5章ー2 内通者
「アスティロン帝国兵だと?! まさか王族まで襲ってくるとは・・!」
ハウスは怒りのあまりマントを持つ手が震えていた。
やっぱりアスティロン帝国だったか・・。
こいつは〔たとえ妖精族といえど〕と言っていた。そこからも妖精族ではないことは推測出来ていたが、本当にアスティロン帝国だったとはな。
「しかし何で俺たちがこの馬車に乗っていたのが分かったのでしょうか?」
優一の言葉に、ルミリアは何かを思い出したような表情をした。
「ルミリアさん、何かご存じてすか?」
「・・ええ。この男はこの国に最近やってきたアスティロン帝国の外交官です。一度しか会ったことがなかったので忘れていたのですが、今思い出しました!」
「もしかすると王都に内通者がいるのかもしれません。そこからヴィンデル様のことが漏れたのか・・。」
内通者・・・。やはり妖精族の中にも魔族と手を結ぶことに反対している勢力はいるということか。
「ルミリア様。この者はいかがいたしますか??」
ハウスは剣を男の首元に当てながらルミリアに尋ねた。
「彼は貴重な情報源よ。次の街までしばらく時間もあることですし馬車の中で話を聞くことにしましょう。」
「・・・・・そういうことでしたら。」
キンッ・・。ハウスは剣を腰の鞘に納める。
「はぁ、はぁ・・、ハウス様! 森に逃げていたフードの者達ですが、捕えようとしたところ全員自ら命を絶ちました!」
捜索に向かっていた兵士達が戻ってくると、息を切らしながらハウスに報告をする。
「そうか・・。ではお前達はイリノスから応援を呼び、倒れている他の者を駐屯地まで輸送するのだ。残った者は引き続きルミリア様とヴィンデル殿たちの護衛の任務を継続せよ!」
はっ!! 兵士達は右手を左胸に当て頭を下げると、ハウスの言葉に従い準備を始めた。
「ヴィンデル様申し訳ありません! 今回のこと、全て私の失態です。ヴィンデル様たちを危険な目に合わせるなんて・・。」
「大丈夫ですよルミリアさん。しかしこれでアスティロン帝国が本気でこちらを潰しにかかってきていることが分かりました。恐らくですがこの襲撃、私ではなくルミリアさんを狙ってのことではないでしょうか?」
俺の言葉にルミリアさんは不思議そうな顔でこちらを見ていた。
「どういうことでしょうか?」
「アスティロン帝国も俺の力は分かっているでしょう。それならあれだけの人数で襲撃するのは不自然です。恐らく内通者から魔族が来ることは知らされていても俺が来るとは思っていなかったのではないでしょうか?」
「なるほど・・。つまり魔族との同盟推進派の私を殺すことで同盟を破綻させようと・・・、あ、まさか!!」
ルミリアさんはようやく気が付いたようだ・・。
「はい。恐らくその犯人を一緒にいた魔族の仕業とでも広めるつもりだったんじゃないでしょうか。それなら妖精族の魔族への感情は最悪なものになりますしね・・。」
「なんて卑劣な・・。」
ルミリアは怒りの感情を隠しきれない。
「これはあくまで推測ですが、そこの男に聞けば真実かどうかは分かるでしょう。」
優一はハウスが抱えている男へと視線を向けた。
「そうですね。ハウス、その男を縄で拘束して馬車に乗せてくれるかしら。」
「承知いたしました!」
ハウスさんは部下の一人に縄を持ってこさせ男を拘束すると、俺達の馬車へと乗せていった。
「さぁ、我々も参りましょう。ここからは早く離れた方がいいでしょう。」
ルミリアさんの言葉で俺達は急いでその場を離れることにした。
「うぅ・・、ここは・・?」
男は馬車が出発してしばらくするとようやく目を覚ました。
「お目覚めのようですね。」
男はルミリアに気が付くと、途端に顔色が悪くなる。
「そうか、しくじったのだったな・・。しかし何故私を生かしているのだ。」
「それは聞きたいことがいくつかあるからですよ。」
優一の言葉で男はその存在に気が付くと、先ほどとは違い憎悪を露わにする。
「その髪の色! まさかヴィンデル・ロ・ウードか! お前がこの国に来ている魔族だったとは・・。あいつめ、正確な情報を渡さなかったな・・!」
やっぱり内通者から俺のことを聞いていたか・・。
多分俺達の推測通りだろうけど、ここはカマをかけてみるか。
「その内通者は既に捕えられて、あなたはまんまとこちらの流した偽情報に引っかかったんですよ。」
優一の言葉に男は笑いながら答える。
「ハハハハハッ! そのような戯言、信じると思うか? 彼が捕まったとしたらすぐに分かるわ! 私を舐めるではない!」
・・・・、こいつバカだな。
すぐ分かるということはそれなりに地位が高い人・・。
それに彼ということは男か。
「ということらしいですルミリアさん。魔族との同盟に反対している地位が高い男性の方はいますか?」
「なっ!!」
男は自分の失言に気が付くと、その顔を紅潮させた。
「そういうことでしたら、何人か思いつきます。」
「おい、その彼というのは議長のマルネスか? それとも北方方面軍のダルタニアか?」
ルミリアの口から出た名前に男は全く反応を示さない。
「ま、まさか、アッシュビーお兄様か?!」
ピクッ・・。男の眉が少し動いた。
「くそ、なんということだ! まさかアッシュビーお兄様が内通者なんて・・。」
アッシュビー・・。ルミリアさんのお兄さんみたいだけど、どういう人なんだ?
