1章ー6 生還
魔境中央部 人鬼の国 アムリア
王城内 玉座の間。
「なんだと!?ガゼルの魔力が消失したと申すのか??」
他の人鬼よりも二回りは大きいであろう巨体を大きく震わせながら皇帝人鬼 ニグルは報告に来た兵士に声を荒げた。
「は、はい。情報局の報告では昨夜ガゼル様の魔力反応を探知した後、そのすぐ近くでとてつもない魔力反応を探知、それとほぼ同時にガゼル様の魔力反応が消失したとのことであります・・。」
報告をする兵士は恐怖で顔を上げることが出来ない。
「・・・分かった。もうよい下がれ!!」
「はっ!!」
兵士は慌てるように玉座の間を後にした。
バンッ! 兵士が立ち去り扉が閉まるとニグルは玉座に腰を下ろし深く考え込む。
ガゼルほどの男が敗れたというのか・・。
確かにジルが相手であればあやつも苦戦を強いられたであろう。しかしそのためにも我らの下位種にあたる小鬼と人食鬼を手懐け、その圧倒的な数にジルが魔力を削られた所を捕えさせた。
仮にジルが逃げ出したとしても魔力が減った状態ではガゼルの敵ではないであろう。
それにあの兵士の報告にあった「とてつもない魔力」というのが気になる。
ガゼルの魔力量は5000程だったはず。並みの人鬼は500程なのを考えれば十分素晴らしい。あのギルでも7000程だ。
それを容易く超える魔力となると10000を超えているのではないのか・・?
クククッ、面白い。
ニグルの口元が綻ぶ。
これは早急に軍を派遣し、正体を確認する必要があるかも知れぬ・・。
恐らく夢魔たちはリオン村に戻っているであろう。
考えをまとめるとニグルは手を合わせ大きな音を一度鳴らした。
ギー・・。 扉が開き側近である老人が現れる。
「なにか御用でしょうか、ニグル様。」
老人はニグルの前に膝をつき頭を下げる。
「ああ。至急カッツ将軍に玉座の間へ来るように伝えよ。」
「ははぁ。仰せのままに。」
頭を上げると老人は転移魔法を使用しその場から姿を消した。
その夜、三将軍の一人カッツ将軍率いる第1軍5000によるガゼル将軍の捜索及びリオン村への派兵が決定した。
くっ!! やめろ!!
小鬼達がが衣服を引き裂きジルの体を弄る。
おぞましい・・! 舐めるように体中にいくつもの小さな手が伸びてくる。
こんな醜い生物に弄ばれるくらいなら死んだ方がましだ!!
しかし動かそうとしても体はピクリともしない。
くそっ!くそっ!! 抵抗の出来ぬままジルの体は無数の小鬼達に覆われていった・・。
「はっ!!!」
ゆ、夢か・・。 ジルが目を覚ますとそこは先ほどまで捕らわれていた洞窟の中ではなかった。
ここは・・?
辺りを見渡すと石造りの壁、木製の屋根。見慣れた自分の家のベッドの中だった。
「一体どうなっているんだ・・。」
私は小鬼と人食鬼に捕えられていたはず・・。
ガチャッ・・。扉が開く音と共に村娘のリーナが入ってきた。
「ッッ!ジル様!!お目覚めになられたのですね!!!」
リーナは目に涙を浮かべながらジルの胸の中に飛び込んだ。
「や、やめぬか。まだ体中が痛いのだ。」
声が聞こえていないのかリーナはジルの胸の中で声を上げて泣いている。
その声を聞き他の村人たちも家の中に走ってきた。
多くの者がその目に涙を浮かべている。
・・これほどまでに心配をかけてしまったのね。
「皆心配をかけてすまなかった。」
村人達が泣き止むのを待つとジルはリーナに尋ねる。
「私は小鬼達に捕らわれていたはず。しかもあの数だ。どうやって助けだしたのだ?」
目の涙を拭いながらリーナが答える。
「あ、それはこの村に偶然来られたあちらのお方がお力を貸してくれたのです。」
リーナが伸ばした手の方向を見ると一人の青年が立っている。
誰だ・・?年齢は若そうに見える。腰から生えている尻尾を見るに魔族なのは間違いない。
それよりもあれは銀の髪か!?その髪を持つ者にまさか会えることが出来るとは・・。
なるほど。これほどの魔力の持ち主であればあの程度の数、簡単に退けることが出来るだろう。
「体の調子はどうですか?」
目の前の青年が声をかけてきた。
「大事はありません。今回は見ず知らずの私ごときをお助けいただき誠にありがとうございます。」
ジルは深く頭を下げる。
「あ、頭をお上げください。それよりもご無事で何よりです。」
ジルはその言葉に頭を上げると目線を目の前の青年に戻す。
さて、少しずつだが何が起こっったのか分かってきた。
しかしまだまだ謎が多い。意識を失う直前私は確かに人鬼の姿を見た。
なぜ人鬼が小鬼達と一緒にいたのか。
事の次第によってはこれからの対応にも大いに関わってくるだろう。
「分かっていることを全てお話いただけますか?」
ジルの質問に対し青年とリーナは何が起きたのかを話し始めた。
「・・・ということが現時点で分かっている全てです。」
優一は洞窟内での出来事をジルに話し終える。
「なるほど、そういうことでしたか・・。」
ジルは話を聞き終えると腕を組み考え始めた。
洞窟内では暗く顔も泥で汚れていたので分からなかったが、こうしてみると目の前に座っているジルという女性は村の夢魔の中でも群を抜いて綺麗だ。
先ほども目が覚めた彼女を見たときは緊張でしばらくの間棒立ちになってしまった。
くそっ!24年間童貞の俺には刺激が強すぎる。
「つまり人鬼の目的は小鬼と人食鬼を使い私を消耗させ捕えることだったのですね。」
「そして私の魔力を受け継ぐ子を産み続けさせること・・。」
そこまで言うとジルは口を閉ざした。
無理もない。夢魔はその特性から魔族のみならず人種からも攫われ売買の対象になってきた歴史があるとリーナとユーナから聞いた。
こんな話をされれば恐怖を覚えるだろう。
「・・・クソが!」
えっ・・・?
