1章ー9 建国
カッツは目の前で起きた事をいまだ理解できていなかった。
獄炎鳥は私の魔法の中でも上位の攻撃力を誇る魔法だ。
それを突如現れたフードを被った人物が片手で軽々と弾き飛ばした。
カッツはニグルとの作戦会議であった書類を思い出す。
まさかこいつが情報局からの報告書に記載されていたガゼルを超える魔力の持ち主か??
確かに獄炎鳥を弾き飛ばされる瞬間、大きな魔力を感じた。
しかし特筆して巨大と言うほどでもなかった。
一体奴は何者なんだ?? これは見極める必要がある・・。
カッツは剣を抜くと自分に近づいてくる人物を迎えた。
「お前は何者だ?」
カッツが優一に質問する。
「私はこの村の人たちにお世話になっている者です。この村に対する攻撃をやめてはもらえませんか?」
優一の答えにカッツは首を横に振る。
「私は軍人だ。私個人の考えだけで命令を違えることは出来ない。どうかそれを分かってほしい。」
優一は考える。
この目の前の男はジルさん達を殺そうとしていなかった。先ほどの言葉からしても恐らくこの攻撃は不本意なものなのだろう。
こういう愚直な人物は日本でのサラリーマン時代、取引先にも時折見かけた。
融通は利かないが自らを評価してくれる会社や上司には精一杯力を尽くす、そういうタイプの人が多かった。
これは説得は難しいだろうな。力ずくで攻撃を止めさせるしかないか・・。
「・・分かりました。では力ずくででもあなた達には退いてもらいます!」
優一が身に着けていたマントを脱ぐと敵兵からどよめきの声が上がる。
「まさか・・。よもや銀の髪を持つお方だったとは・・。」
「なるほど、ガゼルが敵わないわけだ。しかし私も兵達の手前、戦わず逃げるわけにはいかない。」
カッツは剣を構える。
「おまえたちは手出しするな!!」
カッツの命令に槍や剣を構えていた兵士たちは少しの騒めきのあと武器を収める。
「それでは参る。」
「身体強化!」
カッツの体が炎を纏う。
「こちらも行きます。」
「身体強化。」
優一も身体強化を使用し、周囲に風が吹き荒れその体が宙に浮かぶ。
シュッ!! 2人は同時に消えると空中で衝突し、戦闘が開始した。
2人の攻撃が衝突すると周囲に熱風が生じ兵士たちが吹き飛ばされた。
優一はすぐさま2発目の攻撃をカッツに仕掛ける。
しかし優一の左からの蹴りは寸での所でカッツに回避され空を切った。
嘘だろ・・。これを避けるのか。完全な死角だったじゃないか・・。
ガンッ!! 優一は右頬に強い衝撃を受けると地面へと叩き落された。
いてて・・。衝撃で地面が砕けているが身体強化のおかげか俺自身にダメージはほとんどない。
しかしこれはやばいかもしれないな。あいつはガゼルよりもかなり強い・・。素人の俺から見ても動きが洗練されている。引きこもりで運動経験がほぼ0の俺の攻撃じゃまず当たらないだろう・・。
優一は立ち上がるとカッツの次の攻撃に備えた。
「危ないところだった・・。」
カッツは地上に降りると先ほど叩き落した優一の姿を見ていた。
先ほどの攻撃からこの男は恐らく武術などの経験はなく、全くの素人なのだろう。
それでも魔力の動きを感知していなければ動きがほとんど見えなかった。
フッ、なるほど。怠け者のガゼルでは敵わないわけだな・・。
しかしこれは俺も力を温存して勝てる相手ではないな。
カッツは魔力を集約すると、一気に解放させた
「行くぞ!! 獄炎大篭!!!」
優一を取り囲むように炎が発生すると一気に燃え上がり、爆炎の壁が優一に襲いかかった。
「ヴィンデル様!!!」
戦いを見ていたジルとワーグが声を上げる。
ハァ、ハァ・・。 上位魔法 獄炎大篭の使用により魔力を大幅に消費したカッツは膝をつく。
やはりこれの使用は私にはまだ早いな・・。しかしこの魔法で倒れなかった者はニグル様を除いて誰もいない。決着はあっただろう。
しばらく燃え盛ると獄炎大篭の炎は徐々に小さくなり消えていく。
さて、ガゼルとジルを連れていくか・・。
カッツは息を整えると立ち上がりジルの方向へと進んでいく。
シュゥゥゥ・・。 なんの音だ?
