荷物の整理を見よう
ハンブロンの町の気候は北海道くらいで考えております。
となると、胡椒やサトウキビは難しい気候ですけど、唐辛子って北海道でもできるんですよね。
品種改良の賜物なのかもしれませんが、意外と寒い地方にも香辛料はありそうですが、その辺どうなんでしょう?
とはいえ、胡椒の代わりになる香辛料って意外と見つからなくて。胡椒が無いと、意外と料理の味付けに苦労しそうです。
「そういやぁ、色々買うてきたで。まぁ、見繕ったんは狸婆さんやけどな。」
「おお、そうじゃったな。馬車は裏か?」
ん? ふと店の奥を見ると、壁に偽装した汎用箱型作業機械が少し減ってるような気がする。もう馬車の荷物を片付けに行ったかな?
「おーい、リーナちゃん。ちょっと来てくれ。」
厨房の奥からでかい図体と声が現れた。いつの間に戻ってきたのかカイルだ。
はーい、と厨房に走っていくリーナちゃん。
顔を引っ込めようとしたカイルだが、カエデの姿を認めて、首を傾げる。
「お、カエデじゃねぇか。なんか久しぶりだな、戻ってきたんか。」
「……なぁ、カイルはん。ちょいと聞きたいが、なんで裏にいたん?」
「ん? ああ、リリーと戻ったら、裏に黒い馬車が止まっててな。キューブが荷下ろししてたら手伝おうとな。
でも食い物っぽかったし、キューブたちもどこに仕舞えばいいか分からんかったんで、リーナちゃんなら分かるだろ?」
「……そやな。」
なんだろ、この微妙に繋がってないというか、微妙にツッコミどころのある会話は。
「頼んでたものはありました?」
「まぁ、さすがに分からんもんも多かったな。後は適当に詰め込んできたわ。」
「ちょっと見てみますか。」
ジェルが立ち上がったので、キューブを含めたみんなでゾロゾロ見に行く。サクさんは残ってるので、店の中が空っぽになることも無い。どのみち、他のキューブが残っているので、何かあったら分かるだろう。
「お、これ胡椒か?」
「そうですね。今まで無かったので助かります。」
「どこ置けばいい?」
「あ、外の保管庫でお願いします。……どうやら冷やしておかなければならない物は無いようですね。」
カイルが軽々と木箱を運んでいく。
「リー姉ぇ。これはぁ?」
「これも香辛料ですね。……あ、これだけあれば、前のとは違いますがカレーが作れるかも知れませんね。」
「ホント?!」
ひゃっほーい! とはしゃぎながらリリーが頭の上に木箱を乗せて運んでいった。
……カイルは分かるけど、相変わらずリリーは見た目によらず力持ちだ。ヒューイたちに聞くと、スピードも常人よりあるって話だし。ファンタジーな世界だから魔法的な力のアレなのかも知れない。
「目録とかあります?」
「おお、ちょっと待っとれ。馬車の中に突っ込んだるわ。」
グラディンさんがジェルに言われて、暗黒馬車の中にもぐりこんで、ゴソゴソ探し出す。ほどなく小ぶりの木の板を何枚か持ってくる。
「これじゃ。」
「…………」
ジェルが木の板を眺めてるが、すぐに面倒くさそうに視線を外す。近くにいたキューブに木の板を渡すと、別のキューブが現れてプラスチックペーパーを吐き出す。
「リーナ、」
ザっと目を通すと、指先で軽く弾く。ふわりと浮いて、リーナちゃんの手元に飛んでいく。相変わらず器用な奴だ。
「あ、博士。ありがとうございます。」
受け取ったリーナちゃんが、服のポケットからペンを抜いて次々とチェックし始める。
「……ぬしら、何をしておる?」
「荷物のチェックですが、何か?」
しれっとしたジェルに対し、グラディンさんがワナワナと震える。
「その羊皮紙よりも薄くて白い紙は見たが、あれはペン、なのか?」
この世界の「紙」って、木の繊維で作った、あたし達の世界の「古い」紙ですらない。羊皮紙って歴史の教科書の中でしか見たことないが、文字通り羊の皮を「紙」として使っている。
ペンは羽ペンのように先端のとがった物にインクをつけて書くそうだ。ペンもインクもお世辞にも質のいいものが無く、スラスラ書けるような紙やペンはさすがにないようだ。
後でジェルに聞いたら、木の板を使うとか、蝋の板を引っ掻くとか、黒い板に白い石をこすりつけるとか、それなりに筆記具があるらしいけど。
「……頼んだら一本くらいもらえぬかの?」
「今回はお金はいくらでも払う、って言わないんですか?」
「それも考えたが、ぬしらには金を積むよりは納得できる理由を持ち出した方が取引しやすそうだと思ってな。
ちなみにワシが今回の荷を手配したが、結構な手間がかかったんでな。」
そう言うとグラディンさんはニヤリと笑みを浮かべた。老獪なやり手の顔だ。相手の心理を読み切って、落としどころを突いたのを確信したんだろう。
「手間賃となると、数字には表れない価値がありますな。いやはやお手厳しい。」
お手上げ、と言わんばかりに肩を竦めると、白衣のポケットから一本のペンと小さなノートを取り出す。元の世界であれば合わせて一クレジット程度で買える代物だ。
「いいのか? ホントにいいのか?」
「リーナが喜んでいるようなので、その笑顔代も上乗せです。それにこう言ったら、次を期待できるでしょう?」
「ぬぅ…… これは意外と高くついたかもしれんのぉ。」
半分苦笑いだが、やはり嬉しいのか、カエデ相手にほれほれ~と見せびらかしてはしゃいでいる。
「なぁなぁジェラードはん。ウチかてえらい頑張ってへんか?」
「……馬車の中に少し入れてませんでしたっけね?」
「ホンマか!」
ドタドタと狐尻尾とどこかを揺らしながら外に飛び出していく。
……そういやぁカエデに会ったのも久しぶりだから、この感覚も久しぶりだなぁ。悔しくは無いが、その、なんだ、あれよ。
まぁ、それはともかく。
「何でできているかサッパリ分からんな。魔法の気配は全く感じられないのぉ。」
服の内側から虫眼鏡のような物を取り出してペンやノートを覗き込むグラディンさんだが、全く分からないようだ。
「カエデから少しは聞いておるが、ぬしらは違う世界から来たそうじゃな。」
「まぁ、積極的に隠すわけじゃないですけどね。ただ、海を越えた向こうから来てもある意味『別の世界』ではありそうですがね。」
「まぁ、その辺は聞いても分からん話じゃろ? ただまぁ、ワシらとは全く違う人間の気はするな。」
どうでしょうねぇ、と微表情で返すジェルだが、グラディンさんとしてはそれ以上聞くつもりはないようだ。
。
「博士、皆さんが手伝ってくれたので、片付けは終わりました。
グラディンさんも色々ご用意いただきありがとうございます。」
と、整理が終わったリーナちゃんがこちらに近づいてきて、グラディンさんにペコリと頭を下げる。
「なになに、いいってことよ。
それにあれじゃろ? それでワシが食べたこともないような料理を作ってくれるんじゃろ?」
「ご期待に沿えるか分かりませんが、できる限りでおもてなしいたします。」
「そうかい。そういう事を言う奴は大抵良いものを作るもんさ。だから期待しておるぞ。」
妙齢の美女に見えるグラディンさんだが、そのその目は孫娘を見るお婆さんのようであった。
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