乗せてみよう
もう桜があちこちで咲き始めてきました
春かなぁ、と思いつつも、まだまだ朝晩涼しく感じられます。
風邪をひきやすいので皆さまご自愛を
あの後、テオとハンスさんにソフィアさんが夕食前であったが帰っていった。リーナちゃんとしては残念がっていたが、彼らにも色々あるのでしょうがない。今回のゴタゴタが収まったらゆっくり歓待するとしよう。
「ん~」
ジェルが分かりづらいが、悩んでいる顔をしている。このパターンは「本当はしたくないんだけど、いい手なんだよなー」ってとこだ。
「何考えてるの?」
「いやぁ、例の助っ人の件ですが、どうしましょうかねぇ、と。」
おそらくは候補は決まっているんだろうな。じゃあ、遠回りな聞き方をしてみるか。
「ヒューイとカイルはなんでダメなの?」
悩んでいるってことは、この二人は除外だ。理由は何となくわかる。勝つだけでいいならたぶん一瞬で終わる。カイルの砲撃に耐えた上でヒューイのスナイピングに耐えられる奴がいるはずもない。だけど、前提条件として「テオ達」が勝たなきゃいけない。ヒューイ達、ついでにジェルは入れたらダメだ。
となると、他に戦えそうな人って……
あ~ いや待てよ。色々考えてちょうど三人ほど思いついたぞ。
「いやぁ、それはどうなの?」
「ですよねぇ。」
ジェルも同じ思いだ。とはいえ、確かに悪くない選択ではある。ただその理由がちょっといただけない。
「リリーさん、ちょっといいです?」
「どしたのハカセ?」
「ちょっと表へ。実験と言いますか、何と言うか……」
「よーし、表に出ろーい!」
タタタと軽い足音を立てて出ていくリリーを追って、二人でついていく。
表に出ると「雄牛の角亭」の裏に回る。
裏庭というか、資材置き場というか、カイルが全力で駄々こねても掠りもしないくらいに無駄に広い。
しかも変な資材があちこちに積んであって、見通しも悪いが、逆に言えば多少なんかしたところで見咎められる心配もない、ってことだ。
「さて、」
さすがにいつもの白衣のポケットからではなく、無造作に積まれたコンテナ(こっちの品にあらず)の一つを開けると、意外な物が出てくる。
「ホバーボード?」
そう。あたし達の世界ではありふれた遊び道具の一つだ。簡単に説明すると、宙に浮く板で、上に乗って移動できる。
市販の物は高度や速度制限があるし、そもそもそんなに出力が高いわけじゃない。一般的には宙に浮いたボードに乗り、足で地面を蹴って移動したり、坂道を滑り降りるような感じだ。
が、ジェルのことだ。どれだけ無駄なパワーアップを果たしているか想像ができない。
「これは宙に浮く板です。まずは乗ってみてください。」
「お~!」
すでに地面から数センチ浮き上がっているホバーボードの上にリリーがピョンと飛び乗る。
「おおっ?!」
体重がかかって、僅かに沈み込むが、すぐに元の高さに戻る。
「なんかフワフワするね。」
あたしも人並みにホバーボードには乗れるが、一番最初に乗った時は、なんか安定しなくて結構フラフラしたものだったが、リリーはバランス感覚が良いのか、微動だにしない。
「少し前に体重をかけてみてください。」
「こう……かな? おおっ!」
言われた通りにリリーが少し身体を前に傾けると、ボードがゆっくりと動き出す。
「基本的には体重を乗せた方に動きます。今はまだゆっくりとしか動かせないですが、慣れてきたら少しずつ速くします。」
「うん、分かった!」
スイーっと滑りだしたリリーが少しずつコツを掴むように右に左に体重移動をして、ボードを揺らしながら速度を上げていく。
「……あれ? ハカセー これで一番速いの?」
「「早っ!」」
思わずジェルと声がハモってしまった。五分も経ってないけど、人が歩くよりも早いくらいのホバーボードを自由自在に乗りこなしていた。というか、逆に速度が足りなくて安定してないようだ。
「二段階くらい上げてもいけそうですな。
怪我されたら困るので、これを。」
コンテナの中から肘と膝のプロテクターとヘッドギアを取り出して、フワフワ近づいてきたリリーに手渡す。
「少し性能を上げます。」
腕のコンピュータをポチポチ操作すると、さっきの倍ほどの高さに浮き上がる。
「ちなみに、あんまり調子に乗ってケガするようでしたら取り上げますので。」
ギクッとリリーの背中がピクついたのが見えた。こりゃ先に釘を刺しておいて正解だったようだ。
「ひゃっほーっ!!」
「「おおー。」」
あれから三十分ほど。ドンドン上達していったので、すでにリミッターは通常の範囲ですべて解除してしまった。今は障害物をジャンプ台替わりにして、宙がえりしながら縦にも横にも回っている。
「ハカセ! すごい面白かった!」
あたし達の前にホバーボードを停止させ、ピョンとリリーが飛び降りると、ジェルから受け取ったペットボトルのドリンクを一気に飲み干す。
「何か不具合や不満はありましたか?」
「ん~ もう少し速くてもいいかな?」
「なるほど。」
まだまだ余裕があるってことか。すごいなぁ、リリー。ジェルもそんなことを思ったのか、どこか感心したように見えたが不意に視線が横を向く。
「……そろそろ晩御飯。」
「わっ!」
全く気配を感じさせなかったミスキスがいきなりリリーの背後に現れた。
「も~ ミス姉ぇ、驚かさないでよー」
「ん…… ごめん。」
「あ~もう、謝らなくっていいって。」
「うん……」
なんか上手くやってるようである。と、ミスキスが未だに宙に浮いているホバーボードに気づいて小さく首を傾げる。
「これ…… 何?」
「空飛ぶ板?」
間違っちゃいないけど、間違っちゃいないんだけど…… ツッコむかどうか悩んでいる間にミスキスがかがみこむと、浮いているボードをツンツンと興味深げにつつく。
「……面白そう。」
「それは一応リリーさん用に作っておりまして……」
「そう……」
ジェルがそう言うと、ミスキスが少し寂しげというか、切なげな声を出す。それに気づいているかどうか知らないが、ジェルがさっきのコンテナから今度は丸い板を取り出す。
大きさは五十センチくらいかな? 普通のホバーボードは長めの楕円形だが、これはまん丸だ。
「速度を重視したリリーさんの物と違って、こちらは小回りを重視したボードです。ミスキスさんはこちらの方が良いかと。」
「……ホント?」
どこか眠たげなミスキスの目が少し見開かれる。
「今日は遅いので、明日から少し練習してみましょう。」
「…………うん。分かった。」
妙な間が気になったが、あんまりここでダラダラしていると、アイラが怖いので四人で「雄牛の角亭」の店内に戻ることなった。
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