試運転をしよう
あんまり細かい数字を書くと、後で検証して矛盾が出てきそうなので、うまいこと誤魔化したいと思います。
「ひゃっほー!!」
助手席のリリーが歓喜の声を上げる。
え~と、今は時速四十キロくらいかな? 町の郊外の荒野をカイルが運転するワイルドパンサーが走る。
舗装道路とは比べ物にならないが、そこまで地面の状態は悪くなく、パンサーが地表をサーチして大きな凹みを避けているので、思っていたより車体が跳ねることも無い。
「すごいすごーい!」
こんな速度で移動したのが初めてなリリーは目を輝かせて動く風景に興奮している。
「こういうのも悪くねぇなぁ。戻れたとしても、コレ残しといてくれよ。」
〈まぁ…… そうですね。〉
あれ? さっきまでずーっとピックアップトラックになったことを嘆いていたが、いざ走り出すと、機嫌が良くなったような気が?
「よし、慣らしはこんなもんか。
まだまだ行けるな?」
〈は、はい!〉
「よし、しっかり掴まってろよ!」
不吉な前振りと共に、カイルが思いっきりアクセルを踏み込んだ。残念ながら化石燃料を燃やすエンジンではなく、電気モーターなので爆音は鳴り響かない。どこかヒューン、と音が甲高くなり、一気に加速した。
たまたまでっぱりがあったのか、パンサーの車体が大きく跳ねる。
「いえーい!」
楽しげなリリーだが、こっちはシートベルトをしてなかったので、思いっきり身体が跳ねて車の天井にぶつかりそうになる。
まぁ、ぶつかる前にジェルが肩を抱くようにして支えてくれたから大丈夫だったけど。それから容赦なく荒野を走るので、ジェルにしがみついたままで揺れに耐える。
助手席のリリーはパンサーが跳ねるたびに同じように跳ねているが、天井にぶつかりそうになったり、横に飛び出しそうになるたびにカイルの手が彼女を助手席に押し戻す。
それも含めてアクティビティなのか、リリーのはしゃぎっぷりは凄いものである。一応は長距離を移動するための乗り物なんだけどね。
性能の限界を確かめるように、本人の抗議も無視して速度を上げ、右に左にハンドルを切る。パンサーも諦めたのか、周囲のスキャンを行い、路面状況を表示させる。時折カイルがディスプレイに目を向けているので、ちゃんと安全(?)運転を目指しているらしい。
そしてかれこれ三十分くらい、好き放題走り回ったところで、いったん止まった。
「いいな!」
車内に備え付けられたクーラーボックスから水のペットボトルを取り出して一気飲みしたカイル。大変ご満悦のようだ。
〈走行テストとしては十分ですね。
車体に歪みなど無し。車内への緩衝性能も問題なし。カタログデータの安全係数三以上の強度が測定できました。〉
はー よく分からんが、無駄に高性能にできているらしい。
「それはそれは。」
とはいえ、半時間も激しくシェイクされて、踏ん張っていただけでも結構疲れた。あたし達は慣れてるからいいけど、リリーは車酔いとかしてないだろうか?
「わー 面白かった!」
……心配無用だった。タフだなー異世界の人って。リリーだけかも知れないけど。
アイラはたぶんデロデロに車酔いしそう。サクさんはきっと大丈夫だな。生物としての構造が違いそうだし。
「ハンブロンの町まではどれくらいだ?」
〈まっすぐ走ってませんので、そんなに離れてません。おおよそ七キロくらいですね。実走行距離は二十キロ程度ですね。〉
「ふぅん。」
微妙に気のない返事のジェルだが、いつものことなので、誰も気にしない。
と、
〈……こちらに向かって動体反応・生体反応接近中。ディスプレイに出します。〉
車内の画面に土煙を上げて、何かが走ってくるのが見える。まだ遠いが、四足の動物のようだ。
「……肉だな。」
「肉だね。」
前席の二人が率直な感想で、その正体が分かった。ハンブロンの町に初めて入った日にカイルが捻ったロックバッファローだ。
ロックバッファローは気性が荒く、同族を見ると頭突きし合って、縄張り争いをする習性があるそうだ。で、どうやら縦横無尽に荒野を走るパンサーと同族と思ったのか、それとも縄張りを荒らす何かと思ったのか。
「パンサー! 肉に正対! ルーフ開けろ! 運転は任せたぜ!」
〈了解!〉
真剣なカイルの声に反射的にパンサーが応える。
天井が開くと、カイルが運転席の上に立ち上がって、懐から拳銃を抜く。拳銃といってもカイルのサイズに合わせたジェル謹製のバケモノ銃だ。……ちなみにあたしには重くて持ち上げられない。
普段は片手でも撃ってるが、狙い撃ちするためか両手で構えている。
画面の中だけじゃなく、実際にフロントウィンドウ越しにも巨大な牛が爆走しているのが見えた。
「左に避けろ!」
カイルが叫んだ瞬間、身体全体に響くような爆音が轟き、ロックバッファローの頭部が吹き飛んだ。
飛び散る物を避けるようにパンサーが左に急ハンドルを切ると、頭を失ったロックバッファローがつんのめる様に転がっているのが見えた。
「よし、いっちょあがり!」
自分で食い扶持を稼いだ大男がドヤ顔でガッツポーズをする。
そのまま自動運転で大きく旋回すると、ロックバッファローの死体に近づく。
〈……やっぱり私に積むんでしょうねぇ。〉
パンサーがどこか切なげな声で呟いた。
間違いなく今年最後の更新となります
今年の1月から出し始めて、どうにかこうにか1年。
他の話に手が全然回ってないので、あれですが継続は力なりと思って、執筆速度を高めたいところです。
お読みいただきありがとうございます。




