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ミスタートイトロッコ  作者: 滝翔
チャプター8 ストレンジャーズ
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第94話 ワインの香りに女の香り


春義が手を叩けば 宴会場の側面に仲居達が立ち並ぶ

持ってる物は皆 同じ銘柄のボトルだった

本家の人間 分家の人間 部外者の安斎達のグラスにすら平等に注がれるそれは赤ワイン


「俺からの労いの品 お前らよく頑張ったな……」


春義がグラスを掲げて二度目となる乾杯の音頭を取っている中

安斎はグラスから芳醇に漂うフルーティーな香りを嗅いでいると

突如として眉間に皺を寄せ始める


ーー何だこの違和感…… こんな如何にも高いワイン飲んだことあるか……?


普通の高級ワインに潜む何かが分からない

別として考えれば ここ最近で出逢った〝何か〟の匂い


ーー芳香剤…… 地元に咲く花の香り…… 何処となく懐かしい匂い…… 物では無く人?


そして春義の話が終わると共に グラスの縁は各々の唇に当たる寸前


「飲むな!!!!」


安斎の大声は会場一帯に響き渡った

驚く顔をする者 余所者がしゃしゃり出て不快を感じる物

何より当の手配主の春義の顔を窺う者がほとんどの中

それでも安斎は動じなかった


「ど…… どうしたんです所長?」


「このワイン…… 毒が入ってるぞ?」


周囲は響めき始めた 代表して立ち上がったのは三男の春三だ


「取り寄せ担当は僕だが…… 何か文句でも? 岳斗の知人さん?」


「ノーウェルカムなのは重々承知だが…… 一族が滅ぶよりマシだろう?」


「…………」


春三は辺りを見回す


「ほら見てみろよ…… 周りは皆…… 僕を犯人扱いし始めた……

君は確か探偵だったね? 推理ショーでも始まるのかな?」


「俺はそこまで言ってませんよ? ただグラスに毒が入っていると言っただけだ」


「楽しい飲みの席をぶち壊しておいて…… 間違いでしたじゃすまされないぞ?」


「…………」



「春三兄さんはソムリエの資格もあるんやろ? 嗅いで証明したらどないなんや?」



岳斗のフォローに舌打ちで返す春三は微量の汗を垂れ流す

そこへ畳み掛けたのは伽子だった


「ペトリュスは熟成によりトリュフや湿った土の香りを増し

ダークチェリーやブラックチェリー スグリなど果実の他

花の香りやチョコレートの甘さなど様々なアロマを楽しめるんですよね?

しかも2005年の当たり年…… さぞお高かったでしょう」


「えぇ…… さすが伽子義姉さんです」


「しかし…… 微かですが…… この鉄臭い香りは何でしょう? これが正体ですか安斎さん?」



「えぇ…… まさに巷で少しくらいはニュースになっているでしょう 死穢の妖精デッドスプライトです」



そのワードが聞こえた者からグラスを手放す

しかし伽子は鋭い目付きで安斎を見やって


「何故に安斎さんは気付けたのですか?」


「その毒を排出しているそのものに会ったことがあるので…… 直に匂いを覚えていたんです」


「なるほど…… 春三さん?」



「っ……!!」



鋭い目付きは睨みに変わり 春三に蛇の如く視線を突き付ける彼女は


「貴方ほどの資格持ちの人がこれを見抜けなかったんですか?」


「っ…… それはその……」



「恐らくですが 春三さんは引くに引けなかったんでしょう

本人も言っていた通り 大事な席に水を差したくないと言ったところでしょうか?

お父さんの威厳と立場を崩したくなかったのでしょうねぇ~~」



それを隣で聞いていた柴塚はほとほと呆れていた


「人名よりも見栄ですか?」


「違う……!! お父さん……!! 僕は言うつもりでした…… ここにいる皆を殺すなど……」


春義は姿勢を崩さず 春三の目を真っ向から見つめて言い訳を聞いて上げているが


「だが実際 死ぬ一線まで事が進んでいたんだが?」


「いやそれは……」


「お前が俺をどう見てるかなんて そりゃお前の勝手気ままな憶測だよなぁ春三?

そこの安斎さんは優しいなぁ~~…… んで? 実のところはどうなのよ?」


「……お父さんの尊厳を害することなく 本日の催しが終われば良いとそれだけです」


「まるで言葉の着服だなぁ ……どうなんだ春三?!!!」


「うっ……!!!? 春一兄さん…… 春一が四季園の当主など間違っている!!!!」


春三は目の前の膳を倒して春次の前へ正座した


「四季園の後継者は春次兄さんだけでしょう? ……みっっんな思ってます!!!!

俺は…… 俺は兄さんの為に……」


「春三…… 言ってることがもう支離滅裂だ お前は私も殺そうとしただろう?」


「っ……」


「春三は俺を慕ってくれているな?」


「勿論です!!」


「……本当は何があった?」


「…………」


涙と鼻水と唾液を垂れ流しながら 虚ろな目をした春三はパクパクと口を動かす


「自分が当主になりたくて…… そう思っていた矢先 匿名でワインが全員分届いたんです

僕だけ普通の飲み物にして皆を殺し そして 財産を独り占めする算段でした……」


「そうか……」


春次は自分の執事を呼び 春三を退出させた

春義は深い溜息と共に日本酒を開け 周囲は時計の針を戻したかのように食事を再開する


「何で分かったんや安斎ちゃん?」


「キモいかもしれねぇが…… このワインから懐かしい匂いがしたんだ 芽神だった」


「ほぉ…… そらキモいのぉ…… まぁお陰でワシらは救われたっちゅう訳やな?」


「お前も俺と同じ本能タイプなんだから理解してくれ」


沈黙の宴会は誰かが口を開く度 周りに聞こえてしまうのだから音を発しにくい空気に

しかしそんなことお構いなしの柴塚とフレバーは平気で談笑していた


「安斎は何だ? 人と挨拶する時に相手の尻の匂いを嗅ぐタイプか?」


「おそらくそうなんでしょうね~~…… ワイン嗅いで女を思い出すとか…… あぁいやらしい」



「俺は犬か?!」



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