表示調整
閉じる
挿絵表示切替ボタン
▼配色
▼行間
▼文字サイズ
▼メニューバー
×閉じる

ブックマークに追加しました

設定
0/400
設定を保存しました
エラーが発生しました
※文字以内
ブックマークを解除しました。

エラーが発生しました。

エラーの原因がわからない場合はヘルプセンターをご確認ください。

ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
今、すごく叫びたい  作者: 島波春樹
8/9

--8 今、すごく叫びたい

僕らの学校生活はあまり変わりがなかった。友達は別のクラスに行ってしまったけれど廊下で会えば話をするしゴールデンウィーク初日に遊びに行ったりもした。今後も友達でいれるそう僕は思った。

ゴールデンウィークの2日目僕はせんと共にゲームの大会観戦に来ていた。僕らがしているゲームとは違うけれど「君たちの進級祝いという事で」とオーナーがチケットを二つくれたので僕は喜んで行く事にした。

それに僕はせんにこのゴールデンウィークで伝えなければならない事が二つある、ちょうどいい理由ができてチケットを握りしめ僕は早めに家を出ていた。ただ試合観戦が楽しみだっただけかもしれないが。

「おはよー」

待ち合わせ時間より20分ほど早めに到着した僕がスマホを触りながら暇をしていると時間ぴったりに彼女が到着した。

キャラメル色のカーディガンに下は白のTシャツにダボっとしたジーンズ、ポニーテールと何気に学校の無い休日を使ってどこかへ遊びに出かけるのはいつぶりだっただろうか。戸惑う僕を置いて彼女はさっさと目的地に向かい出したので慌てて後を追う。

春の陽気が残る柔らかな日差しの中を僕らは歩いて行く。やはりゴールデンウィークというだけあって人通りがいつもより多い気がする。半袖の人がチラホラいたりコートをまだ着ている人もいたりと混沌を極める街中を僕らは颯爽と歩いて行く。僕は長袖のシャツに黒のズボンだったけれど人混みのせいか天気のせいか少し暑くなっていた。目的地の入り口に着いた彼女は澄ました顔でいたけれど多分暑いのだろう。ファッションは我慢だなんて事を聞いたけれどまさにこの事だと思いながら僕らは黒い大きなビルの扉をくぐった。

地下一階の会場には明るく照らされた試合会場と観客席があり僕らはそこから映し出される試合画面と試合をする選手の様子を生で見ながら楽しんだ。

目の前で選手たちが喜び合う姿を見て心の奥底から熱くなるものを感じた。感動していた。

オフライン特有の問題も起きていたけれど試合自体は順調に進み会場の一体感に飲まれた僕は試合の結果に一喜一憂してとても楽しめたイベントだった。

試合が終わりグッズなどは買わず上の階にあるカフェで僕らは休憩していた。

周りには先ほどの試合会場で見た観客が何人か同じ目的でいてそれなりに賑わったカフェで僕らは話していた。

「久々に君の私服を見た気がするよ」

「んー?…そっか確かに何気に遊びに出かけてたの学校帰りだけか」

意外だったと彼女も思ったらしい。眉を上げて分かりやすく顔に出る彼女を見ながら珈琲を一口飲む。今回は頼むものを間違えていないので確かに優しい香りと程よい苦味の珈琲が楽しめた。

「君にさ報告が二つある。どっちも同じ事なんだけど一つは僕の事二つ目は君に関係する事だと思う」

事前に何度も考えていた言葉を紡ぐ。せんからのお願いに対する僕の答え。僕の覚悟、決断。

僕なりの一つの終着点だった。

せんはいつものふにゃふにゃな笑顔からちょっと真面目な顔になり薄い桃色の唇をストローから外し横一文字に口を閉じた。

「一つ目は新しくできたプロチームに所属する事が決まりました」

眉が少し上がり驚きと喜びの感情が読み取れる。声を出さずとも彼女はとても分かりやすかった。

「二つ目はその試験で最高成績をもらってチームメイトを選べるようになりました。3人は試験合格で決まっててあと1人誰か居るならと言われてます」

彼女の目を見る。真っ直ぐと見つめる。彼女は視線を外さない。大きな目が、少し安心を含んだその表情が次の言葉を待っていた。僕は息を吸い決まっているはずの覚悟を確かめてから言葉を出した。

