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1章ー8 襲撃

 リオン村入口。

 完全武装の5000の兵士が森の中から続々と姿を現してくる。

 

 「・・・・。」

 軍を率いる先頭の人鬼オークが先ほど放った火弾ファイアーショットにより燃えているリオン村を見つめる。

 他の兵士とは異なる装飾が施された漆黒の鎧に身を包み腰までありそうな長髪に長身の身体を持つ彼は、アムリア三将軍の一人 炎将カッツである。

 

 またこうなってしまったか・・・。

 カッツは炎を見つめ悲しみの表情を浮かべている。


 我が祖国 アムリアはニグル様が玉座に付かれてから周辺魔族に対して侵略を開始し、今では魔境中央部に覇を唱えるほど強大な国家になった。

 しかしその実態は人鬼オーク以外の魔族から富を吸い上げ我らはその恩恵の上に豊かな生活を享受しているだけに他ならない・・。

 しかしアムリア本国の多くの人鬼オーク達にはそれはまったく知られていない。

 私も軍に入り他種族の兵士達に直に接するまではそのようなことになっているとは知る由もなかった。


 カッツは後ろで隊列を組んでいる兵士たちへと向きを変える。


 アムリア軍は多くの魔種族によって構成されている。

 その多くは征服された魔族国家や集落から徴兵され兵役についている者たちで小鬼ゴブリンを始め、小人族、獣人族、魔狼族、また少数ながらも半人馬族ケンタウロスの騎兵隊が存在する。

 それぞれを指揮する大隊長以上の幹部はほぼすべてが人鬼オークでありその軋轢からか現場と上層部との衝突も少なくない。

 しかし第一軍ではそういった衝突もなく統率もとれている。これはカッツの指揮能力の高さもあるが、その誰とでも分け隔てなく自らと同等に接する人柄によって兵士達から絶大な支持を受けているためである。


 カッツは兵士達を見渡す。

 兵達の背格好はバラバラだ。

 このいびつな形は我が祖国そのものではないのか・・。

 今のような力による支配を続けていれば必ずいつか反乱という形で反動が来るだろう・・。

 そうなるとまた多くの血が流れる。


 カッツは自らの祖国の行く末を考えると顔を左右に振った。


 私は軍人だ・・。命令があれば祖国のためいかなることもする決心は出来ている。

 出来ることは出来るだけ多くの命を奪わずに目的を達成することくらいだろう。

 

 カッツはリオン村へと向き直り剣を抜くと全軍に命令を発した。


 「これよりガゼル将軍奪還及びジルの捕縛を開始する!!」


 命令を受け全軍は一斉にリオン村へと進軍を始めた。 












 「こ、これは・・・。」

 村の中心部へとたどり着いた優一ゆういちは目の前の惨状に言葉が出なかった。

 

 多くの家屋が燃え、多くの怪我人がジルを始めとする戦士たちによって助出されている。

 

 「早くこれを!!」


 ユーナは怪我人に回復薬ポーションを与えている。 

 回復薬ポーションは大抵の傷であれば瞬時に治癒するので怪我人たちは恐らく大丈夫だろう。


 最後の怪我人を助け終えたジルが優一ゆういちの元へ駆け寄ってきた。


 「ジルさん、村の人達は??」


 「無事全員助け出せました。しかしこれは一体・・」


 「ワーグの報告だと、人鬼オークの軍隊がこちらに、、」


 シュゥゥゥ・・。 先ほどまで燃え盛っていた炎が消え去る。

 な、なんだ??


 ドン!ドン!ドン! 視界が開くと村の入り口の方向から太鼓の音と共に鎧姿の大軍が向かってきている。

 お、遅かったか!!


 「ガハハハハッ!!」

 村人と共に助けられていたガゼルが優一ゆういち達に向かい大声で笑う。

 こいつちゃっかりと助けられていたのか・・。


 「あの進軍太鼓の音は我が祖国 アムリアの第一軍だ!!」

 「ハハハッ! お前たちの命もここまでだろう。さあ早く俺の縄を解くのだ!はやくしろこの下等種どもガッ!!」

 リーナがガゼルの頭部を木剣で殴りつけた。

 魔力を封じられているからなのか一撃で気を失っている。

 こいつほんと学習しないな・・・。

 リーナはなおもガゼルを木剣で殴りつける。

 も、もうやめてあげて・・。流石に可愛そうになってきた。ほんと夢魔サキュバスは容赦がない・・。しかも笑いながら殴ってる・・・・・。

 もう見ないでおこう。

 

 優一ゆういちは後ろで起きている惨劇に目を背けるとジルの方へと向き直った。


 「やはりあいつらの目的はジルさんとガゼルでしょうか?」

 優一ゆういちはジルに問いかけた。


 「恐らくそうでしょうね。しかしそれだけにしては敵の数が多すぎます。しかもあれは恐らくアムリアの中でも精鋭と言われる第一軍でしょう。」

 「これはヴィンデル様の魔力を探知されていたのかもしれませんね。奴らの探知魔法は優秀ですので。」


 ・・そういうことか。これはさっそく厄介ごとに巻き込まれたと思った方がいいな・・。

 一応髪も隠しておこう。

 優一ゆういちはフードを深く被った。


 ウオォォォォ!! 兵士たちが大きな声を上げるとこちらに突撃を開始した。

 

