旅立つ二人を見送ろう
これまたタイトル詐欺です
嘘ではないが、本当ではない感じで。……大した事してませんがね。
「うわぁ、おっきぃ~」
通行許可も出たので、パンサーを連れて――乗ればいいじゃんと思ったけど、あんまり近すぎるのに乗るのもねぇ――「雄牛の角亭」に戻ってきたあたし達。
昼前で戻ってきたリリーとカイルに目撃された。
「あれぇ? こんなのいたっけ? 色はパンサーっぽいけどな。」
ホント色だけね。
〈残念ながら私です。〉
「おぅ…… 乗りやすくなったな。」
元々パンサーはスポーツカータイプなので、人類の規格外の大きさのカイルは乗る機会がほとんどなかった。
一回り以上大きくなり、運転席のサイズも広くなったので乗りやすくなったと思われ。逆に言うと、ジェルでギリギリ、リーナちゃん以下では運転がキツいことだろう。
まぁ自力でも走れるからいいんだろうけど。
どこかで走行テストをしたいんだろうな。
「ちょっと待てな。荷物下ろすから。」
ジェルが腕のコンピュータをポチポチ操作すると、テールゲート(荷台の後ろのアレ)が開いて、搭載している箱型汎用作業機械がいくつか降りていく。スロープを組み立てて、荷物を持った残りのキューブが次々と降りていって、裏庭の方に向かっていく。
「おお、でっかーい。」
パンサーの荷台に飛び乗ったリリーがピョンピョン跳ねてはしゃいでいる。
〈壊れはしませんが…… 基本的には荷台は人が乗るところではありませんので。〉
「お、喋った?」
〈リリーさんですね。私は……ワイルドパンサー。パンサーとお呼びください。〉
「パンサーだね、よろしく!」
ぴょん、と飛び降りると、正面に回り込みフロントガラスを覗き込む。
「……もしかして、中に乗れるの?」
中に椅子のような物が見えたからだろう。リリーがこちらを振り返って首を傾げる。
「そうですね。五人くらい乗って、馬車の数倍の速度で走ることができるでしょう。」
「へぇ~」
馬車の数倍…… って、この世界の馬車って、人の歩く速度の倍も出たら早い方じゃないの? それの数倍ってことは、倍の三倍ってことにして時速三十キロもないじゃないの。いやぁ、それはないわぁ。
路面状況にもよるけど、そんなショボい速さのわけがない。もしかしたらもしかすると、ちょっと頑張れば一日で王都とやらまで行けるんじゃないのだろうか。
「お昼を済ませたら少し慣らし運転でもしてみますか。」
「ハカセ…… あたしも乗れるの?」
「そうですねぇ、何か問題ありますかね?」
あたしに振らないでよ。
「いいんじゃない?」
ジェルがそう振ってくるってことは答えは決まってるんだろうし。
「ありがとう、ラシェ姉ぇ!」
ひゃっほーい、とあたしに抱きついて狂喜乱舞するリリー。リーナちゃんも一応あたしより年下なので、妹っぽいが真面目で優秀だから、甘えてくることがない。お姉ちゃんとしては寂しい限りなので、リリーのこういう態度はちょっと嬉しいかも。
「皆さん、お昼の用意ができました。」
「おっひるー! リー姉ぇのおっひるー!」
凄い跳躍力を見せて、リリーがあたしからリーナちゃんへと抱きつく先を変えると、店の中に走り去っていった。
「…………」
リーナちゃんがちょっと羨ましそうな顔をしてリリーの背中を見ていたが…… 「お姉ちゃん」としたらどうしたらいいんだろうね。
あたし達チーム・グリフォンの五人と、異世界代表でリリー。そしてダッシュパンサー改め、ピックアップトラックになったワイルドパンサーと共に、ハンブロンの町の郊外に出た。
せっかくだから、ここまで誰もパンサーに乗らないでやってきた。
「さて……」
パンサーの荷台にはホバーバイクが積んであった。どうやらパンサーが来た時に部品で持ってきた物らしい。昼ご飯を食べている間に組み立てて積んできたようだ。
「…………」
珍しくヒューイがソワソワとホバーバイクを見ている。
「組み立てはキューブがやったから問題ないと思うが、一応動作確認をしてくれ。飛ばしすぎないようにリーナも乗せてな。」
「い、いいのか?」
「変に我慢させてもいいことないし、リーナがいたら無茶もしないだろ?」
「……まぁ、そうだな。
じゃあお言葉に甘えて。リーナちゃん?」
「はい。」
さっ、とホバーバイクに跨ったヒューイの後ろにリーナちゃんが座る。そういやぁ、いつの間にかにパンツルックだった。珍しいなぁ、と思ったらそういう訳か。
あたし達の温かい視線にも気づいた様子もなく、二人を乗せたホバーバイクは……
「って、どこ行った?」
「もう行っちゃいましたよ。」
「速いねー」
(速かったの。)
異世界側の人たちの感想は見たまんまだった。ジェル特製のホバーバイクは動作音も小さく、風切り音も減らす小細工がしてあるので、とにかく静かだ。そこに乗り物なら何でも任せろのヒューイの腕が加わると、発進すら気づかせないほどだ。
ジェルのことだから、無駄に航続距離も長いだろうし、ホントにどこまで行ったのやら。
「まぁ、レーダーや通信機もあるし、帰ってこないことは無いと思いますがね。」
夕飯の準備もありますし、というのがあまりにも説得力のある理由の気がしてくる。
「じゃあ、こちらもこちらで軽く回してみますか。」
ジェルがそう呟くと、パンサーのドアが自動的に開く。
「さ、適当に乗ってください。」
あたしここー! といきなり運転席に乗ったリリーを、カイルがひょい、と助手席に放り込む。
あたし達が後部座席に乗り、カイルが運転席につく。スターターのスイッチを押し、自動運転から手動運転に切り替えると、おもむろにカイルはアクセルを踏む。
黄色い車体が、異世界の荒野へと飛び出していった。
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