第120話 夢遊病患者
死体を見てしまった全員が監視室に集まっていた
警察沙汰になれば第一発見者全員に容疑が掛かる
「やぁ支配人 最近物騒ですなぁ」
「何年ぶりでしょうかねぇ…… 最近は暴力的な事件は無かったもんで未だ緊張していますよ」
「レディーファドゥコン駐留のデュール・バインだ
発見者はこれまた多いなぁ ホテルのスタッフ三人と支配人さん
被害者の父親のエトゥンさんにアジアの旅行客三人とはなぁ……」
警察官のデュールはさっそく監視モニターを覗く
今に至るまでこの数時間 部屋には奇妙なほど誰も入って来ていない
「合成ですか…… これまた手の込んだことを…… このモニターをイジれるのは支配人?」
「ここにいる監視センター係の二名です」
「じゃぁこの内のどっちかが犯人だな」
「「 そっ…… そんなぁ?! 」」
必死に無実を訴える従業員にデュールは冗談のつもりだった
そこへ柴塚が割って入る
「すみませんが私は探偵です 捜査に参入しても?」
「いやいや困るなぁ…… 旅行客に場を掻き回されるほど厄介なものはない」
すると柴塚に突如として悪寒が走る 自分の後頭部に実銃を当てられたからだ
「何しとんねんお前?」
「黙れ……!? アジアの猿なんかに主導権握らせて堪るかよ?」
「何やとゴラァ?! もっぺん言ってみろや税金泥棒がぁ!!!!」
「態々海外でも言う人初めて見た……」
銃口は柴塚から岳斗に移動 ちゃんとヤクザを倣ってるだけあって彼は引かない
「実銃だぞ? 頭イカれてんのかお前?」
「逆に兄ちゃんは臆病と見たでぇ? 撃ち方ちゃぁんと勉強したんかぁ?」
「死にてぇのかてめぇ……?」
「おいもう寄せマリオ!!」
撃鉄を引く彼の前に 身を挺して割って入るデュールは銃を下ろさせた
マリオは渋々腰に仕舞い 隅で煙草に火を着ける
「彼はマリオ・ナレンシュヴァム
申し訳ない…… ちょっと日本人をよく思ってなくてな」
「何かされたんですか?」
「そっちの国ではあまり知られてないんだな
約十年くらい前 ガップリンって村が丸々全焼したテロ行為があってな
そのテロリストが全員日本人だったんだよ」
「そんなことが……」
「噂じゃぁその村にある研究所が目的だったらしくて にしても酷い惨状だったらしい」
「重要施設だったんですか?」
「それが謎だらけでなぁ…… 訊いた話ではそこで働いていたのも日本人がほとんどだったらしい
その村に当時駐留していた警察官の一人がマリオの父親で……」
「それは……」
「まぁ何だ…… 日本人全員がぁと思うのはアレだが 身構える気持ちも分かってくれ」
「分かりました それで捜査の方に話は戻るんですが
実は奇妙なことが二つありまして……」
「二つ?」
「私達が例の部屋でドアを開けようとした時 中から見知らぬ男が出て来たんです」
「ほぉ……」
「それとエトゥンさん…… お連れの方は何処に行ってしまったのでしょうか?」
その場の全員が椅子に座って頭を抱えるエトゥンに注目した
「貴方がこのホテルに来た経緯を詳しく伺っても?」
「俺は知らない…… アンティがあんな目に遭ってるなんて知らないぞ?」
「エトゥンさん!」
「っ…… 今日は仕事で妻から電話が掛かって来たんだ 娘から変な電話が掛かって来たって」
「何やそれ伝言ゲームかいな?」
両方の手の平で顔を一撫でするエトゥンは必死に冷静を取り戻して
「このホテルに弟がいるからって謎の声から電話が掛かって……
だから仕事を中断して一先ず家族と合流しようかと思ったが 息子が心配でこっちに直行したんだ」
「……お連れの方とは何処で?」
「娘の彼氏らしい…… 仕事場の駐車場で車に乗ろうとしたら話し掛けられて」
「恋人さんとは面識は?」
「聞けば娘にウザがられるから知らなかった…… その時は冷静じゃなかったんだ」
「怪しいですね…… 因みにドアから出て来た謎の男に心当たりは?」
「はっきり見ていないが知らない男だ」
連れの男の正体は全く誰も知らない こちらも謎の男だった
岳斗は天井に深い溜息を吐いていると ホテルのスタッフの一人が手を挙げる
「あの…… 私も顔を見たんですけど…… その……」
「何か心当たりでも?」
「その…… 信じて貰えないかも知れませんが…… 〝夢遊病患者〟じゃないでしょうか?」
「ど…… どういうことでしょうか?」
「何というか…… その時に話し掛けられた支配人の方へ顔は向いてたんですが
焦点が合ってなかったと言いますか…… エレベーターまで歩く仕草がまるでロボットと言いますか」
突拍子もないスタッフからの証言
適当に言ってるのではないかと思われたが ここでデュールが言及する
「実は近くには精神病院があるんです そこには精神疾患などそれこそ夢遊病患者もいる話で」
「脱走して来たってことかいな? ほんなら事件とは無関係とはならんなぁ」
「えぇその患者が澄香さんの部屋にいて その直後に被害者がいたんですから」
デュールは話の分かる警察官だった
駐車場に停めてある車に柴塚が乗ることを許可する
「澄香さんも一緒に来ますか?」
「……罠かもしれない」
「どうでしょうね ですが私の勝手な憶測ですと 貴女は留置所に行く予定だったと思います」
「犯人に仕立て上げられる手筈だったと?」
「えぇ私達が介入しなければですが…… 閉鎖的な空間でなら殺しても表沙汰にならない」
「しかもバランタインに留置所はありましたっけデュールさん?」
「拘束する場所はまぁ無くも無い やろうと思えば何処でも出来るからな
ついでに刑務所もこの国には存在しない オーストリアの方に任せてあるのでそっちに移送だな」




