色々驚かせよう
おお、またブックマークが増えてる!
……すみません、たまに不定期になりますが、週二回の心構えで頑張っていきます。
「ただいまー」
「お帰りなさいませ。それといらっしゃいませ。」
ドアを開けて「雄牛の角亭」に入ると、リーナちゃんが出迎えてくれた。入れ替わりに店主のアイラが外に出ると、馬を裏まで曳いていく。
店の裏側を整備して、馬屋や駐車場、でいいのかな? まぁ、そんなのもある。元々「雄牛の角亭」がそんなに大きくないので、三台分くらいしか止められないけど。
「カエデさん、こちらの方は?」
二人の前に氷水のカップを置いてリーナちゃんが尋ねる。
「おい待て、娘御。ワシはこんなの頼んでないぞ。」
そんなことをグラディンに言われて、リーナちゃんが首を傾げるが、何かを思い出したのか表情を明るくする。
「前にカエデさんも仰ってましたが、この店では水は無料で提供しております。」
「無料? 水が? 氷も入っとるのに?」
水はまだ理解できるらしい。ただ氷は自然の雪や氷か、または魔法でしか作ることができない。って頭の中のルビィが言ってたっけ。少なくとも、水道直結で自動的に氷を作ってくれる製氷機なんて異世界中回ってもここにしか存在しないだろう。
「氷が四角い、ということはその形で作っておるのか、整形してるかのどちらかか。」
コップを揺らしてカラカラ鳴らして真剣な顔で氷を見つめるグラディンさん。そんな彼女の様子をどこかニヤニヤしながら水を飲み干したカエデが、冷たさに頭がキーンとなったようで、ちょっと顔をしかめる。
……氷菓子とか食べさせてみたいなぁ。
「何かいただきますか?」
「そやなぁ……」
あたし達は昼から醸造所を見に行ったわけだが、戻ってきたので、夕飯にはまだ早い。……それこそ、ティータイムにはちょうど良いころかもしれない。
「なんか甘いもので一息つきたい気分や。」
「かしこまりました。また試作品で恐縮ですが、ご用意させていただきます。」
ペコリ、とリーナちゃんが頭を下げると、また厨房に戻っていく。そちらから「え? なになに? これなに?」ってアイラの声が聞こえてくるので、新しいメニューらしい。
少ししてワゴンを押したリーナちゃんの後にアイラがついてくる。どこか呆けた、というかとろけるような顔をしているので、一足先に味見をしたらしい。キッチンを預かる者の特権とはいえ、ちと羨ましい。
木の皿に細く切られたパンのような物が乗っている。全体が白いものに包まれていて、断面からは何かブツブツしたものが見える。フォークが添えられ、隣には黒っぽい飲み物が湯気を立てていた。コーヒーの香りじゃないな。まだこちらでコーヒーは見てないし。
「シュトレンという菓子パンと温かい麦茶になります。」
「菓子パン? 麦茶?」
先にここの料理を経験していたカエデなので、少しはグラディンさんに良いところを見せようと思ったんだろうが、全く聞いたことない物が出てきて、当惑している。
ちなみにシュトレンというのは、昔々ドイツって国の方で作られた菓子パンの一種。中に洋酒に漬け込んだドライフルーツやナッツを練りこんで焼き、表面を砂糖でコーティングするというものだ。作り方にもよるけど、ひと月くらいは持つパンだ。中のドライフルーツが熟成して、味が少しずつ変わっていくという国によってはクリスマスにも食べられるものだったりする。
麦茶はあれだ。大麦を焙煎して煎じた物だ。冷たくして飲むことが多いが、暖かくして飲んでもいい。お茶がなかなか手に入らないので、いろいろ工夫しているようだ。
「まぁ、食べたら分かりますよ。リーナが作るものですから間違いはありません。」
ジェルがさっさとフォークを手にして、シュトレンを一口大に切って口に運ぶ。おっと、いかんいかん。あたしも検分せねば。
おおっ、これは。
うまい、うまいぞぉ。表面に砂糖がまぶしてあるし、中もバターがたっぷりの生地にナッツとドライフルーツの味が広がる。
「これは……!」
「なんちゅう味や……」
驚いてる獣耳二人組とは対照的に、ジェルが苦言を呈する。
「まぁ、元々が時間をかけるべき料理だからな。漬け込みも甘いし、そもそももう少し寝かせる物だからな。」
「はい、その通りです。」
リーナちゃんもそれを理解しているのか、どこか済まなそうな顔をしている。
「ああ、別に責めてるわけじゃないし、味は十分水準以上だ。まだまだどうにかできる余地がある、という意味だ。」
「これ以上美味しくなるの?」
うまうまとシュトレンを頬張っていたアイラが驚いた顔になる。
「はい。確かにこのままでも美味しいですが、寝かせると味が移ってこなれていきます。少しずつ味の変化を楽しめるんですよ。」
「へぇ~」
と、アイラの目が厨房の方へ向く。なるほど、まだまだ残っているわけだ。
「……ちょい待て、娘御。寝かせる、ってことはこのパンは長持ちするのか?」
グラディンさんの表情が険しくなる。が、気にした様子もなく、リーナちゃんが答えた。
「これでも常温で一か月くらいはもちますね。一年くらいもつ、とも聞いたことありますが。」
「…………」
「ん? どないした狸婆さん?」
むっつり黙り込んだグラディンさんに、カエデが尋ねる。
「誰が婆さんだ。
じゃなくてだな。ひと月保存できるパンじゃぞ。しかも腹持ちも良さそうだし、甘くて菓子のようだ。
……保存食としてどう思う?」
「あ……」
言われてカエデがポカンと口を開く。
「な、なぁ、リーナはん。このシュトレン、とやらの作り方って……」
「はい、材料を結構使いますが、そんなに難しくないと思います。」
恐る恐るのカエデに、リーナちゃんが笑顔で返す。
「なんじゃと…… そんなにアッサリ教えてくれるんか。
狐娘よ、こ奴らは色んな意味で恐ろしいな。」
「そやろ。でもまぁ、まだまだ甘いわ。婆さんの姿やったら驚きすぎて心臓止まるで。」
「本当か…… それは楽しみだ。」
そう言ったグラディンさんは、ある意味怖い笑顔を浮かべていた。
ちなみに日本だと「シュトーレン」と呼ぶことが多いようですが、ドイツ語の発音としては「シュトレン」だそうです。作り方のパターンはいくつかあるのですが、洋酒に漬けたドライフルーツとナッツを練りこんで、表面に溶けたバターを塗り、砂糖をたっぷりまぶしたタイプとなります。
……違ったらごめんなさい。
お読みいただきありがとうございました。