 「ヴィンデル様は村怪我人達をお守りください! 動ける戦士は私の後に続け!」

 「ハッ!!」


 ジルと10数人の夢魔サキュバス達も敵へと突撃を開始する。

 のちにアムリア崩壊の発端と言われるリオン村の戦いが幕を上げた。









 戦闘が開始してから1時間が経過した。

 ジルさん達夢魔サキュバスと第一軍の兵力差は 10数人VS5000人だ。

 しかし夢魔サキュバス達は1人で10人を相手にしても善戦している。

 いやむしろ押しているといってもいいかもしれない。

 ジルさんに至っては、噂通り100人以上を相手に互角以上だ。

 だが流石に相手の数が多すぎるのか徐々に力尽き、捕えられる戦士達。

 敵は夢魔サキュバス達を殺すつもりはないのだろう。

 

 「これは流石に俺も加わった方がいいんじゃ・・。」


 俺は何度も戦いに参加しようとした。

 しかしジルさんはそれに気づくと俺を制止する。

 恐らく俺が参戦することで俺がアムリアから狙われることを危惧してのことだろう。

 ジルさんの意図は分かるがこのまま皆が捕えられるのを見ているだけでいいのか・・?

 優一ゆういちはただジル達を見守るしか出来なかった。


 



 


 どれくらいの時間がたったのだろう・・・。

 ジルは戦いを続けながら考えていた。

 辺りを見ると自分以外の戦士は皆すでに敵に捕らわれている。

 私も魔力量がかなり減ってきた・・。

 しかし敵の数が多すぎる。倒しても倒しても次から新たな敵が現れ、きりがない。

 ヴィンデル様は何度もこちらを助けようとしたがそのたびにお止めした。

 我らの厄介ごとにあのお方を巻き込んではいけない。

 我らだけの力で解決しなければいけないのだ!!


 「剣技 一刀断炎いっとうだんえん!!」

 剣に炎を纏うとジルは周りを囲む敵に対して切りかかり、その攻撃により10人あまりが一瞬で吹き飛ばされる。

 

 ハアッ、ハア、・・。ジルの息が上がる。

 流石に一刀断炎いっとうだんえんは魔力の消費が大きい。

 これはもう無理だな・・。

 膝をついたジルに対し敵が一斉に襲い掛かる。


 「そこまでだ!!!」


 戦場に声が響き渡った。

 その声と共にアムリア軍は攻撃を止める。

 

 一体何が・・?。

 

 「もう十分だろう。おとなしく投降してくれないか?」

 1人の男が現れ、こちらに歩いてくる。

 周りの兵士と違い鎧に装飾が施されている。

 恐らく指揮官かそれに準ずる立場の者だろう。


 「投降だと? フッ、笑わせるな。いきなり攻撃してくるような奴らに進んで身を預けると思うか?」

 ジルは語気を強め答える。


 「確かに難しいだろうな。しかしこれ以上争いたくはないのだ・・。」


 「分かっているではないか。なら私を力ずくで捕えてみろ!!」

 ジルは立ち上がり剣を構えると一気に切りかかる。 


 「仕方がない。少し痛いだろうが許してくれ・・。」

 カッツが拳を構えるとその拳が炎に包まれる。

 「獄炎鳥ごくえんちょう!!」

 カッツの拳から放たれた炎は燃え盛る鳥に姿を変えるとジルへと襲い掛かった。


 くっっ!! この魔力量は今の私では防ぎきれない・・。

 だ、だめだ・・。

 ジルは炎を前に諦めるように目を閉じた。


 ブオオォォ!! ジルを風が包み込む。

 なんだ??? ジルが目を開けるとそこには優一ゆういちが立っていた。

 

 「ヴィンデル様! 危ない!!」


 しかし優一ゆういちは手を伸ばし炎を受け止めるとそれを空高くへと弾き飛ばした。

 

 す、すごい・・。

 あれほどの魔法を片手で弾き飛ばすなんて・・。


 「大丈夫ですか?」


 優一ゆういちはジルの元に歩み寄ると今にも倒れそうなジルの体を支える。


 「は、はい。 しかしヴィンデル様が出られてはあなたもアムリアから狙われることに・・。」

 

 「大丈夫ですよ。それよりもジルさん達が傷つく方が(つら)いので。」

 優一ゆういちはジルに笑いかけながら答えた。

 ああ、やはりお優しい方だ。だからこそ私はこの方を・・・。


 「後は私に任せてください。ワーグ頼む。」

 現れたワーグにジルを任せると優一ゆういちはカッツへと向き直る。 


 さあ我慢できずに出てきてしまった・・。後でジルさんに怒られそうだな。

 でも出てきたからにはここはなんとかしないとだな。


 優一ゆういちはカッツの元へと歩みを進めた。







 

  

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