社会見学をしよう
土日の更新が安定しないのぉ
そろそろ動きのある話に切り替えようかなぁ、って実はノープランなのですが。
ヨハンさんが自分の身の振り方を決める前にガイザックさんに引っ張られて二日ほど。
どうやらすげー順調なようで、二日続けて上機嫌なガイザックさんが、疲れながらもどこか充実したヨハンさんを連れてきている。
「いやー、笑いが止まらんわ!」
ロックバッファローのローストビーフをビール風で流し込みながらご満悦だ。
「酒の醸造もあっという間だ。心なしか味は落ちるが、知ったことか。」
短時間で作れるようになるということは、大量生産につながる。大量生産ができれば、安価に流通し、庶民にも広がる。
……それはそれで酔っぱらいが増えそうだが。
ただまぁジェル曰く、酒としての質が多少劣っても、蒸留して得られるアルコール自体は使い道が多い。代表的なところで消毒薬だ。あるとないでは天と地のほどの差があるんですよ、とドヤ顔で言われたが、納得は出来る。
「そんなわけで、酒造り見てみるか?」
どんなわけか知らないが、暇だったあたしとジェルで酒の醸造所を訪れる。入り口でヨハンさんが出迎えてくれた。醸造所は石造りのなかなか大きな建物だ。
「今、こちらでお世話になっているんですよ。皆さんには良くしてもらってます。」
さぁ、こちらです、とドアを開くと、奥から熱気とともにお酒の匂いがムワッと広がる。
おお、これはなかなかキツい。
ドアの向こうは薄暗く、湿気が強く、アルコールの臭いとともに汗臭さを感じる。中には小柄な――あれ? 子供じゃない?
「酒造りの職人たちだ。見かけは小さいが、皆立派な大人だ。」
「ナリは小さいが、人間の三倍は飲めるぞい。ワシがここで一番の酒好きなボルガだ。」
あたしよりも背が低い、髭もじゃの男がひょっこり、って感じで現れた。確かに背は低いが、横幅が同じくらいある。驚いた顔をしていたんだろうか、ボルガさんが髭で分かりづらいが、ニヤリと笑った……と思う。
「ドワーフを見るのは初めてか。まぁ酒と鍛冶をやってるところなら大体おるけどな。」
ドワーフ…… ゲーム的な知識なら、小柄だが頑丈で力が強い。知恵あるビア樽、と揶揄されるくらい、ずんぐりむっくりで酒好き、って設定が多い。となると、まさに絵に描いたようなドワーフだ。
「……と、あんたかな? この『神の手』を紹介してくれたのは。」
「神の手?」
大層な呼び名を思わず聞き返すと、ヨハンさんが照れくさそうに頭をかく。どうやらヨハンさんのことらしい。
「そうさ、酒飲みの神様がワシらに遣わしたじゃろうて。そりゃワシらも信心深くもなるってもんよ。」
感謝の気持ちは飲んで示すんだろうな。カイルならすぐに司祭にでもなれそうだが。
「ヨハンさんが力を発揮できてるようなら何よりです。」
「……まぁ、強いて不満を言うなら、もうちょっと酒が飲めるようにならんとな。」
ガハハ、と豪快に笑いながら、ヨハンさんの背中……には手が届かないので、腰辺りをバシバシ叩く。思いっきり身体が揺れてるし、相当痛そうに見える。
「まぁ、ヨハンが飲まねぇなら、その分ワシらが飲めばいい話だがな。」
おおぅ。酔っぱらい論理も筋金入りだ。
「まだ蒸留器?って言ったか。そいつがまだ一台しかないから、随時増やしていくつもりだ。で、なんかコツはあるのか?」
「コツ、ですか。
そうですねぇ。蒸留器には、錆びづらく、熱が伝わりやすい金属の方がいいですね。一般的には銅が適してます。」
「確かにそうだな。よし、二号機は銅で作ることにするか。あとはもう少し大きくして、だな。」
うむうむ、とジェルの言葉に納得したように頷くと、後ろを向いて作業している仲間たちに一言二言伝えるて、あたし達とヨハンさんを手招きする。
「こっちじゃ、こっち。」
下で火を焚いている大きな金属の実験器具みたいな物――これが蒸留器か――の横を抜け、いったん外に出る。外には裏庭的に開けた場所があって、その真ん中にドアと、そのドアくらいの大きさの建物があった。
「こちらは貯蔵庫ですね。」
ヨハンさんがそっと教えてくれた。
ドアを開けると、階段ではなく緩めのスロープになっている。つまりは地下室なんだろうな。スロープの幅は狭く、ドワーフサイズで一人くらいがギリギリの幅だ。
ボルガさんが懐から棒を取り出し、軽く捻るとその先端がぼんやりと光る。
「魔法の道具のようですな。」
あたしの後ろを歩くジェルが呟く。異世界に来て、色々見て回った感じだと、それなりの金額を出せば限定的な魔法の道具が買えるらしい。さすがに攻撃的な物はないだろうけど。
僅かにカーブを描いたスロープを降りてくと、ほどなく石造りの広間に出る。天井は低い。ジェルでもちょっとキツい。カイルならアウトだ。いや、その前にスロープ自体通れない可能性もある。
とはいえ、ドワーフの彼らにとっては十分広いのだろう。で、広間にはドワーフ、じゃなくて樽がいくつも積み上げられてあった。
「どうじゃ。凄いもんだろ。」
自分でも灯りを出して、周囲を照らしながら、ジェルが広間の中を見回す。
「触っても?」
「ああ、大丈夫だ。」
興味深げに樽を眺めながら、たまに表面に触れて感触を確かめている。
「材料の木は同じような物ばかりですな。」
「お、そこに気が付くか。人間にしてはなかなかやるな。樽の材料はやはりオークに限る。が、今はこの“神の手”ヨハンがいるからな。色んな木で試すことも考えておるよ。」
どうやら奥の方は古い樽が置いてあるようで、そっちの方に歩いていくジェルの後を何となくついていく。
「凄いですよ、ラシェル。」
ボソリ、とあたしだけに聞こえるくらいの声で呟く。
「これはワインの樽ですが、我々の世界ではすでに失われた技術です。」
そういえば、ワインなんて工場で大量生産されるようなものだっけ。ごくまれに、昔の製法で作られたお酒が見つかって、一滴いくらで取引されることもある。
「活字やデータの中だけの技術です。門外漢ではありますが、ちょっと感動ですな。」
そう言われると、なるほど感慨深いものがあるかもしれない。
今更ながら、随分「遠く」に来たもんだ。
お読みいただきありがとうございます。