「その最後の1人に僕はせんを推薦したい」

彼女はすぐに応えなかった。

なんならちょっと困ったような顔をしていた。その表情の中には確かに嬉しいという感情が読み取れるけれど何処か詰まっているような顔だった。

「私のお父さんの会社が倒産してさ。家が本格的にやばいんだよね。高校卒業後は働かなくちゃいけないから今のうちしか遊べないんだ」

せんは包み隠さず事実だけを述べた。驚くより先に声が出た。

「プロゲーマーだって立派な職業だ。そりゃ新しい職業で根付いてはいないかもしれない理解されないかもしれないけれど。僕らなら絶対一位になれるよ」

せんの表情に不安の色が強まる。いつもキラキラした目が少し曇っているように見える。視線も少し下を向いていた。

「失敗したら?お父さんも絶対日本で1番の会社になるって言ってた。俺が日本で一番の会社にするから時期社長のお前が世界一位の会社にするんだぞって言われた。でも今は…こうなった」

どうしてか逃げ場のない場所に追い込まれたような気持ちになった。右も左もいけず上手い選択肢などなく、ただ目の前にぶつかるしかない。愚直で馬鹿な道しか残っていない気がした。背水の陣とでもいうのか僕は力の限り今思いつく事に縋るしかなかった。

「失敗したら…失敗したら、僕もプロを辞めるよ。それで働いて君がまだゲームをやれる日まで一緒に稼ぐよ」

正直、僕の頭にはせんのこと以外なかった。せんとなら勝てる。絶対に。それ以外の事が出てこなかった。言葉を出し切り目を見つめる。

「…それって…うわー…えー」

突然、手で顔を覆って下を向いた。悩んでいるのだろう。勝てるビジョンを探しているのかもしれない。僕は次の言葉を待った。

「その言葉信じるからね」

そう言って上を向いた。前髪が束になって揺れる。その目は怖い印象を持った強く鋭い未来へ研ぎ澄まされた剣先のような視線が僕を貫いた。

「プロはそう簡単に勝てるものじゃ無いよ」

ドクンと心臓が動き出した。不思議と口角が上がった。

「簡単に勝てるものに「興味は無い」」

「ね、全く。馬鹿野郎だなゲーマーってのは」

ため息をついたら鋭い目つきがふにゃっとした笑顔に変わった。そして小悪魔のような笑顔が浮かんだ。

「いやーにしても君ーもうほぼ結婚の告白だよーこんな所で、恥ずかしって熱烈すぎるでしょ」

僕の口は重力に抗えなくなったのか筋肉が思考を停止したのか顎が外れたようにあんぐりと開ける。

顔を赤くしてほっぺたを手で抑えて体をくねらす彼女に「え?」とだけ言葉が漏れた。

「だって君、またゲームをやれる日まで一緒に稼ぐよなんて…ねぇ?中々言える言葉じゃ無いよ。ポエムでもそんな熱烈な言葉ないでしょ」

あー恥ずい恥ずいと冷房の効いているはずの店内で顔を手で扇ぎ始める。

あれ、心臓が顔が体が熱暴走を起こしている。ニンマリとしたえらくいい笑顔の彼女が最後に見えた。ムズムズするけれどここはお店だ。絶対にダメだけれど。

今、すごく叫びたい。


チームに入った僕は順調に練習をこなしていた。まだ別のプロチームに所属している判定の彼女はまだ試合などは出れない。

数ヶ月の間、僕たちは戦意に満ちた状態でお預けを食らっていた。

「私のコンディションはバッチグーだから一発目の試合はもう優勝間違いなしだよ」

最近は偉く機嫌がいいせんといつも通りの僕は久々に遠出をしていた。向かうは河川敷で毎年行われる花火大会だった。紺を主軸に赤と白の朝顔柄をつけた浴衣を着たせんといつも通り半袖に七部丈のズボンの僕を乗せ乗客を入れ替えながら都心を超えて埼玉方面へ流れていく。徐々に浴衣姿の人が増え始めた。

「いやー新しくできたチームが優勝なんて一夜城みたいでロマンがありますな」

うんうんと勝手に頷くせんに「プロが勝つのは難しいって言ってたのは誰だよ」と言いたかったけれどどうせあのことを揶揄われるだけなので黙っておく。ここ数ヶ月ずっとあの事を擦られているから。思い出しただけで恥ずかしい。

電車を降りるとコンクリートを無機質な白色タイルで塗り固め、自動改札に自動化された切符売り場、電車の到着を知らせる電光掲示板の中に古めかしい浴衣姿の人たちが歩くチグハグな景色がそこにはあった。僕達に続いて浴衣を着た人達が降り河川に向かって人の流れができていた。さすが花火大会一番の最寄駅というだけはある。このまま進めば確かに河川敷へは着くだろうけれど待ち合わせをしている友達たちと合流できるかが分からない。

