1章ー7 日常
ジルさん達捕らわれた夢魔を救出しリオン村に戻ってから1週間が経過した。
村の人達は小鬼達の襲撃により燃えた家屋などの修復にあたっている。
ジルさんはというとユーナが持ってきた回復薬のおかげで無事回復した。
ユーナはこの村で唯一錬金術の特殊能力を持っており回復薬を製作することが出来るらしい。
この世界には特殊能力や職業というものが存在するらしくまだまだ知らないことだらけだ。
「ヴィンデル様!こんにちは!!」
村を歩いている優一に村人たちが挨拶をする。
俺もかなりこの村に馴染んだものだ。
しばらく歩き、村のはずれにある訓練場に入ると夢魔の戦士たちがジルに稽古をつけてもらっている。
ガンッ! ジルがリーナが持つ稽古用の木製の剣を素手で弾き飛ばす。
相変わらずとてつもない体術だ。
「まだまだぁ!!こんなことではまたこの村を守ることは出来ぬぞ!!」
「もう一度お願いいたします!!」
リーナが地面に落ちた木剣を拾い、構えなおす。
「よい心意気だ! では行くぞ!!」
再びリーナへと向かおうとしたジルは優一の存在に気がついた。
「ヴィンデル様! これは気づかず申し訳ありませんでした。」
ジルが優一に挨拶をすると他の戦士達も優一の存在に気づき挨拶をする。
「ヴィンデル様!! 今日はどうされたのですか??」
俺に気づいたリーナが笑顔で駆け寄ってきた。
リーナはかなり人懐っこい性格のようで俺にもよく懐いてくれている。
その後ろからはユーナも駆け寄ってきたがこちらは人見知りな性格のようでリーナのように接してくることはない。双子でも性格はこうも違うものなのか。
「今日はジルさんに用があるんだ。」
「そうなのですね!!」
リーナと話していると何か視線を感じる。
その方向を見るとリーナ達の後ろからジルさんがこちらを恨めしそうに見ていた。
胸を触ってしまった一件からジルさんとの間には不思議な空気が流れている。
しかし風呂に入っていると偶然を装い入ってこようとしたり、朝方になると俺の布団の中に入ってきたりしているので嫌われているということではないだろう。
クソッ! 俺に女心を理解しろという方が無理な話だ!!
ジルの視線に気づいたのかリーナが慌ててジルの方へと向き直る。
「ジ、ジル様! ヴィンデル様はジル様にご用があるそうですよ!」
ジルはそれを聞くと全速力で優一の元へと駆け寄ってくる。
「わ、私にご用とは???」
優一の手を取ると体を近づける。
む、胸が・・! だめだ!煩悩は捨てなければ・・。
「あ、いえ、以前言っていた魔法の指導と自分の特殊能力や職業が分かる方法を教えていただこうと思いまして。」
それを聞くとジルは思い出したように笑顔を見せる。
「それは申し訳ありません。それでしたらここで今から行いましょう!」
「リーナとユーナ。ここにメルザ様をお連れせよ。」
「わかりました!」
返事をするとリーナとユーナは訓練場から村の方へと走っていった。
しばらくするとリーナの手を取りながら一人の老人が歩いてきた。
ユーナは何か大きな水晶のような物を持っている。
「お連れしました!!」
ジルはその老人の前に出ると軽く頭を下げる。
「このような所まで足を運んでくださりありがとうございます。」
「はっはっはっ、礼には及ばんよ。それでそちらにいるのがお前がいつも話しているお方かい?」
老人は笑いながら答える。
「はい。こちらが我らの命の恩人、ヴィンデル様です。」
老人は優一の前まで歩みを進めるとじっと見つめる。
「なるほど、よい面構えをしている。髪の色からして魔力量も素晴らしいのだろう。流石はジルが惚れるだけのことはある」
「メルザ様!!!」
ジルは慌てて老人の話を遮る。
「ジルさん、こちらの方は?」
優一は笑いながら尋ねる。
「こちらはメルザ様と言いこの村の魔術師です。」
ジルは顔を赤くしながら優一に紹介する。
「魔力量や特殊能力、職業は魔術師でなければ測れないのでこうしておいでいただきました」
「よろしくの!」
メルザは優一に挨拶をする。
元気なお婆さんだな。
しかしどうやって調べるのだろうか・・。
「ここにおいてくれ。」
メルザはユーナの持っている大きな水晶体を訓練場にある机の上に置かせた。
「これは強い魔力が発生している魔力溜まりと呼ばれる場所で採れる魔晶石と呼ばれるものを加工したものじゃ。」
「これに両の手を添え魔力を注ぎ込むと・・・、百聞は一見にしかずじゃ。リーナやってみせよ。」
「はーい!」
リーナは魔晶石に手を添え魔力を込める。
なんだ? 魔晶石が青く光り始めた。
ブゥゥゥゥ・・。低い音と共に文字が魔晶石から浮かび上がる。
────────────────────────────
MP(魔力量) 780/800
HP(体力) 220/500
特殊能力 なし
職業 戦士
種族 夢魔
リーナ・リオット
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「やったー!魔力量上がってるー!」
リーナは飛び跳ねて喜びを表わしている。
「特殊能力も未だに何一つ獲得しとらんくせにはしゃぐでない!」
メルザはリーナの頭を持っている杖で叩いた。
あまりの痛さにリーナは頭を押さえその場で悶絶している。
ははっ、リーナらしいな。
しかしなるほど。魔力は色々な情報も内蔵しているということなのか。
それにリーナの魔力量と体力が少し減っているな。
恐らくジルさんとの訓練によるものだろう。
「さあ、次はお主がやってみよ。」
メルザが優一を促す。
これって漫画やアニメとかだと魔力量が多すぎて魔晶石が耐えきれず割れて結局何も分からないっていうよくあるパターンのやつだよな・・。
まあそうなったらその時はその時だ!
