大まかな作戦を説明しよう
ゴールデンウィーク、皆さまはどうお過ごしでしたでしょうか?
……おかしい。どう計算しても三連休一回しかしてない。何故だ?!
世の中不思議に満ち溢れているようです。
とりあえず、ミスキスのホバーボードは店内に事情を知らない一般人がいる時は禁止とされた。
「……便利。」
ミスキスはあたしと同じくらいの身長なので、高いところの作業はちょっと大変なのだがホバーボードがあれば問題ない。移動速度もあるし、ミスキスの運動能力があれば落ちたりぶつかったりする心配もない。
「別に機能を隠したつもりは無いのですが、手動ですべてリミッターを解除されるとは思いませんでした。」
ジェルが微妙な表情で呟く。
あたし達の世界の技術、というほどではないが、異世界の人たちには見たこともないインターフェースをミスキスは実に器用に操作できていた。
結局、あの時一瞬見せたミスキス用のホバーボードを寝静まった後にこっそりゲットして、夜中に練習していたらしい。リリーと同様、すぐに慣れて後は見様見真似でリミッターを解除していったそうだ。
「いいの?」
「まぁ、元々は使ってもらう予定でしたので。悪用しなければ文句はありません。」
「……ありがとう。」
小声で聞きづらかったが、そんな言葉を口にすると、ミスキスはクルリと背を向けて、白衣を改造したワンピースを翻して飛び去っていった。
と、ジェルが酸っぱい物を食べたような顔をして視線を逸らして、あたしの顔の上で止まる。
指先でちょいちょいと呼ぶので、身を乗り出して顔を近づけると、耳元に口をよせる。
ごにょごにょごにょごにょ。
どこか気まずそうな顔で回りくどい言い方をするジェルだが、まぁ理屈は分かった。
私服もショートパンツだったし、そもそもミスキスだとそういうのって気にしてない感じだし、実際そうだったし。
まずはリーナちゃんにスパッツ的な物を頼んでおかねば。
あれから戻ってきたヒューイとカイルも含めてみんなで昼食をとった後、テオ達の部隊――そういやぁ名前ないんだろうか――がやってきた。
先に汎用箱型作業機械達がテーブルと椅子を片付けて、店内に広い空間を作って、どうにか全員が入れるようになった。
その際に、テーブルも椅子も特定のネジを外すと、簡単に分解できて、しかも床下の収納スペースに全部仕舞えるとは思わなかった。
いつの間に、とアイラが驚き呆れていたが、今更だとは思う。床下スペース、まだ余裕あったよな、うん。まぁ、必要になったらジェルが何か言ってくるだろう。
「よし、全員揃ったな。」
「「「サー、イエッサー!」」」
相変わらずこの軍隊っぽいノリにはついていけないが、まぁ士気は高いようで結構だ。
「まず知ってると思うが、こいつはジェラード。俺たちの参謀役だ。」
「「「サー、イエッサー!」」」
勢いに押されながらも、いつもの面倒くさそうな雰囲気を漂わせてジェルが前に出てくる。
「今紹介されたジェラードです。
まぁ、色々あると思いますが、まずは絶対勝ちます。」
「「「サー、イエッサー!」」」
「ただ相手は多少中身が腐っていたとしても、装備は良いし、ちゃんとした訓練も受けています。対してこちらは体力はともかく、練度は低いと思われます。」
「「「…………」」」
図星なのか、皆が一様に黙り込む。
「なら今必要なのは情報と戦略です。どちらも私が用意しましょう。」
ザワザワとまではしないが、お互い顔を見合わせて今の発言の意味を考える。ジェルがどこか自慢げに口元を小さく歪めた。
「運よく、少し情報は集まっています。」
何が「運よく」だ。またドローンか何か飛ばしたんだろうに。
「相手は確かに練度は高いですが、集団戦闘というものを低く見ているのか、連携に関わる訓練をほとんど行っていません。」
つけ入る隙はいくらでもありますな、と鼻で笑うジェル。
「まずは隊を五つに分けます。その前に助っ人を紹介しましょう。」
と、さっきまで厨房の方に下がっていた三人を呼ぶ。いきなり現れた美少女たちにざわめく面々だが、その中でテオが一歩前に出た。
「サー、発言を許可願います、サー!」
「許可します。」
「サー、彼女たちを参加させるのは危険なので再考願います、サー!」
ふむ、小さく頷いてとジェルが後ろのカイルに視線を向ける。カイルも同じように頷いた。
「聞けぇ!」
カイルがいきなり声を張り上げた。
「お前たちは騎士を目指しているんだろ!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「ならば、か弱き女性を守ることこそ、騎士の本懐とは思えないか!」
「「「……! サー、イエッサー!!!」」」
今まで一番気合の入った返事が返ってくる。
「しかし彼女たちはお前たちと違う方向性で強い! もしかしたら守ってやる必要はないかも知れない。
ただ、俺は『それならいいか』なんて抜かすような男を鍛えているつもりは無い!」
「「「サー、イエッサー!」」」
「よし、良い返事だ。」
満足げに頷くと、カイルが一歩引いて、またジェルが前に出る。
「大雑把に言うと部隊を五つに分けます。」
一つは主力部隊。三つはリーナちゃんたちの護衛に回る部隊。残り一つは魔法使いとその護衛部隊だ。
「基本的な作戦は各個撃破、です。
四十対四十で正面から戦って、勝てたとしてもこちらの被害は大きいことでしょう。ですから、相手を分散させて、二対一以上で一方的に叩きのめします。」
主力部隊は剣(を模した棒)と大楯、残りの護衛部隊は槍(を模した棒)の訓練を始めるそうだ。魔法使いは座学と言うか、ジェルがちょっと色々授業をしてみたいそうだ。
「これから数日は午前中は基礎訓練、午後からは武器の訓練をします。
……そうですねぇ、やる気が出るように、こちらで訓練した日は夕飯を提供しましょう。」
「「「…………」」」
おや、反応が鈍い。「雄牛の角亭」の夕食くらいじゃモチベーションが上がらないか?
「「「うおぉぉぉぉぉっ!!」」」
いきなり店が揺れるほどの歓声が上がった。
「サー、一同大変やる気が出ましたです、サー!」
「「「サー、イエッサー!」」」
なんだろ? アイラとリーナちゃんの料理がそんなに魅力的なのか、それとも単に「可愛い女の子の料理」がいいのか。
……男って単純、でいいのだろうか。
「さぁ、私の口からは何とも。」
そんな顔をしていたかどうか知らないが、ジェルがあたしの横で小さく肩を竦めた。
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