確認と後始末をしよう
注意:虫とかちょっとグロい表現があるかもしれません
「下ろして。」
ささやかな希望を告げると、ジェルがあたしを地面に下ろした。
「はぁ~ 慣れないことをするものじゃないですな。」
「近づいても大丈夫?」
ジェルの戯言をスルーしながら聞いてみる。
「大丈夫、と言いたいところですが、我々の常識では測れない可能性があります。
専門家に任せましょう。」
すでに動かなくなったジャイアントワームを遠巻きに見ていると、ワイルドパンサーから冒険者ギルドの副マスターであるガイザックさんが降りてきた。
こちらを手招きしてから、のんびりとジャイアントワームに近づいていく。カイルもパンサーの荷台から降りて、ヒューイも武器を下ろして近づいていく。
動いているところしか見たことなかったのと、遠目だったので分からなかったが、実際に近くで見てみると、思ったよりも表皮がゴツゴツしていた。ウロコなのかな? 板状の物が重なり合っているように見える。
「……なるほど、この鱗状の物も動いて移動の補助になるのでしょう。」
「らしいな。魔力を通せば生半可な剣も通じない硬さになるそうだ。
しかしよくもまぁ、こんなにも撃ち抜けるもんだな。」
お腹、というか、胴体の一部を抉った重機関銃の痕をしみじみ眺めるガイザックさん。
そして口というか端っこの方へと移動する。
「なるほど、内側が焼けてるな。そりゃこんなデカブツでも耐えられんわな。」
は~ 大したもんだ。と動かなくなったジャイアントワームを回りながら調べてる。時折眼帯を外して眺めているので、目に何かあるのかもしれない。そういやぁ、なんか普段隠している目の方にモヤモヤが見えたような気がする。
これも魔法なのだろうか? そういえばさっきジェルも同じようなモヤモヤを出していたような気がする。
(わー大きいー こんなの初めて見たのー)
不意に頭の中からはしゃぐ声が聞こえてきた。そういやぁ、あたしは元々虫とかを見てキャーキャー言うタイプではない。それこそ直接被害を受けないのなら、見ている分には問題がない。頭の中のルビィもそういう意味では虫を見ても大丈夫らしい。でもまぁ、触ったりするのはちょっと勘弁かな?
そうやって見ていると、町の人と思われる人たちが遠巻きに集まってくる。その大半はドワーフだ。皆似たり寄ったりのずんぐりむっくりの髭もじゃなので、見分けがつかない。ここに醸造所にいたボルガさんがいたとしても、気づかない自信がある。
「片付いたようだな。」
大きさは他と変わらないが、醸し出す雰囲気がちょっと大物感のあるドワーフが近づいてきた。
「まずはお前ら異邦人に感謝する。無粋者故に礼儀に疎いのは勘弁してくれ。」
「こいつは鉱山の主のドスガンだ。見ての通りの堅物だが、嘘は言わん男だ。」
「うっせぇぞ、ガイザック。ワシらドワーフから言わせれば、お前ら人間が適当過ぎるんだ。」
「ははっ、ちげぇねぇ。」
がっはっは、と笑いあうガイザックとおっさんと化したドワーフ。……芯の部分は一緒かい。
「尊い犠牲は出たが、この鉱山が全滅せずに済んだ。本当に感謝する。」
と、急に真剣な顔になって深々と頭を下げるドスガンさん。ガイザックさんが「へぇ」と感心した顔をしているとこを見ると、このドワーフさんが頭を下げるのは相当珍しいことのようだ。まぁ、こんなことされても、こいつらの言うことなんか予想がつく。
「なんのことやら。」
「いつものことだしな。」
「久々にスカッとしたぜ。」
ほらね。
大した理由で首を突っ込んだわけじゃないから、気負いもなければ悲壮な決意もない。それこそ礼なんか言われる筋合いもない。
「安心しろドスガン。こいつらは俺から見ても規格外だ。実力も考え方もな。」
「そのようだな。」
おそらくだがドスガンさんが笑顔を浮かべたような気がする。ヒゲでよく分からんが。
「本当なら酒でも酌み交わして友誼を深めたいところだが……」
悲痛な表情で周囲を見渡す。
建物が破壊されたのはまた建てればいい。失われた命は戻らず、弔う遺体も巨大ムカデに喰われて失われた者もいる。
崩れた建物のがれきを片付け、残っている亡骸は集められて布に包まれる。巨大ムカデの残骸は一山に詰まれると、流れ作業のように次々と解体されて……
「何やってるの、アレ。」
「ん? ああ、巨大ムカデの甲羅は防具の素材として有用なんだよ。ほかにも色々使える素材があってな。」
あたしの疑問にガイザックさんが答えてくれた。そんなやり取りをしていると、ドスガンさんが微妙に目をそらす。
……そういやぁ、この世界ってハッキリ聞いたことはないが、モンスターとか倒したら基本的には倒した人の物のはずだ。
「まぁ、その、なんだ。解体には技術がいる、からな。ワシらがやっておこうかとな?」
「別にお金に困っているわけじゃないので、巨大ムカデは好きに使っていいですよ。とはいえこいつは……」
ジェルがまだどれくらい地面に埋まっているか分からないジャイアントワームに視線を向ける。
「適切に処理願います。」
「そういやぁ、コイツって食えるのか?」
空気を読まずにカイルが恐ろしいことを言い出す。どうなんだろ? 食べたことはないがミミズは結構美味しいらしい?
「ここまでデカくなると、普通に肉っぽい感じだぞ。それだけじゃなく外皮や歯も素材としては重宝される。魔石も大きいだろうから一財産になるな。」
まぁ、あたしたちじゃあ適切に解体や換金できないから、その辺はドワーフさんやガイザックさんに任せよう。
こちらの片付けも終わったので、帰る準備をしていると、どこかの親子が近づいてきた。
母親に促されて、女の子がヒューイの方に向かって歩くと、どこか恐る恐る頭を下げる。
「お兄ちゃん、助けてくれてありがとう。大きいお兄ちゃんたちも町を救ってくれてありがとう。」
ん? と一瞬首を傾げるが、すぐに思い出したのか、膝をついて女の子と視線の高さを合わせる。
「どういたしまして。」
ハンサムスマイルで女の子の頭を優しくなでると、そのスマイルにあてられて女の子の顔が赤く染まる。
「本当にありがとう!」
女の子は手を伸ばして、ヒューイの首に抱き着くと、慣れない感じではあったが頬にキスをする。さすがに恥ずかしくなったのか、ダッと走り去っていく。驚いた母親は追いかけようとして、こちらにペコリと頭を下げてから、慌てて女の子の後を追う。
「報酬を貰いすぎましたな。」
「違いねぇ。」
茶化すようなジェルに、カイルが満足そうな笑みを浮かべた。
チーム・グリフォンは慈善事業ではないので、無料奉仕は行わないけど、お金だけが報酬ではないのだ。
次回(2/7)の更新はできぬかもしれぬ~
出てなかったら無理だったと思ってください。
お読みいただきありがとうございます。




