第113話 会合
8月24日 ライヒ教会
書斎で頭を抱える妻良に更木が入室する
「二人との連絡は……?」
「以前音沙汰無しです 一体何があったんでしょう?」
「まさかこんなにも早く不吉に見舞われるとは……」
「あの…… やはりボニファティウス家の噂は本当なんでしょうか?」
「いやまさか! 人間を食べる人間なんかこの国だろうと黙っていない
都市伝説か何かに踊らされるな……!! とも言い切れない不可解さだ」
「一応依頼者と探偵の関係なんですから定期連絡があっても不思議じゃないですよね?」
「……私が嫌われているからなぁ」
苦笑する妻良の下にもう一人の部下が入って来る
「妻良猊下…… お時間です」
「猊下は止してくれ伊緒さん」
「迎えの車が待っていますよ?」
教会の留守を二人に任せ
支度を済ませた妻良は 黒のワゴン車の前に立つ黒服の男性に会釈する
「お待たせしました……」
「白樺先生は既にラウンジムタワーに向かわれている」
「事前に聞かされてましたが…… 本当に〝お忍び外交〟とは……」
道に揺らされながら車は発進
車内では妻良がハンカチで汗を拭きながら 運転する黒服と会話を強要される
「白樺先生は総理を辞職してからは実質政界から退陣されているが
革友党の後陣には未だに支持する声が上がっていてな 悠々自適な隠居生活も忖度しつつ
〝日侯懇親連盟〟を密かに創設して会長職を務め 表面上は腰軽の立場を維持して貰いたいとの事だが
裏を返せば 今は老いボケして貰っては困るらしい」
「はぁ……」
「その理由は言わずもがな…… うちの国の金持ち連中二組がこの国で何かやろうとしてるからだ
先生は今日 バランタインの元首イヴール公とその話もされる」
「……疑いはどれくらいなんででしょうか?」
「旧財団関係者がこぞって渡航しやがったもんで日本国内は一時的に大ニュースになってる
実態は掴めねぇが それなりに暴走してるんだ
アメリカの一部の人間と何か画策してるんじゃねぇかってとこまで話は進んでる」
俯く妻良はとある人物から聞かされた話を持ち出した
「実は三日前にある日本の探偵と接触がありました
目的は貴方方からの指示通りの依頼を受けて貰いまして……」
「おぅ」
「うちに泊まって貰った夜 にわかに信じ難いんですが……
四季園一派と四ノ海グループはバランタインで戦争を起こすらしいと……」
「……随分と口の軽い探偵さんだな」
「彼曰く 何か依頼された訳でもないので〝守秘義務は発生しない〟だそうです」
「……前提として妙だな そんな戦争犯罪の謀略を発生させる前から一般人に話すとは
情報が他に漏れても構わない計画か もしくは既に腹が据わって何物にも動じない覚悟があるのか」
「えぇ下手したら日本を始めとして居場所を失いますよね?」
「玉砕覚悟…… この事は俺から先生に話す」
ラウンジムタワーがある首都【レディーファドゥコン】
おとぎ話から飛び出した様に自然が美しいバランタイン公国の中心地
美術館に国営カジノ 古城や宮殿など観光資源で栄える街だ
「富山県のクロスランドタワーを太らせた造りですね」
「あぁ俺も思った 一階はコンクリなのも防衛の用途もあるんだろうな」
ワゴンを降りると妻良は周囲を一望する
「結構人がいるんですね?」
「人口は少ないが外国からの観光客・ビジネス客は後を絶たねぇよ
最近はデジタルノマドってのがいるんだっけ? まぁ金の成る木に人は集まるんだよなぁ……」
タワーの中に入ると別の黒服の女性が待機していた
「妻良様ですね? 成果は未だ耳に届きませんが
白樺先生が今回のバランタイン元首との対談に是非ご出席して欲しいと」
「……随分正直に言うんですね?」
黒服の男性の方が女性の頭を叩いた
「これでもそこそこの役職を持っている人だ 口には気を付けろ甘城」
「失礼しました あと下っ端が私を殴るんじゃないクソ来迎」
じゃれ合う二人に置いてけぼりの妻良はタワーの館内を身勝手に見学
「ゴホン…… それでは妻良様 ご案内します」
エレベーターで最上階の展望台がある二つ下のフロア
一般人お断りのオフィスを通り抜けて 一際空気の重い一室へ招かれた
そこには既に白樺法人とイヴールが対に座って談笑している
「いやぁご苦労だねぇ妻良君 さぁこっちに来て一緒に飲みなさい」
「ハァハァ…… とんでもございません」
心構えはしていたが今更とんでもない疑念が生じる
自分如きの人間が何故こんな場違いな空間に座っているのか
「先程話題に挙がっていた妻良だね?」
「初めましてイヴールさん…… いやイヴール様
まずは遅れて馳せ参じました事について謝罪させて貰いたいです!!
私…… この国で革友会の支部の総責任者をさせて貰ってます妻良希有です!!」
「馴れてないが〝さん付け〟でいい
ここまでは白樺と現代文化の情報交換をして楽しませて貰っていた
いやぁとても有意義でしたよ白樺」
「それは何よりです では人も揃ったことですし 本題に行きましょう」
すると白樺は前屈みになり 両手を机の縁の高さで握り始める
空気は一変 重苦しい彼の表情は 事前に黒服に聞いていた財団の不可解な行いについてだろう
「ここでは国をレンタル出来る観光事業があると把握してますが
……この度は日本の財団に大金を積まれてお貸しなさったそうですね?」
「えぇ期限は数ヶ月…… 曖昧なのはそれくらいのお金を戴いたからですよ?」
「日本国内で公にはなっていませんが…… 実は四ノ海グループには人身売買の疑いがありましてね
海外逃亡なんて形になってしまっている中で
国際問題に発展しかねない状況に陥り 正直困ってるんです
聞きましたところ こちらの国でその不特定多数の関係者が好き勝手やってるそうで?」




