おっさんの我儘を叶えよう
気付いた人はおわかりでしょうが、思いっきり1エピソード忘れてましたので、章タイトルを変更いたしました。謝罪と訂正してお詫び申し上げます。
久しぶりにアクションの予感……?!
「慣れた人間だと馬の十倍以上の速度で走り、宙を浮いているから路面状況にも左右されない、と。輸送能力は人二人くらい、ねぇ。」
「単独でヒューイが乗ったら、二時間くらいで王都に行けますな。」
「相変わらずとんでもねぇな……」
冒険者ギルドの二階でジェルがホバーバイクの性能を説明すると、ガイザックさんが呆れたように天を仰ぐ。
「で、そのパンサーって奴が、人も荷物も積めて、馬よりも速く休みなく走れる、ってシロモノか。」
「ただまぁ、こちらの魔道具のように内部に蓄えられた『力』が無くなるとダメですけどね。」
「それでも、それこそ王都まで行って帰ってくるぐらいは平気なんだろ?」
「素直に答えるのは面白くないですな。」
「つーことは、できるってことか。」
どうしたもんかねぇ、とガイザックさんがボヤく。
「ちなみにラシェルの嬢ちゃんは、俺がなんで頭抱えてるか分かるか?」
いやぁ、確かにこちらには無い物だけど、こちらにはこちらなりのすげーのあるんじゃないの?
「うん、分からない。この世界にだって似たようなのあるんじゃないの?」
「ねぇんだよ、これが。」
一蹴されてしまった。
「そりゃ、魔獣とか幻獣とかもあるところにはある。魔法生物やゴーレムだって無いわけじゃない。まぁ、実物なんで一生に一度見れたら幸運なくらいだがな。」
俺だって数えるほどしか見たことねぇ、と言うガイザックさん。そうなると、昔は相当優秀な冒険者だったのかもしれない。
「だがなぁ、アレだけコンパクトで、人が乗る為に作られたものは見たことない。」
「……箒とかで飛べないの?」
「は? なんだそりゃ。嬢ちゃんのとこにはそんなおとぎ話があるんか?」
あれ? この世界には「魔女=箒=飛ぶ」みたいな公式は無いのか。ふとジェルの方を向くと、小さく肩を竦めるのが見えた。
「つまり、パンサーはともかく、ホバーバイクはちょっと問題があるかも、ということで?」
「……と、その前にだ。一つ聞いてもいいか?」
急に態度を変えたガイザックさんに、ジェルがどこか皮肉げに口元を歪める。
「確か裏手にそこそこの大きさの広場がありましたね。」
「ああ、ギルドの修練所だな。武器や魔法の訓練にも使うので、結構広いぞ。一応柵で囲ってあるしな。」
「で、実は乗ってみたいと。」
ギク、という文字が見えるようなリアクションを見せるガイザックさん。
「ちっ、敵わねぇなぁ。
……あ、ほら。どんな危険なシロモノか確認した方がいいと思ってな。」
凄い言い訳だ。とはいえ、ガイザックさんが少年のように目をキラキラさせている。
しょうがないおっさんだよ、全く。
「ご存知だとは思いますが、基本的には譲りませんよ。」
「そりゃ分かってる。乗ってみたいのも確かだが、見られるのがちょっとばかし危険なのも理解してくれ。」
後でジェルが解説してくれたが、パンサーみたいにデカいとさすがに奪うのも手間だけど、ホバーバイクくらいだと力ずくで奪おうとする可能性もある、って事らしい。
まぁ、奪ったところでセキュリティがあるから使えないとは思うし、この世界の人間がどれだけ頑張っても解析は出来ないだろう。
ただ、この世界には「魔法」があるから、もしかしたらがあるかもしれませんな、というのがジェルの弁だ。
ジェルが腕のコンピュータをポチポチ操作すると、スッと立ち上がる。
「じゃあ、裏の修練所に行きますか。」
冒険者ギルドの裏側には、ガイザックさんが言ったように柵で囲われた広場があった。ちょっとした球技ならできるくらいの広さだ。地面は踏み固められていて、足場も悪くない。
そこにいつものように白衣のポケットに手をつっこんだジェルとガイザックさんと一緒に向かうと、そこに無人のホバーバイクが待っていた。
「お?」
「無線……じゃなくて、遠く離れてもある程度操作できるのですよ。」
「へぇ。」
ジェルの説明も右から左。ガイザックさんは興味深げにホバーバイクを眺める。
「確かここに座って、こいつを掴んでたっけな。」
実際に乗ってるのを見たから、すぐに乗り方を理解する。そしてガイザックさんが期待を込めた視線でジェルを見ると、仕方がないですねぇ、と小さく肩を竦めてから、簡単に運転方法を説明した。
「今は力を抑えてますので、ゆっくり動かしてみてください。」
一応あたしも運転したことあるけど、運転自体は意外と簡単だ。右のハンドルのスロットルを捻ると前に進んで、後はハンドルと体重移動で方向転換。ハンドルのレバーを握るとブレーキだ。
おそらく事故防止用のリミッターをかけて、障害物があったら避けたり止まったりするようにしているのだろう。
「こいつはおもしれー!」
さすがに、というか、ガイザックさんはすぐにホバーバイクの感覚を理解して、少しずつ速度を上げて右へ左へと車体を揺らす。
しばらく堪能すると、あたし達の前にホバーバイクをピタリと止めた。
「本気で欲しいな、こいつは。」
爽快な笑顔でガイザックさんがバイクを下りる。
「くれ、と言いたいところだが、さすがに対価が払えねぇな。無理難題吹っ掛けたって効かねぇしなぁ。
時折情に訴えて乗せてもらうか。」
おいおい、おっさん。本音がダダ洩れしてるぞ。
「まぁ、一応は世話になってますしね。」
「一応、なんて水臭ぇこと言うなって。」
親しげにジェルと肩を組んで、友達だろ? とそれこそ無理難題を吹っ掛けてくるガイザックさん。
ジェルが皮肉を返そうとしたところで、誰かが修練所に駆けこんできた。
「ガイザックさん大変です! 北の鉱山が……!」
息も絶え絶えな男を前に、何が緊急事態が起きたことだけは分かった。
お読みいただきありがとうございます。
細かいことですが、ホバーバイクは認証をしてますので、ジェラードがそういう操作をしない限りは決められた人員(それこそチームグリフォンのメンバー)以外では動かすことができません。
ゆっくりでいいなら、無人でも自走できます。ちなみに汎用箱型作業機械は自己意思を少なからず持ちますが、ホバーバイクにはそういうのが無いので、自走とはいえ到着ポイントを指定するか遠隔操作をしないと自走は出来ません。運転者を保護するような装甲はありませんが、車体自体はそれなりに丈夫にできています。




