第121話 カスパー・ハウザー
バランタイン精神病院
山脈の麓に位置するこの国は 何処に療養施設を建ててもセラピー効果がある
柴塚達は駐車場に車を停め 後から走ってきた岳斗の車も隣に付ける
「話は通してる こっちです」
デュールに連れられて院の端の玄関から入る五人
窓の至る所に鉄格子が貼り付けられている様相は普通の病院とは違い
隔離されている空間に緊張感を覚えさせられる柴塚
「こちらに院長がいます」
職員が集まるオフィスにて隅の待合室には50半ばくらいの男性が座っていた
「やぁデュールいらっしゃい…… 随分大所帯ですが何か?」
「去年のカーニバルの時以来ですがお変わり無いようでカリガリ博士」
「今年ももう近いね また皆と一緒にお城でお酒が飲める日が待ち遠しいよ」
全員が椅子に座る中 少しでも静かになれば遠くからうめき声やら発狂した声が聴こえてくる
「まぁこういう場所なんでお気になさらず それでは要件を聞かせてくれデュール」
「昨日か今日なんですが夢遊病患者の脱走なんかあったりしませんでしたか?」
「そういう話は届いてないなぁ…… どうなんだね?」
その場のスタッフも一同に首を横に振る 気持ち悪いくらい統率された動きだった
「何なら患者を確認していきますか? 少し危険ですが……」
「見世物にしたくない気持ちも配慮しつつ そうさせて貰います」
従業員の案内のもと 老化に貼られる付箋の上だけを歩かされる柴塚達
ドアの隙間から見える患者達は 自分達とは少し違う雰囲気を見せる者も
逆に何処が原因なのか分からない普通に対話している者もいた
澄香がふと疑問をボヤく
「精神疾患って何で判断されるんでしょうね?」
「日本で訊いた話なんやが
三回たらい回しされた 統合失調症を訴える患者は問答無用でそう断定されるらしいで?」
「それは酷い話ね」
「普通として扱うか病人として扱うか それくらい難しい話なんやろうなぁ」
廊下からでも視野に入る中庭に出ると 一人の男性が柴塚に慌てて話し掛けてくる
「そこのお嬢さん……!!」
「えっ…… あぁはい!!」
「あそこにチェザーレって男がいるだろぉ?」
「はぁ……」
「アイツの話に耳を傾けてはいけない 奴は予言者なんだ
俺の知り合いは夜明けに死んだ 予言は本物だったんだよぉ……」
突如何を言い出すのか 気持ちを整理出来ない柴塚は返答に苦しんでいた
すると受け答えに興味の無い男は そのまま場を離れてベンチに座る女性の方へ
「やぁジェーン…… 今日も美しいねぇ……!!」
「…………」
彼女はベンチに座って両腕を前に出し 何かを奏でているエアピアノを弾いていた
「いつ結婚してくれんだいジェーン……?! 付き合ってもう五年だろ?」
「……私は王室の血筋なので ……恋心だけでは判断出来ませんわ」
「……あっあっあ んいえぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇ!!!!」
男は取り乱して柴塚のもとへ戻って来る
「分かっただろぉ?! チェザーレの言うことは全て当たってしまう……!!!!
僕と一緒に逃げましょう その方が安心なんだよ!?」
「ちょっとフランシス? 彼女が困ってるでしょ?」
フランシスは宥める従業員の腕を振り解き 柴塚の手を握って何処かへ走り出してしまった
「ちょっとちょっと止まってぇ!!!!」
「すごいところやなぁホンマ……」
岳斗と従業員も二人の後を追う
残された澄香とデュールと西渕は取り敢えず中庭から屋内に避難した
体力は凄まじく 人気の無い廊下を猛ダッシュするフランシスと振り回される柴塚
「おっ落ち着いて……!!」
「逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ逃げなきゃ 僕は紳士なんだから守らなきゃ」
先回りしていた岳斗が前方に待機し 両手を広げてフランシスを捕まえた
「ナイスランやでぇフランシス!!」
尽かさず従業員が鎮静剤を打つ フランシスはその場に寝そべるが口はパクパク動いている
「チェザーレに気を付けろぉ…… 奴が全ての黒幕だぁ……」
「パワフルな兄ちゃんやんなぁ……」
「病室に運ばなければなりません 手を貸して下さい」
彼の身体を持ち上げる岳斗達は病室へ 四人一組の室内でも静寂には程遠かった
「あらウィボ こっちに居たのね」
「またフランシスが院内暴走したのかしらモース?」
岳斗がベッドにフランシスを寝かせれば
「こちら私の同僚のウィボ そして彼女が担当している隣の患者さんが例の夢遊病者です」
「彼が……」
「名前はカスパー・ハウザー 無口だけど思った事が顔に出る正直者よ」
ベッドに座ってご飯を食べさせて貰ってる青年は 柴塚の顔を見ればほくそ笑み
しかしすぐに興味が無くなったのか ウィボの差し出すスプーンに夢中だ
「あの…… 彼が脱走したことは?」
「記録には残っていませんね」
二人は暫く彼の顔を観察する
「どうですか岳斗さん?」
「いやぁどうやろぉ…… ホテルの部屋から出て来た男の顔も そないにはっきり覚えとらんのやぁ」
「一応対話した支配人に顔を送っておきましょう……
この患者の顔写真が欲しいのですが?」
「プライバシーがあるので許可は出来ませんね」
柴塚達は中庭を見渡す
「デュールさん何処に行ったんだろう…… 捜査協力ならスルー出来るのに」
「そういや澄香はんと西渕も放ったらかしたまんまや」
「合流しましょう 澄香さんは一応命を狙われてるんですから」
「継承戦なんやから仕方ないって言えばそこまでなんやがなぁ……」
「死んで当然って人には見えませんでした」