「ルミリアさん。アッシュビーという方は一体・・。」
「あ、すみません! ヴィンデル様には話していませんでしたね。アッシュビーお兄様はこの国の第一王子で王位継承権も私の上の第一位。つまり皇太子というわけです。」
まじか・・。それならその人が王位を継いだりしたら俺達との同盟は・・。
「妹である私が言うのも何ですが、アッシュビーお兄様にはこの国の行く末が見えておりません。恐らくアスティロン帝国から多額の賄賂でも贈られたのでしょう・・。」
ルミリアは話し終えると、男を睨みつけた。
「ヴィンデル殿。この国は現在、王位継承で割れているのです。まぁほとんどの者はルミリア様を押しており、国王様も本心ではそう思っています。しかしアッシュビー様を押す勢力も少なからず存在しておりまして、今回の同盟もかなり妨害が入ってきました。」
なるほど。ハウスさんの話を整理したら、アッシュビーという王子は優秀ではないのだろう。
でもそういう男を上に置けば操りやすいと思う者もいるんだろうな・・。
「そういうことだったんですね。つまり今回の襲撃は同盟の破綻だけでなく・・」
「はい、政敵の私を同時に消そうと思ったのではないでしょうね・・。」
ルミリアさんの声が震えている。
無理もないか・・。実の兄から命を狙われたわけだからな。
「ハハハハハ! お前の兄は魔族と手を結ぶなどバカなことを考えないだけ、お前達よりは利口というものだ!」
先ほどまで沈黙していた男が笑いながらルミリアさんに話しかける。
「あなた方はどうして俺達魔族をそこまで差別するのですか?」
「知れたことだ! お前達は500年前、我ら人間を殺しつくそうとした。それに先のノルド平野の戦いでは数万人を捕虜にし、その殆どを殺したというではないか!」
優一の言葉に男は語気を強めながら答えた。
そんな風に伝えられているのか・・。
これでは人間の魔族に対する感情が良くならない訳だ・・。
「500年前の戦いで人を殺戮したのは魔王とその一部の配下だけで、多くの魔族はあの戦争を悔いています。それに我々は捕虜を殺害などしていません。」
「嘘を申すな! 魔族の言うことなど信じることが出来るか!!」
「・・分かりました。ではこれを見てください。」
優一はジルに頼み、魔通信の水晶を借りた。
ブゥゥゥゥゥ・・。優一が魔力を込めると水晶の中にどこかの風景が浮かびあがってくる。
「おっと、これはヴィンデル殿! いかが致しましたか??」
魔通信の反応に気が付いたガルエンは、右腕に着けている水晶をのぞき込んだ。
「ガルエンさん、お久しぶりです! そちらに変わりはありませんか?」
「ハハハハッ! こちらは全く変わりませんよ! しかし捕虜となっているアスティロン帝国の兵士達が街の建設に力を貸してくれておりまして、予定よりも早く工事が終わりそうです!」
ガルエンが水晶を街へと向けると、獣人や蜥蜴人族と共に笑い合いながら工事をするアスティロン兵達の姿があった。
「こんなバカな!!!」
男は目の前に浮かんでいる光景に言葉が出てこない。
「それは良かったです! しかしアスティロン兵が手伝っているとは・・」
「我らも驚いております。ヴィンデル殿の言いつけ通り手厚く保護していたのですがその内、攻め込んだ償いをしたいと申す者が出てきまして、今では見張りは付けていますがこうして一緒に作業をさせております。報告が遅れて申し訳ありません。」
ガルエンは自分へと水晶を戻すと、頭を下げた。
「いえ、謝るようなことじゃないですよ! 人間の方とも仲良くされているようで安心しました。そちらに戻るのが今から楽しみです!」
「私もヴィンデル殿が戻られるのが楽しみです! それでは私はまだ政務が残っておりますのでこの辺りで・・・。」
ガルエンがもう一度頭を下げると、優一は魔通信を切断した。
捕虜が殺されてないことを見せるつもりだったんだけどそれ以上の効果があったかな・・。
男はまだ信じられないという顔をしている。
「これが真実です。あなた方は偽の情報で踊らされているんですよ! それでもまだ信じられないようなら国へいらしてください。いつでも案内しますので。」
優一の言葉に男はしばらく考えこんだ。
「・・・。まだお前を信じているわけではない。しかし先ほどの映像、兵士達は本当にいい顔をしていた。あれが作り物でないとしたら私が今まで信じていたものは一体何だったのだ・・。」
男はそう言うと頭を抱え込み、何も話さなくなった。
この人は俺が思っているような人ではないかもしれない。
ただアスティロン帝国のことを信じていただけ・・・。
ガタンッ! しばらくすると馬車が止まり、外を見ると日はかなり傾いていた。
「中継点の街に到着致しました!」
ガチャッ。 馬車の扉が開き兵士の一人が報告する。
やっと着いたのか・・。馬車に長時間乗っていたからケツが痛い・・。
うーん! やっぱり外は気持ちいいな。
「・・・ルミリア様、この度の数々のご無礼申し訳ありませんでした。」
頭を抱えていた男は顔を上げると、小さな声でルミリアに謝罪した。
「・・・私はいいわ。それよりも謝る方が違うんじゃないかしら。」
男は優一に目線を移すと、頭を下げる。
「ヴィンデル、殿。申し訳なかった。しかしまだあなたの言うことを全て信じたわけではない。だが私も考えを改めないといけないようだ。」
優一はその言葉で男に振り返ると、笑顔で答える。
「それはお互い様です。これからじっくり考えて何が真実か見極めてください。ところであなたの名前は・・」
「私はランド・イスラと申す。」
「ランドさんですね。これからよろしくお願いしますね。」
優一が右手を差し出すと、ランドはしばらく考えた後それに応えた。




