実験をしよう
寒くなってきましたねぇ
季節外れなのかどうか知りませんが、大きめの台風が来たり来なかったり、と
寒暖差が激しいようなので、皆さまご自愛を
「さぁさぁお立会い。ここに取り出したるは何の変哲もない小さな樽。」
「その前振りは何かタネがあるときだな。」
「世知がないですなぁ。」
ある日の昼下がり。
田舎に帰る、という魔法使いのヨハンさん。ジェルに呼ばれたガイザックさんに、何かを聞きつけたのか早上がりしてきたバモンさん。それにこの「雄牛の角亭」の面々。
え~と、全部で十二人+あたしの頭の中に一人+一匹か。
……あれ? 本当に人数あってる?
ま、いいか。
そこでジェルが取り出したのは一つの樽だった。大きさは両手で持てるくらい。作ったばかりなのか綺麗な樽だ。
まぁ、作ったとしたら箱型汎用作業機械の手(?)のよるものだろう。
「どれどれ?」
ガイザックさんが上から下から樽を眺めて、最後に蓋を開けて、ん? と眉をひそめる。
「黒いな。」
その声にあちこちから視線が樽の中に突き刺さる。
うむ、確かに黒い。
背伸びして一緒に覗き込むと、樽の中を覗き込んだ。木でできた樽の中は黒く……塗ったんじゃないな。なんだろ?
「これは…… 焼いてるのか? 炭みたいになってるな。」
「まぁ、その通りで。」
じゃあ、始めますか、とジェルが言うと、ガイザックさんが外からジェルのよりも大きな樽を抱えてくる。
「酒に弱い奴は下がってろよ。」
そういうと、樽の蓋を開ける。すぐにムワッとアルコールの臭いが広がった。中身は度数の強いお酒のようだ。
ザッとみると、リリーは臭いがきついのか、数歩下がった。アイラとリーナちゃんは動かず。サクさんがズイッと前に出てきた。
「なかなか強くなってますな。」
「まぁな。ただキツくなって、何かで割らないと飲みづらくてな。」
なかなか難しいもんだぜ、と言いつつも新しいお酒ができたせいか嬉しそうだ。
「これならいけそうですな。カイル、少しこっちに移してくれ。」
「お、任せろ。」
ひょいとお酒の入った樽を持ち上げると、小さい樽の八分目くらいまで中身を注ぐ。またアルコールの臭いが広がるが、慣れたと言えば慣れた。
両方の樽に蓋をして、今入れたばかりの樽をテーブルの中央に置く。樽にペタペタと小さな機械を張り付け、周りにも観測機械らしきものを設置する。
「さて、ヨハンさん。」
「はい?」
ジェルが白衣のポケットから砂時計を取り出すと樽より離したところに置く。
「この容器の砂がすべて落ちるのを一サイクルとします。
今回は三サイクルやってみましょう。連続でやらなくても大丈夫なので、無理をしない程度に休憩しながらお願いいたします。」
「は、はい……」
半信半疑、というか、恐る恐るヨハンさんが樽の上に手をかざし、ムニャムニャ唱え始めた。手のひらから何か出たところでジェルが砂時計をひっくり返した。
……そういやぁ、ふと思ったけど、この世界に砂時計ってあるんだろうか? ガラス自体あんまり見たことないし、作り方難しいんだっけ?
ガイザックさんやバモンさんが興味津々で砂時計を眺めている。ヨハンさんは砂をジッと見つめている。砂の量を見た感じ、一分計かな? そろそろ砂が落ち切りそうだ。
「少し休んだ方がいいかな?」
「いえ、後二回なら続けていけます。」
「無理はしないでくれ。」
ジェルの手が砂時計をひっくり返す。
相変わらずヨハンさんの手からはなんかモヤモヤしている物が出ている。ふと思い出して、左目を閉じて右目だけで見てみる。
あー なるほど。心臓のあたりから何かがモヤモヤ出てきて、それが……血管に沿って、かな? 全身に巡っているようだ。
あ、ジェルがまた砂時計をひっくり返した。
ということは後一分くらい?
その間にあたしは観察を続ける。
心臓から出ているってことは、あのモヤモヤは血液の流れに沿って広がっているんだろうか。モヤモヤは頭や口元、そして両手両足に濃くまとわりついているように見える。
今は特に右手に集まって、そこから下の樽に向かって放たれている。放たれたモヤモヤはハッキリ見えてはいないが、微妙に色が変わっているように思えた。
……たぶん、あたしが今見てるのが魔法というか「魔力」なんだろうか?
これに関しては、さすがのジェルにもすぐには分からないことだろう。
そんな風に思っている間に、砂がすべて落ち切った。
緊張を緩めたヨハンさんの所にリーナちゃんが水を持っていく。多少は疲れたのか、一気に水を飲み干して一息つく。
「さて、上手く行ってますかね。」
よいしょ、とジェルが蓋を開けると、さっきとは違う芳醇な香りが広がる。
カイルは樽の中身の正体に気づいたのか、おおっ、と目を輝かせた。
「これだけアッサリと成功すると、やや物足りなく感じますな。」
ジェルがそんな戯言を言ってる間に、リーナちゃんがカップと角氷の入った容器、そして水差しを載せたワゴンを押してきた。
「どれどれ……」
リーナちゃんからレードル(スープとかすくう奴)を受け取ると、カップの一つに樽の中の液体を入れる。さっきまでは無色透明だったはずだが、今は茶色になっている。
カップから手の甲に数滴落として、匂いを嗅いだ後、細長い紙に液体を浸して色の変化を見る。
「分かりやすい毒物は無し、と。カイル、毒見してくれ。」
「お、いいのか?」
待ちかねたかのようにジェルからカップを受け取ると、大男が一気にそれを飲み干した。
「くぅぅぅぅっ、効くぅ!
こいつはイケるぜ。」
カイルの笑みに、飲兵衛たちの目が少年のように輝いた。
……単純だな、全く。
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