あたりを見渡し人並みの中を探り向かうべき出口を探していると

「はい」

せんが手を差し出した。握れというのか。これから友達との待ち合わせ場所まで移動するというのに。

躊躇いながらも手を握ろうとした僕の手をせんは掴んだ。「いくよ、こっちね」と言って人並みを分けて早足で進み出した。僕はたまにぶつかりながら散歩を嫌がる犬のように半分引き摺られるように進んだ。

先着いていたであろう僕の友達とせんの友達が待っていた。2人はだいぶ暗くなり点灯で照らされた木陰のベンチで話している所だった。手を握りながら勢いよく階段を駆け上がって来た僕たちを笑顔で迎えてくれた。いい加減、名のつかない僕らの関係にも慣れたのか2人は何も言わず会場へ向かって歩き出す。2人も浴衣姿で流石に僕も浴衣にするべきだったかと少し後悔した。来年があるならその時にちょっと考えてみよう。

4人で会場へ向かう中僕の耳に手を当て小声で「あの2人良い感じじゃない」と笑っていた。顔は見れないけれど悪戯好きらしい顔つきになっているだろう。僕の友達に幸あらん事を祈りながら友達として静かに見守ることとする。

河川敷にはたくさんの出店があった。小学生からお爺さんまでたくさんの人が思い思いに店を周り楽しでいた。簡易な作りの屋台に無骨な鉄製の機械と溌剌に笑う店員と明るく照らされた出店が楽しそうな喧騒を作っていた。今は電球ジュースなんかも出店として出されており小学生以来の景色はより映えに進化を遂げていた。どれもこれもに興味を示しては飛びつく彼女に連れられて一通りの店を回ることとなった僕はほとんど何も買わず唯一目を惹かれた電球ジュースを買った。物珍しいだけのただのジュースだったけれど僕が口をつけるたびに彼女がなぜか笑うので買ってよしとした。きっと思い出とはこういうものでこの場の空気感なんかがこの空っぽの電球型カップに染み付いて残るのだろう。

良い感じのお二人さんは勝手にほっつき歩く僕たちを初めは笑っていたけれど途中で有料指定の席で先に待っている言って去っていった。きっと彼のことだ上手く空気を読んでいる事だろう。全くもって心配ない。

それから一通り巡り終えた頃にはせんが自分では持ちきれないほど手一杯に色々な物を買い込んでおり、荷物を半分持つ事となった僕は駄賃としてたこ焼きをもらい席へついた。こう買った物を統計的に見ていくと偉く茶色のものが多いのだなと思う。焼き鳥、唐揚げ、たこ焼き、お好み焼き、べったら焼き、牛串なんかもあってどれも500円と単価も高めでこれが思い出料金なのかと僕は思った。何も考えずにポンポンよく買える物だと思ったけれど高校生の時は海外でいることが多かったと言っていた彼女はもしかしたら初めての花火大会なのかもしれない。友達と話すせんを見るといつも通り楽しそうにしているけれど今日はいつも以上に楽しそうに見えるのは気のせいではないのかもしれない。

それから僕は打ち上がる花火を楽しんだ。彼女は花火と仲良く話す友達を交互にチラチラ見ていたので本当に花火大会を楽しめているのかは分からない。

久々に見た花火はこんなにも体の芯に響いてくる物だったかと驚いた。夜空に弾ける光の花はずしんと腹に響いてくる。色鮮やかに暗闇を彩りその度に誰かが「たまやー」と声を上げどこかで歓声が上がっていた。僕はしみじみと夏の風物詩をこの時間を噛み締めていた。

