色々話を聞こう
一時期、雪が降らないまでも寒い日が続きました。
どうにかこうにか暖かくなって北海道にも春が近づいているようです。
まぁ、まだあちこちに雪が残ってますけどね。
リリーが庇った子供はゴタゴタの最中にどっか行ってしまったので、彼女を連れて「雄牛の角亭」に戻る。
「ちなみにリリーさんはどうしたので?」
「仕事帰りー 変なおっさんが子供に絡んでたからついー」
「ふ~ん、正義感が強いのは結構ですが、女の子が危険なことしちゃいけませんよ。」
「大丈夫ー きっと危険になったらキューブ君やパンサー君が助けてくれるんでしょ?」
「……むぅ。」
彼女の後ろから汎用箱型機械が四個ほどついてきている。さっきまでは地面の色にカモフラージュしていたので気付かなったが、いざとなれば前に出たんだろう。
「それでも……」
「うん、分かってる。でもそんなこと考える前に出ちゃったんで、ごめんなさい。」
「……むぅ。」
言いたいことを先に言われて、しかも謝られたので、ジェルが唸る。
「分かってるなら結構です。」
(リリーさんにも何か考えますか。)
ジェルがこそっとあたしにだけ聞こえる声で呟く。リリーも結構無鉄砲なところがありそうなので、何か小細工が必要かも知れない。
「お帰りなさい。」
「お帰り……」
看板娘二人が迎えてくれた。なんか嬉しい。
「雄牛の角亭」に戻ると、リーナちゃんが持っていた荷物を置いて、厨房に駆けこんでいった。それを見て、アイラも後を追う。
「……座って。」
ミスキスに言われて、いつもの席に着くと、人数分の水が運ばれてくる。
早速厨房から何かしらの調理を始めた音が聞こえてきた。さてさて、今日のおやつは何かしら。おそらくもうすぐハンスさんとソフィアさんが来るだろうから、あまり時間はかけられないだろう。
詳しいことまでは聞こえないが、厨房から女の子の会話らしいものが聞こえてくるので、順調らしい。
「私も行ってくる……」
声が聞こえたかと思うと、もうミスキスの姿が消えていた。
またジェルが作業モードになっているし、テオはどこか考え込むような顔をしている。
「その、ラシェルさん……?」
「ん? 何?」
こっちも黙っていたらテオに話しかけられた。
「さっき言われたことですが、俺……じゃなくて、自分たちでは『騎士』になれないんでしょうか? 言葉遣いを直して、身体を鍛えたところで、無駄なのでしょうか?」
なるほど。あんなだらしない奴らでも身分があれば騎士になれて、平民上がりだとどんなに努力しても、ってことか。
「う~ん、と、まずあたし達は『騎士』ってものがよく分からないのよ。」
イメージとしては板金鎧に身を包み、馬に乗ってでっかいランスを構えている、みたいな。……いやそれだけでもないか。
「テオ達が何になりたいか分からないけど、とりあえずカイルについていってみたら? 少なくとも『そんなこと』でくよくよすることはなくなると思うよ。」
「そんなこと……」
「うん、そんなこと。何かになりたい、は目標の一つでいいけど、最後はそれを超えなきゃ。仮に『騎士』とやらになれても、そこで止まっちゃうよ。」
いいじゃない。まだ「何か」になりたいって目標があるだけ。あたしなんて……
「そうですな。ラシェルにはまだまだ女子力とか色気とか全然足りておりませんな。」
おいこら。
「じ、自分は魅力的だと思います!」
あたしの怒気を感じたかどうかは知らないが、テオが慌ててフォローを入れる。けどちょっと的外れなのが残念だ。
「ジェルの処刑は後回しにして。」
「期待してますよ。」
するなよ。
「相変わらず物騒な会話だな。」
「お邪魔する。」
「わざわざご足労いただきありがとうございます。」
ジェルが立ち上がって、店に入ってきたハンスさんとソフィアさんに頭を下げる。二人とも鎧を脱いできたようだ。ただ、おそらくは鎧の下に着るような丈夫さだけが取り柄のような厚手の服なので、おしゃれでも何もない。それこそソフィアさんはモデルみたいな容貌なので実にもったいない。
「ソフィアの嬢ちゃんに聞いたが、第三に会ったんだって?」
「とても残念ながら。ルンルン気分で帰っていたのが一気にダウンです。テオさんとソフィアさんのおかげで、事なきを得ましたが。」
「自分は…… 何も……」
どこか表情の暗いテオが呟く。
「ああ、なるほどな。まぁテオのことは後回しにしよう。
で、何の用だ?」
ハンスさんとソフィアさんがあたし達と同じテーブルについたところで、アイラとミスキスがワゴンを押してきた。
テーブルにマフィンかカップケーキらしきものと、ハーブティが人数分並ぶ。別のテーブルにいたリリーの前には山盛りのマフィンらしきものが置かれ、アイラとミスキスに感謝のハグをしている。
「さて、」
ジェルがハーブティを一口飲んで、一息つく。
「食べながらで構わないので、聞きたいことが。例の第三騎士団との模擬戦闘、になるんですかね? それのルールとか規則みたいなものはどうなってます?」
ああ、なるほど。試合条件や勝利条件とかか。向こうが一方的なルールを押し付けてくるのかどうか。
「ああ、その件な。」
苦い表情を浮かべるハンスさん。
「これを見てくれ。」
懐から取り出した分厚くゴワゴワした紙――皮?をテーブルの上に広げる。色々書かれているようだが、全く読めない。そういやぁ微妙に忘れてたが、会話の方は翻訳魔法とやらのせいでペラペラだったが、文字を読む方はさっぱりだったっけ。
「ふぅん…… ふむ。」
あ、ジェルがちょっと不機嫌そうな、どこか面白がってる感じの顔になる。
(うわぁ……なの。)
頭のルビィもどこか呆れたような声を出す。
「こいつが、さっき向こうから届けられた模擬戦闘の条件、つーか、そのなんだ。」
人は心底呆れると笑いしか出ないらしい。ソフィアさんは純粋に怒りの表情を浮かべてるが、ジェルとハンスさん、ついでにルビィも乾いた笑いを浮かべている。
「貴族の文章ってとこでしょうか。持って回った表現が多いですが、まぁ、ありていに言うと、降伏勧告ってところですな。」
「はぁ?!」
考えてもいなかった単語が出てきて、あたしは思わず変な声を出してしまった。
いったいもう何が何やら。
お読みいただきありがとうございます。




