打ち合わせをしよう
雪も少しずつ無くなっていき、すでに道路が凍結する心配もほぼなくなりました。
そろそろストーブをつけなくてもいいようになってほしい……
「腹減ったー!」
「空いたー!」
畑仕事を終えた腹ペココンビが箱型汎用作業機械を引き連れて戻ってきた。
「まずはシャワーだ!」
「おー!」
どたどたとカイルとリリーが店の奥へと駆け抜けていき、キューブが壁にめり込むように入っていって充電を始める。
その様子を不思議な光景を見るかのように――って実際見慣れない人には不思議な光景か――三人の来客が眺めていた。
「今のは…… なんだ?」
「なんでしょうねぇ。」
ハンスさんの疑問を軽くはぐらかすジェル。
「あの大きい方は相当できるな。女の子の方も身体能力が凄い。在野の戦士なら是非ともうちに欲しいところだ。」
「姫様と近い年なら、そばにいても安心だ。……しかしあの男、大きいな。」
騎士二人が値踏みするような目で陽気な二人組を追う。見立ては正しいが、残念ながら譲渡不可だ。ただ、女騎士のソフィアさんの口調がちょっと熱を帯びていたような気がした。
そして今度は静かに入り口のドアが開く。
「ただいま戻りました。」
カゴに野草らしきものを満載にしたリーナちゃんが入ってきた。少し遅れてヒューイも戻ってくる。あ、そうか。ホバーバイクを仕舞ってきたのか。
リーナちゃんはカゴを厨房に置いてくると、申し訳なさそうにシャワールームに向かう。そんな顔しなくてもいいのに。ヒューイなんかさっさと行っちゃったぞ。
「あの男もできるな。」
同じ見立てをするハンスさん。リーナちゃんの方は判断つかなかったようだが、その「姫様」の側仕えとしてはほぼパーフェクトよ。超激レア非売品だから教える気も無いけど。
厨房の方から調理の音や匂いが広がってくる。気配もなくあらわれたミスキスが食器を素早く並べていく。
「……何?」
今度はミスキスの足運びを見て、ハンスさんが小さく唸る。
「ここは本当に宿屋なのか? 儂にはとてもそうには思えんが。」
「ちなみに領主様からは我々のことをどう聞いていますか?」
「そうだなぁ…… 理解・敵対・懐柔をしようとするな、と言われたな。」
ひでぇ。
ジェル六割、カイル三割、他一割くらいってとこか? あたしは悪くない、よね?
「世の中には連帯責任って言葉がありましてねぇ。」
人の顔色読まないで欲しい。
「ともかく、我々が求めるのは平穏です。自分から動くのではない限り、誰かに利用されるのは勘弁こうむりたい。」
「それに関しては問題ない。儂らの悩みを解決してくれたら、平和になるぞい。」
急に悪そうな顔になったハンスさんがニシシとこれまた悪い笑い声をあげる。
「先に断っとくが、利用するつもりじゃ無いぞ。これから起きる面倒と、その解決法を教えてやるだけだからな。」
うっわー。
このお爺ちゃん、ワザと挑発的な言い方をしてきてる。でも目は勝算を確信している。年の功かねぇ。
「嫌ですねぇ。狡賢い人間が多くて。」
心底面倒くさそうにジェルがため息をつく。
お前が言うな。
でもまぁ、そんなボンボンたちがデカい顔したら、いずれまた面倒に巻き込まれるのが目に見えている。面倒に巻き込まれることよりも、その後の「処理」が大事になるのが困りごとだ。
「アイラ―! 今日のメシはなんだー!」
「なんだー!」
シャワーから戻ってきた腹ペココンビが拳を突き上げて猛アピールしてから、いつものテーブルに着き、ワクワク感を周囲に振りまいている。
「はいはい、ちょっと待ってねー」
アイラとミスキスがワゴンを押してくる。大きい鍋に山盛りパンのカゴだ。
「お、待たせたみたいで悪いな。」
「すみません、お待たせしまして。」
ヒューイとリーナちゃんも席に着いたので、アイラが大鍋の蓋を開ける。
おおっ、広がる濃厚な香り。これはブラウンソース…… ビーフシチューか? でも深皿に注がれる茶色の物には具が想像以上にゴロゴロと入っている。
「リーナに教えてもらったソースと料理を元に、この辺で良く食べられている煮込み料理をアレンジしてみました。」
ミスキスがそれぞれの席に深皿を置いていく。なるほど、色と香りはビーフシチューっぽいが、野菜がゴロゴロと入っていて、これは…… ミートボール、かな? なるほど、素朴な田舎料理風だが、丁寧な仕事とブラウンソースのコクが高級レストラン(こっちにあるかどうか知らないけど)の一品へと引き上げている。
とりあえず、生殺しで放置されるのもつらいので、配膳が済んだところで全員で手を合わせていただきますをして、賑やかな夕食が始まった。
食事風景はいつも通りなので、描写は省略する。
前に食べたロックバファローのシチューとはまた違う風味で、野菜の旨みが感じられ、また肉もミートボール状になっていたので、高級感が薄れて庶民的になっていた。
これなら普通に店で出しても問題ないだろう。
「昼もそうだが、この店の料理は見たことも聞いたこともない味だ。」
「…………」
「…………」
ハンスさんは感想を言いながら食べているが、ソフィアさんとテオは黙々と味わっている。……あれ? もしかしてソフィアさんって、見かけや雰囲気から年上かと思ったけど、幸せそうに食べている姿を見ると、もう少し若いのかも知れない。
(…………)
頭の中のルビィは今日はずっと静かだが、食事を楽しんでいる雰囲気だけは伝わってくる。個人的な意見としては、食べれて寝られればとりあえず人生は生きていける。
まぁ、ジェルの受け売りなんだけどね。
そんなこんなで食事が終わり、食後のティタイムを楽しんでいるところで、ジェルがヒューイとカイルを呼んだ。
かくかくしかじかと状況を説明すると、う~んと唸ったヒューイがハンスさんに尋ねた。
「期限は?」
「十日程度、ってとこだな。」
「意外と短いな。となると、ちょっと無茶しないとダメか。」
カイルも腕を組んで考え込む。
「ちなみに向こうの練度というか腕前は?」
ジェルがそう聞くと、ハンスさんやソフィアさんが微妙に難しい顔をする。
「単純な話だが装備は金に飽かせて良いものを使っているし、飽きっぽくはあるが基本的な剣術や、座学で戦術だって学んでいる。」
更に護衛と称して傭兵をつけているので、舐めてかからない方がよさそうだ。
「体力づくりは俺、技術はヒューイ。作戦と裏技はジェラードに任せるとして……」
「受けるのか?」
微妙に嫌そうな顔のジェルに、カイルは男臭い笑みを浮かべてきっぱり言い放った。
「物足りないかもしれねぇが、ジャイアントキリングは男の浪漫だろ?」
知るか。
こうして、あたし達チーム・グリフォンは新鋭騎士団を鍛えることになってしまった。
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