第105話 妻良希有
8月21日 バランタイン南部基礎自治体【バルゼウス】
総人口5000人の田舎町
一際目立つ丘の上に大きな建物があるのだが
そこが依頼先である【革友会バランタイン支部】だ
「国土が狭いと移動が楽で良いなぁ安斎」
「……ハァ」
「どうした?」
「来訪時間が三時間も遅れてんだぞフレバー?」
「……普通だろ?」
「国民性のギャップかぁ……」
「起きてから身体のケアに時間を費やすのは俺の日課なんだ 今日も俺は美しいだろ安斎?」
バルゼウスにやって来たのは安斎とフレバーの二人
柴塚は他の依頼も後回しに出来ないと二手に分れたのだ
彼女自身にとって革友会は親の仇でもあるのでそこの所も配慮されている
「久留美の両親を殺した日本の宗教団だろ? 暴れる前提で良いんだよな安斎?」
「現段階では大切なお客様だ 新入社員はあまり出しゃばるな」
森に囲まれる施設 間近で見上げれば教会寄りの 何とも国の景観に染まっている建物だった
玄関横のベルを鳴らせば 安斎にとっては思いも寄らぬ人物に直面する
「えっ……?」
「……お久し振りですね安斎君」
「妻良…… さん……」
四十代くらいの中年は安斎の知り合いだった
名は妻良希有 安斎が高校に行かなかった時代に出逢った男である
当時彼の地元に存在した革友会の 各県の地方支部の一つとして在った宗教施設
妻良はそこの信者の一人だったのだ
結果は柴塚の父親と安斎と その彼の面倒を見てくれてた大家達の活躍によって壊滅
人殺しを請け負っていた革友会支部は事実上解散となった
「まさか君がこの国にいるとはねぇ…… どうやら私の罪はまだまだ深いようだ……」
「崩さないスマイルが跡形も無く消えてますね お疲れですか?」
「えぇまぁ…… どうぞ…… 安心して中へ」
中へ入れば嘗ての宗教施設とは少しばかり変わっている
自分達の宗教の色を出す為に建築したのではなく
おそらく元々使われていない教会を買い取ったのだろう
「妻良さんはその…… 出所したんですか?」
「談話室で全て話しますよ」
周りに居る信者らしき人は僅か数人
どちらかと言えば教会に祈りに来ている私服姿の参拝者の方が多い
「ここは例えで言うなら田舎の山奥にひっそり残る神社の様な物ですね
神父はいませんが 誰かが好きに掃除しに来たり 祈りに来るフリーダムな場です
私達が買い取ってもそのスタイルは変えずに解放しています ……どうぞお席に着いて下さい」
出されるハーブティーにすぐには手を付けられない安斎
その様子を妻良は当然だと思いながら 自分はハーブティーを啜っていた
「さっきの質問の続き良いか?」
「えぇ…… 改めまして革友会バランタイン支部を任されている総責任者の妻良です」
「……出世したんですね だが腑に落ちない」
「えぇ勿論判決を受けて刑務所に服していました
しかしそれから僅か数年で〝ある使者〟が現れたんです」
「革友会関係の人間か?」
「正確には〝革正益友党〟ですね
とある小国に施設を設けるからそこの管理者になれと言われました」
「随分と直球ですね」
「……私は 昔から自分が可愛い人間ですからね
他人に振り回されるのは得意と言いますか 刑務所から出られるのであればと二つ返事でした
罪人は出所しても肩身が狭いので 見知らぬ海外の土地は願ったり叶ったり
そんな私がここでやる事は来たるべきに備える拠点の守備といったとこです」
「来たるべきだと?」
妻良は足元からアタッシュケースを取り出してテーブルの上で開示する
中身は今までの依頼とは遙かに桁を凌ぐ大量の札束が
「トアル探偵事務所を宣伝して回っている人間が 日本人という事で日本札を用意していました
全部で二億 これが今回の依頼料となります」
「…………」
「おいおい安斎…… 考えた方がいいんじゃ……?」
フレバーが心配する理由は言うまでもない 額の大きさはリスクと比例する
「……アンタの所持金じゃないよな?」
「ご明察です これは私共の言わば〝上の人間〟から送られた軍資金ですから」
「つまり政界にも通ずる人間…… 白樺法人辺りか?」
「やはり…… 貴方達もそれ相応の理由でこの地にいるんですね?」
「……受ける 依頼内容は人捜しだったよな?」
「そうです 名前は〝麗水海斗〟
日本人で嘗てこの地に住んでいた旧日本軍の密偵です」
「……っていうと少なくとも100歳以上か?」
「いいえ 彼は既にこの世にいないとの報告です」
「はぁ?」
「それでも見つけて欲しいというのが上からの指令です
ですから形式は…… 彼にまつわる物 遺留品とかですかね
一番好ましいのは彼を知る人間 身寄りとかが見つかれば最適ですが……」
「対象者は残留思念か…… 想念捜索が鍵になるかな……」
依頼交渉が成立したことで食事をもてなされる二人
不思議と出される料理に不信を覚えない安斎がバクバク食べ進める中
それを見てフレバーも安心したのかフォークに手を付けた
「しかし二億かぁ…… またアイツの気に障っちまうな……」
「久留美かぁ? 何処までも張り合うんだなお前ら…… 似た者同士って奴か?」
「あの人の娘だからな 俺が寄せてんのかもなぁ
同じ探偵をやる者同士故の同族嫌悪かねぇ」
「……お前らの距離感がイマイチ分かんねぇぜ」
「俺もそう思うよ」
「何で二人で探偵やってんだ?」
「アイツが俺んとこに急に来たんだよ 働きたいってよぉ……」
「突き返さなかったのか?」
「……憧れた人の娘だからな 事務所に居たいなら引き離す理由は無い」