「人鬼のクソ野郎があぁあ!今度会ったら滅ぼしてくれるわ!!」
こ、怖い!!なにこれさっきまでとはまるで別人だ・・。
優一は昔、冷蔵庫に置いてあったアイスを俺が食べたことを知った時の母のことを思い出した
あの時は腹に5発女性のものとは思えないパンチを喰らったっけ・・。
「・・取り乱して失礼しました。」
ジルは元に戻ると優一に笑顔を向けながら謝罪をした。
うん。これはあれだ。絶対怒らせちゃいけない人だな、気を付けよう・・。
「して洞窟内にて遭遇した雷将ガゼルはどうされたのでしょうか?」
現在ガゼルはこの村の使われていない家屋の一つに幽閉されている。
夢魔に伝わる魔道具によって魔力は封じられており魔法は使用できない状態らしい。
魔道具・・。この村には魔道具を制作できる夢魔もいるらしいので制作方法をぜひ学んでみたい。
「ガゼルは今はこの村に捕えています。」
「なるほど。それでは後程私自身が尋問をすることにいたしましょう。」
そう言い終えるとジルはニヤリと笑った。
おおー・・。た、楽しそうだな。どんな方法で尋問をするのかは聞かないでおこう・・。
「では私はこれで。くれぐれもまだ無理はなさらないでくださいね。」
優一はそう言うと部屋を後にしようとした。
「あ、待ってください!もう一つお聞きしたいことが・・」
ジルは優一を追いかけようとベッドから起き上がったがまだ魔力が十分回復していないため足に力が入らない。
「きゃあ!!」
「うわっ!!」
ジルと優一は床へと倒れこんだ。
い、痛て・・。 うん?何だ、この顔の上にある未知の感触は!!
優一はそれに手を伸ばす。
や、柔らかい!!これはまさかジルさんの、お、おっぱ・・。
いやいやだめだ!早く手を離さなければ!!離れるんだ俺の左手!!
なぜだ、なぜ離れない!これは魔法にかかっているに違いない、うん、そうに違いない・・。
「あ・・、や、やめて、くださ、、い・・。」
その声で優一は現実へと戻される。
すぐさまジルを起こすと自分も起き上がりジルとの間に少し距離を開ける。
「す、すみません!!!」
地面に擦り付けるように頭を下げる。
「・・・・・」
あれ・・。何も言ってこない・・。
こ、殺されるかもしれない・・。
顔を上げジルの方へと視線を向ける。
「びっくりしました。」
ジルは頬を少し膨らませこちらを見ている。
顔も少し赤くなっている。か、可愛い・・。
「ふぅ・・。大丈夫ですよ。先ほどはこちらも悪かったので気になさらないで下さい。」
ジルは恥ずかしそうに笑みを浮かべている。
よかった・・。どうやら童貞のまま死ぬという最悪の事態は避けられたらしい。
「あ、ありがとうございます。・・そういえばもう1つ聞きたいことってなんですか?」
優一は恐る恐る尋ねた。
「あ、そうです!!もう!忘れるところだったじゃないですか!!!」
ジルはまた頬を膨らませる。だから可愛すぎるんだよ、ちくしょー!
「あなたのお名前を教えていただけませんか?」
・・名前か。確かにまだワーグにさえ言ってなかったな・・。
しかし、もしかしたらこの世界では日本名は人種が使う名前の可能性がある。
まだ情報が少なすぎる時点では使用しない方がいいかもしれない。
それにこの世界に来てからずっと考えていたことだが俺以外の転生者がいないとも限らない。
そうした場合日本名だと俺が転生者だと知られ、厄介ごとに巻き込まれる場合もあるだろう。そういった事態は避けたい。
ここは新しく名前を付ける方がいいだろう・・。
何がいいだろうか・・。そうだ俺の聖書であるあのラノベ!あのラノベの主人公の名前は確か・・。
「ヴィンデル・・。」
「そう、俺の名前はヴィンデル・ロ・ウードです!!」