カッツが先ほどまで燃え盛っていた場所に目を向けると大きな半円状の水壁が蒸気を上げている。
ま、まさか・・!! 水壁が消えるとそこには無傷の優一が立っていた。
あ、あぶなかった・・。 優一は自分を守っていた水壁を解除する。
地面から俺を囲い込むように炎が出てきたときは流石に死ぬかと思った。
以前にワーグが使った水壁に触れていたからか特殊能力 模倣によって水壁を発現することができたおかげで何とか身を守ることが出来た。
あとでワーグに肉でも食わせてやらないとな・・・。
「ヴィンデル様!! よくぞご無事で!!」
「流石はヴィンデル様です!! 我が水壁をこうもたやすく発現できるとは!!」
ジルとワーグが喜びと感嘆の声をあげている。
うん、そうだよ。ワーグのおかげだ。
だからあとで肉を食わせてやるって。
でも今は早くこの戦いを終わらせなければ・・。
優一は再びカッツと向き合った。
私が使用できる最高位の魔法を受けても無傷だとは・・・。
カッツの頬を一筋の汗が流れ落ちる。
やはり獄炎鳥を弾き飛ばした時は魔力を抑えていたのか・・。
これは私の勝てる相手ではないな・・。
他の兵士達では束になっても手も足も出まい。
カッツは自らの敗北を悟ると膝を付き、優一に対して頭を下げる。
「これほどの力だとは・・。ご無礼を承知でお願いしたいことがあります!」
「私はどうなっても構いません。しかし他の兵士達はどうか見逃してはもらえませんか??」
兵士達からどよめきが起こる。
「カッツ将軍!! 何を仰いますか!!」
「我らは最後の1人になろうとも共に戦います!!!」
兵士たちは武器を構えるとカッツを助けるため優一へ攻撃を開始しようとするがカッツがそれを止める。
「命を無駄に使うな!! お前たちは生きて帰れ。それが私の最後の命令だ。」
カッツの言葉を聞くと兵士たちは進軍をやめた。
ええー、これどうしたらいいんだ・・。
帰ってくれるなら全員早く帰ってくれればいいのに。これがこの世界では普通なのか?
てか俺敵を全滅させるくらい極悪人に見えるの?え、そうなの??
返答に困る優一の隣にジルがやってくる。
「いかがいたしますか?」
ジルは心配そうにこちらを見ている。
確かにここで見逃せばまたこの村に攻めてくることも十分あり得るだろう。
しかし俺の力を恐れてもう来ない可能性もある。
くそ! 一体どうするのが最善なんだ!!
社会に出てまだ2年目だった俺にどうしろってんだ!
誰か俺に帝王学を教えてくれ・・・・。
でもやっぱり俺は人を殺したくはない・・。
・・。この方法が最善かは分からないが俺の考えは決まった。
「分かった。兵士たちは殺さない。しかしあなたの命も奪うことはしません。」
優一の言葉にカッツは頭を上げ驚きの表情を隠せない。
「しかし我らが戻れば我らの王 ニグル様は再びこの村に対して攻撃を開始するかもしません。」
「その時はまた私がお相手を致しましょう。これよりこのリオン村は私の庇護下に入りいかなる侵略も排除いたします。そのことをよくあなた達の王にお伝えください。」
「ですが友好関係を築く目的であればいつでも訪ねてください。」
優一はカッツに笑いかけた。
な、なんと慈悲深いお方なのだ・・。これこそ人の上に立つ者の資質というものではないだろうか。
「ッッ!! ありがとうございます! そのお言葉、我が命に代えても王にお伝えいたします。」
カッツは再び深く頭を下げ立ち上がると全軍に命令を発した。
「全軍撤退!! これよりアムリアへと帰還する!!」
「はっ!!」
アムリア軍はカッツの命令を受けリオン村への攻撃を停止した。
「カッツさん! この方も連れて行ってもらえますか?」
撤退を始めていたカッツが優一の声に振り返るとそこにはワーグに咥えられてきたガゼルの姿があった。
「はははっ!! そういえば忘れておりました! おい!ガゼル将軍をお連れせよ。」
