第2話 ヒトカゲ 2
怪異と呼ばれる化け物、それらは人間に害をもたらす存在である。
怪異は根絶する事はできないと言われており、怪異は一定の数で保たれているのだ。
「君の両親は既に死んでいる。」
「“ヒトカゲ“によって成り代わっていた。」
「君の知っている両親はもう存在しないだろう。」
伊織の父親を名乗る時田総司は律に真実を話した。
「お父様、いくらなんでも言い方が悪いですよ。」
「そうか、言い過ぎて申し訳ない。」
その言葉を聞いて総司は軽く謝罪をした、律は両親が死んだと聞いてショックを受ける。
(お父さん、お母さん…なんで。)
(僕たちは何もしてないのに、どうして)
律は何故、理不尽に両親を奪われたのかが理解できない。
怪異という存在はそんなに理不尽な存在なのかと律は思った。
「ところで伊織、どうして彼をここに招いたんだ?」
「えっと、それはですね…」
当然の疑問だ、総司からすれば怪異によって家族を失った程度の子供をわざわざ自分の邸宅に招き入れる理由が思い付かない。
「律を時田家の養子にしたいから!」
突拍子もない事を伊織が言った。
律からすれば、高級そうな邸宅に住んでいる人がボロボロな子供を養子として引き取ってくれるとは考えられない。
「伊織、それはいくらなんでも…」
流石に伊織の父親も首を縦には振れない話だった。
「お父様、ダメですか?」
苦虫を噛み潰したような表情をしている父親に対して、伊織はくりくりとした目をさらに大きく見開いて、これでもかという上目遣いで頼み込んだ。
「うぅ、わかった。」
「可愛い娘の頼み事だ、なんとかしよう。」
「ありがとうございます、お父様♪」
8歳ながら、9歳の少女の恐ろしさを噛み締めた律であった。
それからというもの、律を養子として迎える話は淡々と進む。
「家族になるにあたって、色々と挨拶は大切よね。」
伊織は隣にいる執事風の少年を指差した。
(あの服装ってアニメとかで見たことある。)
(執事って奴かな、邸宅に住んでるんだし居るよね。)
律はその少年を伊織の執事なのだと解釈する。
「この子は私の弟で時田汐莉って言うの」
(え、その見た目で弟なの!?)
どうやら、律の予想は外れだったようだ。
「えっと、この服装の理由なんだけど。」
「実は、お父様が律を養子として迎える代わりに…」
「汐莉の身分を変えて執事にしたの。」
時田家には「男の兄弟は1人しか表舞台に出せない」という特殊な掟がある。
そのせいで汐莉は身分を変えなければならない。
「だから、汐莉は弟じゃない事になってて。」
「代わりに律が私の正式な弟になってるって事。」
つまり、律が養子になった事で無関係だった伊織の弟が被害を被って執事になっているそうだ。
(つまり、僕のせいって事!?)
「はじめまして、律様。」
「僕の本名は知っての通り、時田汐莉ですが…」
「外では青羽冴香の兄であり、青羽汐莉として過ごしています。」
「どうか、お姉様の面倒をよろしくお願いします。」
深々と頭を下げる汐莉を見て、本当に破天荒な伊織の弟なのか律は怪しくなった。
「ちょっと、汐莉ってば。」
「それだと律が私の面倒を見るみたいでしょ?」
「これは失礼、口が滑りました。」
(絶対にわざとだ、これ。)
「ところで律の専属メイドは何処にいるの?」
「青羽冴香さんの事でしたら、律様の部屋で待機中とのことです。」
「あら、仕事が早いのね。」
(僕の専属メイド?いや、流石に聞き間違いか。)
「それじゃ、律は汐莉に部屋を案内してもらって」
「私は用事があるから行かないといけないの。」
それを聞いた汐莉は伊織に向かって深々と頭を下げて、僕を部屋へと誘導する。
「律様、こちらです。」
「え、はい。」
汐莉に連れられて自分の部屋へと辿り着く。
「後のことは冴香さんから聞いてください。」
汐莉がドアを開けて中へ入るよう促す。
律は従うように部屋の中へと入っていった。
「あ、はじめまして律様。」
「私は律様の専属メイドの青羽冴香です!」
「精一杯、お世話しますのでよろしくね!」
冴香と名乗ったメイドは律より1歳ほど年下のように見えた。
「え、嘘だろ。」
「本当に専属メイドが居る…。」
律は冗談のつもりで聞いていたので、まさかメイドが本当にいるとは思いもしなかった。
「あれ、もしかして専属メイド持ちの経験は初めてだったりする?」
冴香というメイドは興味満々そうな表情のまま、意味不明な質問をして律を驚かせた。
「何その経験…知らないんだけど。」
「え、知らないなんて事あります?」
「財閥なら誰でも簡単に経験するそうですよ?」
当然の事だと言う冴香の発言を聞いて、律は前までの生活とのギャップを感じてしまい更に混乱した。
「僕はメイドとかアニメでしか聞いたことないし。」
「あれ、もしかして元々は庶民だったりします?」
「そうだけど?」
「え、マジに…?」
珍しげに言う冴香を見て、少し呆れた律は溜息を吐いた。
「ていうか、何時の間にか敬語なくなってるし。」
「あ、すいません!」
「つい、同年代の人を見て癖で…」
(いや、そんな癖聞いたことないよ。)
どうやら冴香というメイドは、少し抜けている所があるのだと律は思った。




