第83話 島の反対側
タブノキや松の巨木が並ぶ 港町から北西に歩くと見えて来る通称黒い森
昔からそんな人を寄せ付けない様な名前で呼ばれていたわけではなく
ある時からどこぞの大金持ちが 森の奥の土地を丸々所有してしまってからだそうな
「奥は暗いですね……」
「こないな場所に子供が入って行ったんなら逆に勇敢やでぇ……」
辺りに人の気配は無い ただでさえ薄暗いのに夜になってしまえばと思うと
「俺…… 森の中を見て来ます 岳斗さんは森の外側をお願いします」
「ワシ…… 人に気を遣われたの初めてやでぇ」
「え?」
「水臭いやないかい安斎ちゃん…… ワシも行くで」
「……助かります」
ペテ公は持たされていた懐中電灯 岳斗はスマホで辺りを照らしながら進んでいく
数種類の鳥の鳴き声がペテ公の不安を煽る 一方で岳斗は切り株を見ていた
「ほぅ…… こりゃ立派な年輪やのぉ……」
「切り株よりも泰鳥君を探して下さい……」
「……何か臭わんか安斎ちゃん?」
「えっ……?」
「こっちや」
大分進んで休憩しようかというタイミングで岳斗は走る
徐々に木々が少なくなり 人の気配を感じさせる煙が見えて来た
「……こんな場所があったのか?」
「建造物のデカさは見栄と比例しとるのぉ……」
そこには巨大な港が広がっていた
一隻の船も無く人の行き交いも少ない
しかし生活感が漂っているところを見ると 無人ではないのだろう
長閑な町とは打って変わって いきなり都会にありそうな港と直面すれば感覚がバグる
「これを島の人達は容認してたんでしょうか……?」
「全容は聞かされてないんとちゃうか? ここを発見しなければえぇ話やし」
「岳斗さんはここを知ってたんですか?」
「うんにゃ…… 探してたんやが実際見るまで確証は無かったわぁ」
一箇所一箇所見るだけで目が疲れてくる近代の産物に億劫になるペテ公
すると叫び声が上がり 視点が一つに集中した
「何処から迷いこんで来たんだお前?」
「うぇぇぇぇん!!!!」
二人はすぐに駆け付ける
ペテ公の走ってくる姿が目に入った中年の男は目をハートにして
「あんざ~~い♡ 探したんだぞぉコノヤロー♡」
悪寒が走って急ブレーキするペテ公 彼の前には岳斗が立ちはだかる
「お前が海に捨てられたって話を聞いて この島を半周しては往復を繰り返すのが日課だった……
そうか生きてたかマイダーリン♡ 俺は嬉しいぞぉ……!!」
「何やこの変態…… 安斎ちゃんの知り合いかいな?」
「知りません…… 知らないけど何故か鳥肌が止まりません……」
岳斗を見る中年男性の目付きが変わった
「……浮気は良くねぇなぁ安斎」
「誰やねんお前……」
「俺はフレバー・ホープ 安斎とは…… お付き合いさせて貰ってる!!!!
テメェこそ誰だ?! 俺の安斎を誑かして…… 見せつけてくれるじゃねぇか!!!!」
「ワシは四季園岳斗や…… てかどうせ嘘やろ今の発言……」
「嘘じゃない!!!! 安斎からも言ってくれ!!!!」
「安斎ちゃんは今記憶喪失なんや 無茶言うなや……」
「記憶喪失…… だと……?」
フレバーは一瞬の合間に思考を巡らせた そして口角を上げてヨダレを垂らす
「ははーん♪」
不意にフレバーはペテ公に近付く
良からぬことを考えていると 表情から汲み取れる岳斗はフレバーに先手を取った
顔面目掛けてドロップキックを食らわすが両手で止められる
「逃げるんや安斎ちゃん!!」
「逃がさないわよぉ!!!!」
岳斗を港内の海に放り投げると 子供を抱き上げて逃げるペテ公に迫った
咄嗟に彼は子供を逃がして別方向へ そのままフレバーに捕まる
「ハァハァハァハァ……!!!! 俺は……♡ お前にとって……♡
掛け替えのない存在なんだよ♡♡♡♡」
「……すみません ……そう思えません ……すみません」
「一番大切な人を忘れるとか悲劇だろぉ なぁ安斎……
俺は探してたんぜ……? 待てども待てども 日を跨いで俺の心労はもうピークよぉ
こういう時は運命の王子様が…… いやお前は攻めが好きだったな……
お姫様のキスで目覚めてくれ安斎ぃ……♡♡♡♡」
「やめて下さい……!! 本当にやめて下さい……!!」
フレバーの唇がペテ公の唇に近付いて来る絶望的な状況
そんな間の悪いタイミングでふと気付けば 周囲は大勢の人間に囲まれてた
その中には丸いグラサンを掛けるグリーフリーの姿も
「なぁに気色悪いことやっとんじゃお前らは……」
「っ…… グリーフリー博士……」
フレバーはペテ公から距離を取る
「ほぉ…… これはこれは安斎賢也君 私の研究に協力する気になったのかね?」
「……この子が港に迷い込んだんです 心配している父親がいます ではこれで」
ペテ公はごく自然に立ち去ろうとするがすぐに回り込まれる
「ンフフフ…… 子供は無事に家に帰してやろう 旅館の娘にも手を出さないと誓う
だから安斎君…… 私に君の頭の中を見せてくれないか? 破格の条件だと思うんだがねぇ?」
指でグラサンを整えるグリーフリー
「私は君が欲しい!!」
そんな彼の頬を横から殴り飛ばしたのはフレバー
「安斎は俺の物だぁ!!!!」
「おい正気かフレバー?! 博士は厚遇しろとの上からの命令だぞ?!」
「やかましい!! ……言うに事欠いて君が欲しいだと?!
人の旦那を横取りなんざ神様仏様ユピテル様が許しても俺が許さねぇ!!!!」
周囲の従業員達を殴り始めた
その背後より陸に上がった岳斗もまた喧嘩に加勢する
「安斎ちゃんはワシのもんやぁ!! 絶対に柴塚ちゃんと結婚させるんやぁ!!!!」
殴られる側からすれば意味が分からな過ぎて逆上してしまうレベル
目的意識がバラバラの戦いが始まった