ワーグより兵士たちがガゼルを受け取り運んで行く。
「それでは我々はこれにて失礼します。」
「今回のご恩の借りはいつか必ず!」
カッツは優一にもう一度感謝を伝えると第一軍と共にリオン村から立ち去っていった。
「すみませんでした・・・。」
捕まっていた戦士達とジルと共に村へ帰る道中、優一はジルに謝罪した。
「何がでしょうか?」
「いえ、成り行きとはいえ俺がリオン村を支配するような形になってしまったので・・。」
ジルは笑いながら答える。
「ふふふっ、よろしいのではないでしょうか? リオン村でヴィンデル様に感謝していない者はおりません。皆喜んでヴィンデル様に従いますわ。」
「はあ、そんなものなんですかね・・。」
「ええ、そんなものですよ。」
ジルは嬉しそうに答える。
こんな顔されたら仕方がないな。
それに夢魔のような境遇の魔族は他にも多くいるのかもしれない。
俺の力で守ることが出来るならそれはそれでいいことだろう。
日本のように平和な世界になればいいんだけどな・・。
「それに私はそんなことがなくてもヴィンデル様のお、お嫁、お嫁さんに、、。」
「ん? ジルさん何か言いましたか?」
「い、いえ! あ、ほら早く戻らないと日が暮れますよ!!!」
ジルは顔を赤らめながら村の方へと走っていく。
ジルさんは元気だなあ。
優一もジルの後を追いかけるように村へと走っていった。
翌朝。
リオン村では村人全員が集められジルの口から村が優一の支配下に入ることが伝えられた。
「ヴィンデル様が私たちの王様になるってことですかー?」
リーナが手を上げ発言する。
「いや、王様ってわけでは」
「その通りよ。これよりヴィンデル様が私達の王になります。そうですよね、ヴィンデル様?」
優一の言葉を遮りジルが答える。
「・・・はい。もうそういうことでいいです。」
おおー!! 村人達から声が上がる。
はあ、ジルさんには敵わないな・・。
「・・ということは国を作るということでしょうか?」
次にユーナが質問をする。
え、国??なんかどんどん話が大きくなってきているような・・。
「そうね。ヴィンデル様が王を名乗られるならそういう形をとった方が自然でしょうね。」
おおおー!! 村人達からさらに大きな声が上がる。
ジルさんもうやめてくれ!!
しかし優一の願いも空しく話はさらに進む。
「最後にヴィンデル様からこの新国家の掲げる理念を発表してもらいます!!」
国家の理念?? そんなこと急に言われても困るんですけどー!!
うわー、皆すごいこっち見てる・・。
優一は村人達の前に立つとしばらく考える。
「・・・世界平和。」
「・・そう! 俺たちは他の魔族だろうと人種だろうとむやみに争わない。そして必ず争いのない世界、世界平和を目指します!!」
・・・・。 あれ誰も何も言わない。やっぱり中二病ぽかった??
おおおおおー!!! 村人達から歓喜の声が上がる。
「流石はヴィンデル様です!!」
「ぜひ我ら上位魔狼もその国家に加わわらせていただきたい!!」
ジルやワーグが声を上げる。
あー、やっぱりあれだな・・・。魔族って単純っていうかちょろいんだな・・。
はあ、でもこれで国家建設が決まってしまった・・。
喜ぶ村人達を尻目に優一は大きく肩を落としていた。
大陸歴1201年、のちに歴史上最も風変わりな魔王と言われる、500年に及ぶ魔族と人種の戦争を終わらせ世界に平和をもたらしたヴィンデル・ロ・ウードの名においてリオン村を中心とするナルソンの森を領土とする国家の建国が全魔族に対して宣言した。
これが魔王ヴィンデル・ロ・ウードの名前が歴史上はじめて記された瞬間である。
ここで1章の終了です!
次回から2章が始まりますがどこかのタイミングで間話としてキャラの過去を書こうと考えているのでこのキャラの過去が見たいというものがあればメッセージを頂けると嬉しいです!