優一は魔晶石に手を当てると魔力を流し込んだ。
ブゥゥゥ・・。先ほど同様に魔晶石が青く発光を始める。
よかった・・。ふつうだ。
しかし。
パキっ!! 大きな音と共に魔晶石にヒビが走る。
やっぱりかーい。ベタにも程があるだろう!!
あーあ、ジルさんやメルダさんも驚いて口が開いたままだよ・・。
さて、どうしたもんかな。
「すみません、これってもう測れませんよね・・?」
優一の問いにメルダは気を取り直す。
「い、いや、恐らくはもうすぐ表示されるじゃろう・・。しかしよもや魔晶石にヒビがはいるとは・・。」
ヴウンッ・・。魔晶石に文字が表示される。
────────────────────────────
MP(魔力量) 348000/348000
HP(体力) 260000/260000
特殊能力 模倣
職業 なし
種族 ???
ヴィンデル・ロ・ウード
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え・・。魔力量348000ってなに・・??
特殊能力は・・ 模倣?
職業もないし種族に至っては???ってなんだよ!
でも名前は伊川優一ではないのか・・。
「なんという魔力量! 想像以上じゃ!!」
メルダは驚きを隠せない。
「まさかこれほどとは・・。」
「ヴィンデル様、流石です!!」
ジルとリーナも声を上げる。
「あ、ありがとう。しかしこの模倣という特殊能力は一体・・。」
優一の問いにジルが答える。
「確か模倣は自らが受けた魔法を瞬時に模倣できるようになる特殊能力だったはずです。数ある特殊能力の中でも数回しかその存在を確認されていない幻の特殊能力
ですよ!」
なるほど!だから洞窟の戦いであんなにすんなりと身体強化を使えたのか!!
しかもそれほど珍しいものだったとは・・。
でもつまり身体強化を使用できたのは特殊能力のおかげで俺が天才だった訳じゃなかったんだな。ちょっぴり残念だ・・。
あれ?でも・・。
「模倣は受けた魔法を使えるようになるのに俺が使った身体強化はガゼルのような雷ではなく風を纏っていたはず・・。」
「身体強化は最も自分に適合する属性を纏うのです。リーナは水系の魔法、私は火系の魔法というように個人個人で異なりその能力もそれぞれ特性があります。」
優一の疑問にジルが答える。
なるほど。つまり俺に一番適合する属性は風系ということか・・。
「魔法にも色々とあるのですね。ますます興味が湧いてきました。」
「お主ならすぐに多くの魔法を使えるようになるじゃろう」
メルダは楽しそうに答える。
「より多くの魔法を知りたいのなら魔境の南にある竜人達の国を訪れることだ。竜人以上に魔法に精通している者はおらぬ。」
竜人・・。俺がこの世界に転生してから1週間程経過したがこの世界のことはまだほんの僅かしか分かっていない。
各地を回り情報を集めるべきなのかも知れない・・。
いつまでもリオン村にいては迷惑にもなるだろう。
「そうですね・・。ジルさん。俺たちはそろそろ他の場所に、、。」
ズドンッ!! 優一が話し終える直前に爆音と地響きがリオン村を襲う。
な、なんだ!! 村を見ると村の中に炎が上がっている。
「何が起きたのだ!!」
「皆のもの! 我らはこれより至急村へと戻るぞ!」
ジルは戦士たちに村に向かうように指示を出し、自らも武器を取り村へと走り出した。
いけない。 いきなりのことで呆気にとられてしまった。
俺も急いで村に戻らないと!
「ヴィンデル様!!!」
優一が走り出そうとしたとき見張りの夢魔と森の中を偵察していたワーグが帰ってきた。
「ワーグ!! 一体何が起きたんだ??」
「はっ! こちらに人鬼の大軍が向かってきております!旗印からして人鬼の王国、アムリアの軍かと!!」
人鬼!! ということはガゼルとジルさんの奪還が目的か!
まずい! ジルさんはすでに村へ向かった!!
「ワーグ! 村まで急げ!! このままだとジルさんや村の人たちが危ない!!」
「心得ております!」
優一が背に飛び乗るとワーグは全速力で村へと向かった。