山盛りの夕飯を食べよう
山の中なので、この辺には魚介類が無いのですよね。
でも逆に山の中だから川魚は手に入るかな? とひっそり思っております。
「お待たせいたしました。」
ワゴンに乗った大皿には、黄金色に輝く山が盛られていた。
「まずはフライドポテトです。塩胡椒を振ってますので、そのままでも食べられますが、お好みでお好きな調味料をつけて食べてください。」
中央のテーブルに大皿と取り皿、そして赤いものと白いものが入った器と匙を置いていく。
残りをすぐ持ってきますので、熱いうちにどうぞ、と厨房に戻っていくリーナちゃん。そりゃ、ポテトだけだとねぇ。結構な量はあるみたいだけど。
そういやあ、異世界に来てからフライドポテトは初めてかな? 揚げ物も最初の頃のカツくらいだったような気が。揚げ油がどうとか、って言ってたかも。
「おいしー!」
「なんやこれは!」
リリーとカエデの叫び声が聞こえる。
「な、なんじゃこれは……」
そしてグラディンさんの唸り声が聞こえる。
赤いのと白いの――トマトケチャップとマヨネーズを皿にとって舐めている。
「このソースか調味料か分からないが、初めての味じゃ。でも味のベースは何となく分かるが、どうやって……」
「そんなことは良いから食べなよ。
まだまだ出てくるよ。」
「む、そうか。」
あたしの言った言葉にグラディンさんがポテトに意識を戻すが、熱々のポテトを食べて再び唸る。
「これは芋を油で加熱したのか。それに塩胡椒。いや、胡椒は無くてもよいか。
それでこの味か。問題は油か……」
ブツブツとグラディンさんの独り言は止まらない。そして空気が動いた。
「お待たせいたしました。」
今度は茶色の山を乗せた皿がやってくる。おお、あれはもしかして……
「カラアゲ、というお料理になります。鶏肉に味をつけて油で揚げた料理になります。そのままでも良いですし、お好みでこれらのソースも使ってください。」
「あとは野菜とパンです。ソース、じゃなくてドレッシングがありますので、色々試してください。」
リーナちゃんとアイラがワゴンを押してきた。献立を聞いたカイルが歓喜に吼える。
皿が中央のテーブルに置かれると、駆けだそうとするカイルが自制をして、改めて「いただきます」をする。直後、猛然と肉の山に襲いかかった。
十分な量があるので、大小の嵐が過ぎ去るまで待っても大丈夫だろう。嵐(大)は取り皿にカラアゲと野菜を山盛りにして――肉ばっかり食べるイメージがありそうだが、本人曰く「野菜も旨いだろ?」と――意気揚々と自分のテーブルに戻っていく。続いてリリーがパンを山盛りにしてカイルと同じテーブルに戻る。どうやら二人でシェアするようだ。
ヒューイはリーナちゃんとアイラと同じテーブル。両手に花、と言いたいところだが、アイラは料理やソース類の味を確かめながらリーナちゃんに作り方を聞いているので、それどころではないようだ。
サクさんはひっそりと奥の方の席で食べている。常連っぽい女の人――まだ話したことも無ければ名前も聞いてないや――と二人で静かに飲み食いしている。
で、あたし達のテーブルでは、
「なんやこれは!」
「な、なんじゃこれは……!」
なんか同じ言葉を聞いたような気がする。
説明は後で、とジェルが言ったので、熱心に食事をしている。
カラアゲはカイルが「鳥肉を最も旨く喰う方法の一つだ」と力説する料理だ。
確か鳥肉に味付けして粉をまぶして揚げるんだったっけ? 単純そうだけど、難しい、と思うよ? ……うん、あたしは作ったことないから正直分からないんだけど。
ちなみに味はついてるからそのまま食べられるけど、それに酸味のあるネギソースと、タルタルソースが別添えでついている。
外はカリッと。かじると中からジュワッと肉汁が溢れてくる。おおっ、こいつはたまらん! って、あれ? この味付けって……?
思わずジェルの方を見ると、気づきましたか、と微妙なドヤ顔で返される。
ムカつく。
じゃなくて。一応口に出して言った方がいいかな?
「たぶんだけど、ワインビネガーとグレープシードオイル? あと…… ショウユ?」
「でしょうな。」
今日の料理には酢と植物油が使われている。これまでの揚げ物は豚系か牛系の脂を使っていたような気がする。フライドポテトは植物油じゃないとアレだし。マヨネーズ(それとタルタルソース)は酢と油と卵だ。
なんかこうリーナちゃんも最近レパートリーに悩んでいたからなぁ。材料はともかく、調味料が無くて味が単調になるって言ってたっけ。
おそらくだけど、ワインの醸造所と知り合いになった関係でワインビネガーとブドウの種を入手したんだろう。後はショウユだが、これはあたしも良く知らないんだけど、豆あたりから作る発酵調味料のはずだ。
……発酵、ってそうか。この前知り合ったヨハンさんって魔法使いが、熟成や発酵を早める(本当はちょっと違うそうだけど)魔法のおかげで、酒造りのドワーフさん達から引っ張りだこだ。そんな中、こっそりかひっそりか分からないけど、頼んで作ってもらったのかも知れない。
なんかこう、もしかしてなんだけど、あの子、地味にストレス溜まっていたんだろうか。どこぞのバカのせいでロクに外にも出歩けなかったし、材料や調味料にも苦労していたはずだ。
そういえば、ここ数日調理機器が結構増えていたような気がする。
暗黒馬車で色んな材料や香辛料が手に入り、蒸留酒と発酵調味料ができたので、だいぶ調理環境が充実してきたはずだ。
そろそろこちらにも慣れてきたせいか、そろそろみんな節度というかリミッターが緩んできているような気がする。
……大丈夫かなぁ?
色んな不安は放っておいて、今は美味しい食事を楽しむことにしよう。
レシピはおそらく水を含ませた鳥肉に、生姜・醤油・塩胡椒に香りづけのブランデーで味をつけて、片栗粉的な衣で揚げたのでしょう。
たぶん。
塩は岩塩、胡椒は暗黒馬車で、生姜はどうにか入手、醤油は手作りで、ブランデーも手作りです。
たぶん。
お読みいただきありがとうございます。




