服を着させよう
想像するときっと幸せになります(謎)
「……! ……!」
あれからみんなが戻ってきて夕飯にして、お風呂入って寝た。充実した一日と言われると分からないが、まぁ、異世界に来てもどうにかこうにかやっていけてる。
なんて悩もうが、そうしなかろうが、世の中平等に朝が来る。いつものように……というか、今日はジェルが身じろぎしたので目が覚めた。
「どうしたの?」
「すみません、起こしてしまいましたか。いえ、なんか声が……」
下は改築したが、二階はほとんど触ってないので、安普請と言っては悪いが、意外と周りの音が聞こえる。仲良しすぎると色々問題じゃね? とちょっと考えてしまう。
……そうじゃなくて。
ドアの外、というか店内で女性の声が聞こえるような気がする。はて?
椅子にかけてあった誰かさんの重たい白衣を羽織ると、ドアを開けて階段から下を覗き込む。
(ミスキス! 店で空飛ばないで!)
(…………)
(あと、ちゃんと服を着て!)
(…………)
下では何が起こってるんだ?
「なんか不穏な言葉が聞こえてきたので、すみませんが見てきてください。」
「うん。」
いつの間にかに着替えてきたジェルが後ろに立っていた。白衣はあたしが奪ったので、珍しく白衣無しバージョンだ。
レア感はあるが、儲かった感が全然ないので、コメントせずに階段を下りた。
「なるほど。」
「ちょっとー 見てないでどうにかしてよー!」
「大丈夫。掃除はもうすぐ終わる。」
一階に降りたあたしが見たものは、まさしく空を飛ぶ半裸のミスキスだった。
下の店舗の窓は大きめに作ってあるせいか、上の方を拭くには汎用箱型作業機械を踏み台代わりに使っていたが、今は直接ミスキスが飛んで拭いている。
「その前に服着てー」
アイラの悲痛(?)な声が響き渡る。
「どうしたの?」
「寝坊した。掃除は大切。」
えっと、おそらくだけど、何かの理由で寝坊して、慌てて起きたけど掃除しなきゃならないことに気づいて、着替えもすっ飛ばして、飛んできてらしい。ミスキスは寝間着は使わないタイプらしい。真面目なんだろうが、なんか方向性が間違っている。
というか、そもそも……
「それ、」
「うん…… すごい便利。感謝。」
え~と、その、喜んでもらえて何よりだ。
色々解決させたいけど、まずは話を進めるための提案をしよう。
「あたしも着替えてくるから、まずミスキスも服をちゃんと着てきて。でないと男衆を下ろすわけにいかんのよ。」
「…………理解した。」
どこかボンヤリした目で店内を見回して、あたし達以外にいないのに気づいて、ギュンと効果音がつきそうな勢いで、飛び去って行く。
「ねぇラシェル……」
微妙にアイラが責めるような目で見てくるので、着替えを口実にあたしも逃げることにした。……白衣が重いのなんの。
「ジェラードさん!」
リーナちゃんは先に下に行ってても思っても良かったんだけど、律義に待っていたので、なんかチーム・グリフォン全員で一階に降りることに。
と思ったら、腰に手をあてたアイラが待ち構えていた。ちょっと怒ってますよー って顔だが、あんまり迫力はない。
「あれは何ですか! って何となく分かりますけど、その……」
なんか言葉を思いつく間に怒気が失せていくので、なんかこう、可愛い。
「とりあえずミスキスのアレを作ったのはジェラードさんですよね?!」
「そうなんですけどね……」
ジェルがちょっと困ったように頬をポリポリかく。
「昨日は遅かったので、今日から教えるはずだったんですが……」
「おはよう……」
すいーっとミスキスが戻ってくる。その足元には円形の板があって、それが宙に浮いて地上二十センチくらいを滑るように移動している。
うん、確かにジェルが言う通り、昨日は見せただけなんだけどなぁ。あれ? もしかして寝坊の原因って……?
「一晩でマスターした。」
表情が分かりづらいのでアレだが、どこかドヤ顔をしていると思われるミスキス。
「つまり、根本の原因はジェラードさんだけど、今回のことはどちらかと言うと、ミスキス単独ってことでいいのかな?」
「……楽しかった。」
楽しげに、そしてどこか寂しげな雰囲気のミスキス。アイラの雰囲気から色々叱られて、何かの罰が当たりそうな気がしたのだろう。罰があるとするならば、簡単にホバーボードの没収であろう。
「まぁまぁ。」
その判決を下そうとしたところで、ジェルが割って入る。
「楽しい道具を与えてしまった私の責任もあります。今度アイラさんにも何か作りますので、どうかここは穏便に。」
「…………」
アイラがジェルとミスキスの顔を交互に見て、はぁーっとため息をついた。
「もういいです。あたしも本気で怒ってたわけじゃないですから。
ただ女の子なんですから服はちゃんと着てくださいね。」
そっち?! 空飛ぶのは良いの?!
「すっかり遅くなったんで、急いで朝食用意しますね。」
「うぉ! 朝食か! しまった、アイツらの朝練見なきゃ! でも腹が……」
急に吼えだしたカイルに、リーナちゃんがいつの間に用意したのか、そっとバスケットを差し出す。
「簡単なもので申し訳ありませんが……」
「いやいや、リーナちゃんが作ってくれたもんに間違いはない!」
それじゃな! ともう一度吼えると「雄牛の角亭」を飛び出していった。
「あ~ 朝ごはんの用意を…… って、リリー起こさないと!」
厨房をリーナちゃんとミスキスに任せると、アイラはねぼすけを起こしに向かった。
今日もまた騒がしい一日の始まりだ。
お読みいただきありがとうございます。




