表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
魍魎アフリクターズ  作者: 機場 環
第参章
10/36

亡き想い 其ノ弐


 結局のところ清春の依頼は、“妖怪ハンターの少女を止めさせて欲しい”というものであった。

 勿論自分に被害が及ぶのも恐ろしいが、同族がこれ以上被害に会うのも嫌だ、とのことである。

 何はともあれこの依頼から、犯人は普通の人間ではないーー妖怪か、或いは明月の同業者ということが判明した。しかしそれ以外の手がかりは皆無だ。


――遊馬は、此処の近くとか言ってたが。


 遊馬との電話を思い出し、何処で“指名手配犯殺人事件”があったか調べると、確かに区内であった。

 しかし、まるで使命のように指名手配犯ばかりを狙っているのだとすれば移動しているだろうと考えるのが妥当だ。


「指名手配犯とか、悪人がどんどん殺されるとか、そんな話しあったなぁ……」

「あれは死神のせいだけどねぇー」

「お前ら、真面目に考えろ」


 例のごとく寝巻でゆるゆるぐだぐだと会議する二人に、柚月は溜め息をつく。


「今まで被害にあったらしい妖怪は、あの間抜けか社畜曰く鬼に天狗だろう。明月、お前なら分からないか?」

「ん? 日本三大悪妖怪……?」

「そう。」


 日本三大悪妖怪とは。酒呑童子という鬼、崇徳上皇という天狗、そして玉藻前という妖狐。妖怪の言い伝えの中でも、特に悪名高い妖怪である。今回殺されたのは 酒呑童子と崇徳上皇では無いらしいが。


「成る程。正義のヒーローぶりてぇのか」

「そう。つまりだ。人間でも妖怪でも、今一番有名な“悪者”を狙うだろう」


 柚月は得意げに腕を組むと、間を溜めてから言った。


「最近一番目立った悪行してたのは誰だと思う?」



◇◇◇◇◇



「―――それが、あっしですかい」


 火車、炎角は、応接室のソファに行儀良く座りながら言った。

 昨日の(パジャマ)会議の結果から、炎角に連絡し、相談所に来てもらったのである。

 因みに妖怪である炎角が携帯を持てるのかというなは、炎角は戸籍のある妖怪の友人、三吉鬼と同居しているらしく、その友人の名義で携帯が使えるらしい。

 携帯料金は払えるんだろか、と、明月はそんな呑気なことを考えた。


「その節は本当に失礼を……」

「んな、過ぎたことは良いんだけどよ」


 行儀の良い姿勢のまま頭を深々と下げる炎角に、明月は困ったように笑う。


「確かに、最近は妖怪もやりにくい時代になりましたもんね。目立ったことはできませんぜ」

「そうなのか?」

「へえ。特に河童の種族なんかは大変みたいですぜ。最近は雨女さんとか、幽霊系の方が怖がられてるみてぇで、化け物系は全然」

「やん、雨女さんじゃなくて篠って呼んでよー」


 身振り手振りで説明する炎角に、篠が抱きつく。すると、炎角は顔を真っ赤にして、小柄な体を更に縮こめてしまった。


「とっ、兎に角、それであっしがどうしたんです?」

「俺様が護衛します」


 思い切り声がひっくり返っている炎角だが、明月の言葉に、へっ? と、更に素っ頓狂な声を漏らす。


「お前は運び屋で、戦闘には向かねぇだろ。篠もだし、姉貴は言わずもがな。つーことで、犯人捕まえる為に……」

「つまり、囮スか? あっしで務まるなら、やらせてくだせぇ」


 炎角はそう言いながら、薄っぺらい胸を張ってみせる。お世辞にも、頼もしいとは何とも言い難かった。


「ありがとな。」

「いいえ、でも」


 うーん、と、考える素振りをして見せる炎角。


「酒呑童子だから鬼、崇徳上皇だから天狗、までは分かるんスけど、なんで妖狐じゃなくあっしに護衛を……?」

「単純に、知り合いに妖狐がいねぇんだよ。だから最近一番悪名高いお前を……」

「おい明月。あんまり悪名高いとか言うなよ。また炎角が凹んじゃうだろう」

「そうだよ明ちゃん。可愛い炎角ちゃんいじめないで」


――こいつらは俺をからかいだけだろう。


 明月は溜め息を付いて諦めたように黙った。


「あ、明ちゃんロリの護衛じゃないからやる気でないの? 乗り気じゃないの?」

「大丈夫だ明月。そのうち犯人のロリに会えるさ」

「明月さん、小さい子が好きなんスか……?」


 明月の溜め息に過剰反応した篠と柚月と、聞いてはいけないことを聞いてしまったという顔をする炎角。明月はそれに対し、更に深く溜め息をつく。


「あーーもーーっ、お前らしつけぇ!」


 再び清春(サンドバック)を失った明月は、怒りをその口から、咆哮するようにして発散する他に方法が無かった。





◇◇◇◇◇



半分に割ったような月が雲から見え隠れする夜。栗色の髪を翻して、少女はその華奢な腕のような、細身の薙刀をひゅんひゅんと扱いながら、上機嫌に鼻歌を唄っていた。


「ねぇ、順調ですね。怖いくらい」


少女は鼻歌を中断して誰か(・・)に話しかける。誰も答えない。


「鬼、天狗ときたらやっぱり狐さんですよね」


嗚呼、と、少女は天を仰いだ。


「獣臭いのは嫌だなぁ。」





評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