花火が終わりすぐさま立ち上がり電車に向かうものや余韻に浸るものがいる中僕らは公園で彼女が食べきれなかった食べ物を片付けつつ駄弁っていた。

「花火大会の日に告白するなんてべたなやつがあるよな」

「花火の最中に言って聞こえなかったみたいなやつもあるよね」

「今更そんな人いるのかな」

「いるでしょそりゃ私普通に憧れるもん、されたーい!」

「だって」

「…」

「よし、帰るか。人も結構減ったし残りはせんが自己処理という事で」

「おっけー、結構減ったし残りは明日の朝ごはんだ」

「朝から牛串は重くない?」

「いけるいける!」

僕らはゴミをまとめ公園を後にする。夏休みももう終わりの方が近づいて来ている。まだ暑いけれど風が吹く外はだいぶ快適だった。

少し行った駅で僕たちは二つに分かれた。向かう方向は同じだけれど乗る電車が違う。

「今日すごく楽しかった」

人が疎となった電車に揺られながら彼女は笑っていた。片手分となった荷物には思い出がたくさん詰まっているのだろう。僕も頷いた。

「さて、明日からまた練習の日々ですよ」

それぞれ別の場所で練習しているけれど僕らはよく2人でしている。流石にチーム練習の時はそうもいかないけれどそれ以外の時によく一緒にやるようになっていた。

「実際勝てるのかな」

僕の中で勝てる自信と手応えは確かにあって、でもそれは僕の妄想なのではないかという恐怖もあった。この質問に意味があるのかわからないけれど不安が口からこぼれ落ちていた。

「勝てないとやばいでしょ、私ゲームできなくなっちゃう」

どこか余裕そうな彼女に僕は驚くけれどそう言えもう彼女はもっとでかい大会で何戦もこなしているから当たり前なのだろう。へらっと笑いながら僕の顔を少し見る。

「まぁ私が途中で別の分野で一位になりたいとか言い出すかもしれないけど」

「それは困るな」

きっと彼女は別の一位になりたい物を見つけた時僕の抑止を聞かず突っ走っていくのだろう。そしたらもう終わりだ。僕は正直に言った。疲れているから変な返しができなかっただけかもしれない。

「私あんまりちっちゃな大会で心動かないんだよね。後、人のやつ見ても」

横を見るとどこか遠くを見ていた。見えるのは過ぎゆく無機質な地下鉄の壁だけだろうけれどその先が見えるようにただどこかを見ている。

「私が叫んだ時はアメリカの3億の試合の時」

へへっと笑い自慢げに僕を見た。目を細めて笑う彼女はどこかせんらしくなかったけれど僕は素直にそこまで行こうねと答えた。

「行けるよ」

遠くを見つめる彼女の目は本当にアメリカを見ているようだった。

僕らはそれから喋らず電車に揺られ駅に着いて解散した。

部屋に戻り風呂に入りベットに倒れ込んでメッセージが来ていないか確認した。

友達から無事帰宅した事と今日撮った写真が何枚か送られてきていた。僕は少し考えてから返事をして眠りについた。

薄いタオルケット一枚で十分に寝れるほどに今日も今日とて熱帯夜だった。





30分ほどベットの上で寝返りを繰り返しようやく眠りについた僕は夢を見ていた。

それは明日の夢で僕が追い求めた夢でもあった。

明るく照らされた会場は円形でさらにそれを取り囲むように観客席が伸びている。暗い会場を眩い光が差し今大会のエンブレムを描いている。音楽が鳴り出し選手が入場していく、観客が出迎えに歓声を上げた。高鳴る心と緊張が確かにあって、でもその奥に心のどこかに絶対勝てると積み重ねた練習の分だけ奥底で溜まった自信が僕たちを支えていた。

事前に準備していた通り僕たちは席につき会場が試合開始前の緊張感と高揚で満ちている。一つ、また一つ、僕たちは確実にラウンドを取得していく。隣の人とハイタッチを交わそうと笑顔を向けるとそこにはチームのユニフォームを着た彼女がいた。何度も見てきたユニフォーム姿で笑う彼女は今回ばかりは本当に満面の笑みを浮かべているきがする。ハイタッチを交わしまた試合に戻る。時間にして30分ほどだろうかようやく一勝を掴んだ時僕はウズウズしていた、高揚感が暴れ回り僕はとてもこう思った。

「今、すごく叫びたい」

「我慢しなくていいんだよ」

彼女は笑って勝利に叫んだ。もう我慢をしなくていい。抑えきれない激情を吐き出していいのだ。恥を忘れて今に生きる。

大きな力がうねりとなって僕は思わず叫んでいた。勝利の咆哮。ようやくだ。長かった。まだ先は長いけれど僕は今ここに立てている事がたまらなく嬉しかった。ただそれ以外の気持ちはなく強い力に動かされるまま僕らは勝利を喜んでいた。叫んでいた。

評価をするにはログインしてください。
ブックマークに追加
ブックマーク機能を使うにはログインしてください。
― 新着の感想 ―
このエピソードに感想はまだ書かれていません。
感想一覧
+注意+

特に記載なき場合、掲載されている作品はすべてフィクションであり実在の人物・団体等とは一切関係ありません。
特に記載なき場合、掲載されている作品の著作権は作者にあります(一部作品除く)。
作者以外の方による作品の引用を超える無断転載は禁止しており、行った場合、著作権法の違反となります。

↑ページトップへ