第93話 四季園一派の皆々
仲居さん達がだだっ広い館内を 血流の如く走り回っていた
心臓部と言いたげな感じに急いており その中心となる一室には
雁首揃えて老若貧富の とある一族が一同に介している
「「 ………… 」」
安斎達も遅れて座布団の上に腰を下ろす
期待したくなかった結果 目の前に用意されているのは紛うこと無き和食
しかしさすが本家の末っ子である岳斗
上座からそう遠くない席に座れたことにより ようやく彼が四季園家の人間という確証を持てた
「あら…… 柴塚さんじゃないですか? 随分ご無沙汰ですね」
「お久し振りです…… 奈美恵さん……」
手前から三番目の席に座っている四季園奈美恵
誘拐された四季園蕾の母親で 捜索依頼をトアル探偵事務所に発注した本人
相も変わらず近寄り難い人物である
「出来損ないの人間が連れてくる者は…… 当たり前だけど獣臭がしますわ」
「よさないか奈美恵…… 今日は大事な日なんだ」
「っ…… ごめんなさい春次さん……!!」
その隣に座っているのが本家次男 岳斗の実兄に当たる四季園春次
オールバックの髪型に眼鏡という如何にも何かしら敏腕であるという雰囲気を醸し出す
一方で安斎は周囲を見回していた
上座に近いほど本家の人間 主に兄弟とその家族で固まっており
自分達が座る席より後方は分家の人間だ
「……やっぱりいるな」
「えっ? 誰がですか所長?」
「赤坂沙希…… さっき俺から視線を外したよ」
「赤坂舞香のお母さんですね…… 場所も場所なんで今は話し掛けられたくないんでしょう」
柴塚とその隣にいるフレバーは 見たことのない高級料理を前に涎が止まらないでいた
しかし当の主役であろう 四季園春義は姿を現さない
それどころか長男の席も空白で 春次は向かいに座る長男の奥さんに尋ねる
「春一兄さんはまだ来ないのか?」
「……マイペースなのは周知の事実 もう少し気長に待って下さいな」
すると大きな音と共に襖は開け放たれ マッシュルームカットの男が屈託の無い笑みで入室して来た
「よぉ皆々の衆!! ご機嫌如何かなぁ?!!! 春一お兄ちゃんは元気だぁよぉ~~!!」
「春一さんで全員ですよ お座り下さい」
「神嫁!!!! 今日も寝させないぜぇ!!!! ウィィィィ!!!!」
熱燗片手に春次の隣に座る長兄の四季園春一 跡継ぎの筆頭候補だが
彼の振る舞いを見ていたその場の全員が 同じ事を心の隅で呟く
〝 次の当主は四季園春次で決まりだな 〟
春一の妻 四季園伽子はお酒のコップを持って立ち上がる
「お義父様はまだまだ準備が掛かるということですので……
せっかくのご馳走も冷めてしまってはいけません ここで一度乾杯しておきましょう
皆さん色々腹に抱えて此度バランタインに渡航されたとお思いですが
私としてはまた 一族全員が元気に招集されたこと感慨深い面持ちでイッパイです
では皆さん コップを片手に」
淡々と進行し始める長兄夫人に 唇を噛み締めて悔しがっているのは奈美恵だけだろうか
しかし不満なんぞ誰も吐かず ましてや分家の人間達は言われるがまま互いに酒を注ぎ合って
「それでは…… 一族の繁栄を願って乾杯……」
「「「「「 乾杯…… 」」」」」
ようやく食事に有りつける柴塚とフレバーは黙々と頬張り始めた
周りも周りで好き勝手話し始め お家事情の深掘りやバランタインでのこれからなどの話声が聞こえる
「じゃぁさっそく全員の紹介やで安斎ちゃん 実際にメンツが揃ってる時の方が覚え易いやろ?」
「あぁ頼むわ」
「まず奥から四季園本家の兄弟姉妹から
まずは長男の春一に そして奥さんの伽子さん
次男の春次兄さんにその奥さんの奈美恵のバ…… 奈美恵さんや
長女の妃梳姉さん その旦那さんの霙さん
三男の春三兄さん そして末っ子のワシや」
「意外に少ないんだな……」
「うんにゃ…… 女の殆どは余所に嫁いで分家の人間扱いや
ワシより上の姉もまだ数人おるんやけど 新規の加盟国は今回ハブられとんなぁ……」
「……お前を基準にしてると なんか格を下げられたって考えさせられるな」
「実際に政略結婚の犠牲者やもん…… 心中お察しするわぁ……
今日来とるんは青沼家・緑地家・赤坂家・紫々廻家・桃坂家・橙家
白百合家・京極生壁家・淡藤家・鶸茶家・刈安家・憲房家
集まっとるんは親族の中でも古参連中やなぁ……
それこそワシの爺さん以上の系譜で 遠い場所から繋がっとる」
「何とか覚えた…… いや嘘だすまん……」
「それぞれ子沢山やから子供やら孫も紹介するとキリ無いでぇ? デュヒヒヒヒ!!」
談笑も束の間 春一とは打って変わって静かに引かれた襖の音に周囲は過敏に反応する
空気は重く創られ そのシワシワな額が周囲に威圧を与えながらも 人物は上座に腰を下ろした
「全員集まったなぁ…… 結構だ 続けてくれて構わない」
彼こそが四季園家現当主 四季園春義
安斎達から見てまだ各々の腹の内も分からない集団を束ねる長であった
「そりゃぁねぇだろ親父…… 大事な話あるんだろぉ??」
「慌てんな春一 本題はいつでも話せる ……まぁ時は待ってちゃくれねぇがな
ハッハッハッハァ!!!! ……じゃぁ話せって感じだよなぁ皆もよぉ」
春義と春一の会話に安斎は妙に納得していた
ーー養子って線は無さそうだな 血の繋がりを感じる
高い吟醸を浴びるほど飲んでいる春義に老いを感じさせない
彼が口を開かないところを見るに 今はフリータイムなのかと思わせれば
唐突に口は開き 周囲に再び緊張が走った
「跡継ぎの話だが 約束通り多くの金を集めてくれた…… 春一に継がせる
皆も文句はねぇな? タイムイズマネーが結局の所 家族を潤わせる」
「「「「「 ………… 」」」」」
額に汗を流す者もいれば しれっと視線を逸らす者もいた
だが誰一人として反対の声など上げはしない
つまる話 春義が何を言おうと反論意見を述べられる同格者はこの場に存在しないのだ
それだけ四季園春義という男の権力は 身内で絶対的な物と安斎達は思い知る
「なぁ岳斗…… 春一って男はどれくらい集めたんだ?」
「500億や 想像以上やで…… 伽子さん……」
「あぁやっぱそっちが稼いで来たんだな」




