ? ラシェル魔法使ってみたいの?)
使ってみたいというか、いざって時の一手が欲しいのよね。
(……ん~ 分かったなの。ラシェルは力に溺れなさそうだし、何か考えてみるなの。)
ん、ありがとう。
さて、向こうはどうなったかな?
「よし、旨いメシを喰うためには準備が必要だ。まずは拠点の設営だ。」
「「サー、イエッサー!」」
気づくとカイルが仕切っていた。
拠点なんて言ってるが、単にテオ達全員を店に入れると狭すぎるので、外にテーブルを設置するだけの話なのだが。
すでに野営用の材料が用意されてあったので、すぐに役割分担を決めて、黙々と組み立て始める。見事な連携で「雄牛の角亭」の前にテラス席と言えばカッコいいが、無骨な大テーブルが完成した。
「はーい、お待たせー」
「お待たせいたしました。」
アイラとリーナちゃんが大きな鍋を汎用箱型作業機械に大鍋を乗せてやってくる。
「たっぷり作ってあるんで、急がず慌てず並んで下さーい!」
「「サー、イエッサー!」」
流行りか。
二列で整列した後ろに、カイルとリリーも並ぶ。キビキビと木製のボウルのようなものを受けとっては席についていく。ちなみに最後の所にいたカイルとリリーは大盛を頼んでいて、コッソリ信頼度を落としたのかも知れない。
「よぉし、皆受け取ったな!」
「「サー、イエッサー!」」
「それでは、食材になった命と、その命を調理した人に感謝の気持ちを込めて『いただきます!』」
「「いただきます!」」
大合唱が起きると、皆一斉に食べ始めた。
「博士、ラシェルさんもどうぞ。」
リーナちゃんがあたし達の前にもボウルを置いていく。ちなみにあたし達は店内のテーブルだ。
お、なんでしょなんでしょ?
中身はライスの上に牛肉――おそらくまだまだ残っているロックバッファロー――の薄切り肉をタマネギとかの野菜と一緒に煮込んでくたくたになった物を乗せている。
随分ざっくばらんとした感じだが、ライスの上にぶっかけるだけなので、大量に作りやすいのだろう。ただ欠食児童たちの食欲を満たすには十分以上だ。
「うめぇ!」
外のテラス席から聞こえるシャウトがそれを物語っている。
あたしの胃袋の主張が激しくなったので、さっそく食べることにする。あたし達は箸が使えるが、異世界の人では難しいようなので、スプーンをつけている。
ちなみにアイラたちはすでに箸をマスターしている。食欲のなせる業なのか、リリーが憶えるのが一番早かった。
それはさておき。あたしもこの料理――ギュウドンというらしい――にとりかかる。
(おいしー!)
うん、確かに美味だ。
すっかり煮込まれたロックバッファローであるが、しっかり肉らしさを主張している。ちょっと味が濃いように感じられるが、ライスと一緒にかっ込むと程よい絶妙な味わいとなり、箸が止まらない。
……おお、一気に食べきってしまった。
外からお代わりを求める声が聞こえるので、こちらの人たちにも好評のようだ。よきかなよきかな。
すっかりお腹が落ち着いたので、のんびりハーブティを飲むことにした。
……甘い物、ないかなぁ?
……さて、この世界は一体何なのでしょうか?
お読みいただきありがとうございます。




