平穏に感謝しよう
「ひどい目に遭いました。」
「…………」
「特に最後の一撃が効きましたな。」
「おい。」
とりあえずツッコむ。
乙女の事情でジェルの背中を蹴飛ばしたが、コイツの白衣は無駄に防弾なので、か弱いあたしの蹴りなんか痛いはずがない。
床に転がっていた所から立ち上がると――それでも微妙に動きがギクシャクしてるな――椅子に座りなおすジェル。
もう一回、右目でジェルの様子を見る。
魔力がモヤモヤっぽ光で見えるわけだが、今のジェルはその光がだいぶ落ち着いて見える。白を黒の光が全身をうっすらと包んでいて、さっきはあちこち穴が空いたりギザギザしていたりとボロボロだったが、今は黒竜のサクさんの荒療治で綻びが一応は治っている。ただまぁ、子供の工作のようにテープをペタペタ貼ってる感じなのでホントに一応だ。
それでも時間が経てば自然に治るそうだとか。
「……身体の調子は?」
「残念ながらだいぶ良くなりました。今日さえおとなしくていれば大丈夫でしょう。」
さっきまでならもう二、三日療養が必要だったかも知れません、と。
そりゃ良かった。と、ジェルには分からないように内心で胸をなでおろす。
「やっぱり生半可な知識で魔法を使うのは危険、ってことですね。」
でもまぁ、ジェルならちょっとコツを習ったらすぐに使えこなせそうな気がする。魔法と科学技術を組み合わせたすげー魔法とか開発しそう。
いやだなぁ、崖の上で高笑いしながら眼下の魔物の軍勢を消し炭にする姿が容易に想像できる。なんて危ない奴だ!
「……その、妄想で人をディスるのはいかがなものかと思いますが。」
「だってやりかねないでしょ。」
「ラシェルの中では私はどういう扱いなのやら。いや、言わなくていいです。」
ちぇ。色々言いたかったのに。
「魔法に関しては、専門家の意見が聞けたら改めて考えましょう。」
あんまり乗り気じゃないのかな? なんかそんな口調だ。
そりゃそうか。別に慣れてない魔法を使わなくたってジェルにはまだまだ手があるわけだし。
ただまぁジェルの技術ではできないことが多いので、使えるに越したことはないのだろう。シルバーグリフォン号に在庫がある程度あるとはいえ、こちらでは手に入らない物があまりにも多い。
そういやぁ、少し忘れかけてたけど、あたし達って元の世界に戻れるのかね?
最初はすぐに戻れない、と聞いて不安になったけど、意外と慣れてきたのかもしれない。
チン……
わずかに鈴のような音が響いた。
防音が凄くて、逆に外の音が聞こえなったので、何かが近づいたら耳障りにならない程度の音を鳴らすようにしたものだ。
あ、もうこんな時間か。
自動調光するから何か見ないと時間の経過が分かりづらいが、いつの間にかに夕方になっていたらしい。
窓から外を見ると、日は傾き始めていた。ふと見るとワイルドパンサーが「雄牛の角亭」の前に止まっていた。
お、帰ってきた?
今日は何度か行き来していたようだが、ドヤドヤと何人も降りてきたので、今日の仕事は終わったのだろう。
「言うだけ言ってみよう。ジェラード君、『彼』を譲る気はないかね!」
「気に入っていただけて光栄ですが、残念ながら『仲間』なので、そう簡単には。」
「そうか残念だよ。」
と、男前に潔く引いたのは領主のジェニーさんだ。
「『彼』は移動速度も速いし、御者要らず。性格も良いし、中は安全快適ときている。実に素晴らしいよ。」
どうやらパンサーのことが相当気に入ったようだ。まぁ当然と言えば当然か。乗り物なんて馬車が精一杯のこの世界ではオーバーテクノロジーもいいところだろう。
「まぁいいさ。ガイザックを真似て、どうしても必要な時に情に訴えて借りるとしよう。そうだ、涙の一つでも流す、という手もあるか。」
「今口で言ったら意味がないのでは?」
「まぁ、明日もお世話になるがな。
というわけで、明日の英気を養うためにも美味しいものを頼むよ。」
「はい、かしこまりました。」
今日も一人で準備していたアイラが大鍋を乗せたワゴンを押してくる。
鍋の蓋を開けると、何とも言えぬ香りが広がる。中身は何かの煮込み料理のようだ。
「カイルさんが仕留めたロックバッファローの内臓を煮込んだものです。味付けはリーナに教えてもらったのを自分なりにアレンジしてみました。」
へぇ、凄い。これは楽しみだ。
「後は野菜にパンとライスを用意しました。ご自由にどうぞ。」
と、鍋を置いたテーブルの周りにテキパキと食器や副菜類を並べていく。ドヤドヤと配膳を終えると、いただきますの声が響いた。
「うめぇ!」
「おいしー!」
いつも声が轟く。
だがこれは確かに美味しい。内臓は新鮮なのと、下ごしらえが良いのか、臭みは感じられない。風味が独特で初めての感じがするが、悪くない。いや、良い。もしかしたら異世界の味なのかな?
「とても美味しいです。今度作り方を教えてください。」
「でもなぁ、リーナに教えたら、すぐ超えられそうだし。」
「そ、そんなことありませんよ!」
「ウソウソ、これはね……」
リーナちゃんとアイラの間で料理談義が始まった。
向こうではカイルがライスの上に煮込みをこんもり乗せた男飯にしてかっ喰らっている。リリーが羨ましそうに見ているが、真似しちゃいかんよ。
別のテーブルでは相変わらずビールもどきとハイボールでご機嫌なガイザックさんがいる。対照的にジェニーさんは冷えたワインを楽しんでいる。今日のアテはアイラ特製の内臓の煮込みだ。
……結局犠牲は出てしまったが、鉱山の町を襲った脅威はチーム・グリフォンの手で解決したと思う。出てきたものを退治しただけなので、根本的な解決ではないと思うが、今はただひと時の平穏に感謝することにしよう。
ただ、ちょっとあたしたちの「力」を出し過ぎたような気がする。ダッシュパンサーもそうだし、強力な武器もだ。見ていた人も多いので、隠し通すのも限界があるだろう。
……これ以上、厄介ごとに首を突っ込む羽目にならなきゃいいけど。
まぁ、どうにかなりそうな気もするんだけどね。
MISSION:鉱山の危機を救おう
......MISSON COMPLETE
お読みいただきありがとうございます。
少し閑話を入れて、新しい章に入る予定です




