虫退治をしよう
虫表現&グロっぽい表現あり。注意。
1時間までは遅れんかった!(威張るな)
「パンサー! 広域サーチ!」
〈了解。〉
ワイルドパンサーの車内のディスプレイに周辺の地図が表示される。赤や緑の光点が表示される。おそらく赤が「敵」で、緑が「味方」なのだろう。
「多いですなぁ。カイル、出番だ。」
「おうよ、任せろよ。で、ジェラード、あのムカデに弱点はあるのか?」
パンサーを止めて荷台に回るカイル。
「そうですなぁ…… 一応弱点は頭です。吹っ飛ばされると動けなくなります。」
「ここだけの話なんだが、実は俺も頭が弱点なんだぜ。」
知っとるわ。
軽口を叩きながら、荷台の重機関銃のロックを手慣れた感じで解除して、無造作に銃口をムカデの少し固まった群れに向ける。
「耳塞げ!」
カイルが叫ぶと、パンサーのドアと窓が自動的に閉まる。
そして次の瞬間、暴力的な破裂音がして、銃口から発火炎と銃弾が盛大に吐き出される。
ヒューイは銃弾が跳ね返された、って言ってたけど、さすがに威力が違った。掠っただけ硬いはずの甲羅ごと大穴が空き、直撃を受けると、穴どころかその部分がごっそりと木っ端みじんになる。
数秒ほど連射すると、カイルが手を止める。どこか不満そうに首を振った。
「ダメだ。歯ごたえがねぇ。」
いやいやいやいや。
「それに俺の勘だともっとデカブツが来そうだ。あんな雑魚には弾がもったいねぇ。」
そうですか。
「ヒューイにも届けもんがあるしな。ちょっとひとっ走り行ってくるわ。」
呼んだら来てくれよ、と言うだけ言って、荷台からトランクを掴んで走り去っていく。
「…………」
「…………」
〈…………〉
三人分の沈黙が降りる。
「よくよく考えると、私たちは要らんかったかね? こんなことなら、お茶でも飲みながら二人の活躍を眺めているべきでした。」
と、言いつつもジェルが腰を浮かせてパンサーを下りようとする。
おや、珍しい。ジェルがやる気っぽい。
仕方ない。あたしも付き合いますか。
「ついてくる気で?」
「守って、くれるんでしょ?」
「……私からあまり離れないように。」
「うん。」
「パンサーは適当にサポート。後々の為に記録もだ。」
〈了解。〉
さぁ、害虫退治だ!(って、あたしはしないけど)
ジェルの後をついて走る。
時折倒れてピクリとも動かない人影が見える。上半身と下半身が泣き別れになって、どう考えても助からないのもいる。それ以上の数の巨大なムカデの死体というか破片が散らばっている。変な色の体液や、妙な色の内臓みたいのがあちこちにあり、あんまり見目麗しい光景ではない。
さらに言えば、体液が腐食性なのか、鼻につく刺激臭と腐敗臭が混じったような臭いが何とも酷い。
避難は一通り済んでいるようで、間に合わなかった人はすでに物言わぬ死体になっている。見慣れている、という訳ではないが、すぐに取り乱すほどではなくなっている。
坑道の入り口に近い方からは派手な爆発音っぽい銃声が聞こえてくる。ロックバッファローの頭を一発で吹っ飛ばしたカイルのバケモノ銃だ。遠目ではあるが、半身を起こした巨大ムカデがカイルに襲い掛かる前に、轟音一発。ムカデの頭部がいきなり無くなった。
手の角度を変えながら轟音が続けざまに鳴り響くと、同じ数だけ巨大ムカデの頭が吹っ飛び、立ち上がった身体が力を失ってバタバタと折り重なる。
騒がしいカイルに対して、ヒューイは静かに行動していた。カイルから受け取ったレーザーライフルを構えて、スコープを覗きながら立射で次々に狙撃を繰り返し……ていると思う。
次々に巨大ムカデに銃口を向けると、次の瞬間には見かけ上何も変化がないようだけど糸を切られた操り人形のように力尽きていく。レーザーは目に見えない上に音もほとんどしないので、魔法というよりは不思議なコントのようにも見えなくもない。
最前線で二人が巨大ムカデの数を着実に減らしているが、まだ野に放たれたムカデの数は多い。が、たまにヒューイがあらぬ方向にライフルを構えると、遠くに見えたムカデが倒れているので、そっちも減っているようだ。
「ストップ。」
周りを見ながら走っていると、ジェルが足を止めた。その視線の先を追うと、巨大というほどではないが、人の身長くらいのムカデがまるで生きた絨毯のように無数に蠢いていた。
うげ。
さすがに気持ち悪い。
ジェルも似たり寄ったりの気分なのか、微妙に頬が引きつってるように見える。
白衣のポケットに手を突っ込んで、青い物を一掴み取り出す。あんまり見ない色だ。
それは小さなドロップ程度の大きさのもので、ジェルが指先で弾くとムカデの群れに次々に放り込まれていく。
こちらに気づいたムカデがウゾウゾと近づいてくるが、速度はそんなに速くない。ただビジュアルがねぇ……
後ろに下がりながら、手の中の青い粒を飛ばしまくったところで、ジェルがあたしをかばうように前に立つ。
……ということは結構ヤバい奴か。
「冷凍弾です。ブレイク!」
ジェルが腕のコンピュータのボタンの一つを押すと、青い粒が一斉に爆発した。予告した通り、強烈な冷気が周囲に広がる。冷たい風が前から吹き付けられて、ジェルの陰にいても結構寒い。
風が収まって、ジェルの肩越しに向こうを見ると、地面が一面霜が広がっていた。当然その場にいたムカデたちも凍り付いている。
「ふむ、成功ですな。」
あれだけいたムカデが(おそらく)全滅している。
「ただまぁ、念には念を入れますか。」
微妙に不吉な予告をして、ポケットから今度は赤い粒を取り出し、腕を振りかぶってさっきよりも遠いところに三回ほど投げる。
「失礼。」
ジェルが着ている白衣を、あたしの頭にかぶせてきたので、それに合わせてその場にしゃがみ込む。ジェルもあたしのとこにしゃがみ込みながら、腕のコンピュータのボタンを押す。
「火柱です。ブレイク。」
ドーン、とカイルの銃声なんか目じゃないほどの轟音が鳴り響くと、熱い暴風が吹き荒れた。あとで聞いたら低温になったところに一気に温度を上げたので、空気が膨張した結果があの暴風だったそうだ。
もう結果を見るまでもないが、風が収まって立ち上がると、さっきまで白かった地面が今度は真っ黒こげになっていた。
虫が焦げる臭いがするかと思ったが、そんなもんじゃない温度で焼却されたせいで、何も感じられなかった。
……ん~ 気のせいかも、避難した人たちがこちらを伺っているような視線を感じる。って、気のせいなわけないか。
あたしは一般人なので、こいつらデタラメーズと一緒にしてほしくはない。嫌な想像で眩暈でもしたのか、足元がふらつく。
いや、違う。地面が揺れているんだ。
「地震?」
「違います。地下から何かが近づいてきます。」
確かに何かが近づいてくるような物音と振動が感じられる。
〈地下です! 地下から巨大な生物が接近しています!〉
パンサーの声が聞こえたと思ったら、坑道の入り口を崩しながら「それ」が現れた。
ムカデが虫か、と言われると難しいですねぇ。
厳密なことを言えば、それこそ昆虫ではないですし。
お読みいただきありがとうございます。




